第15話 最初の一歩
オリエンテーションが終わった後は、活動もなくみんな帰宅するらしい。
あとは、部長が来てくれるかどうか。
すると部員があらかたいなくなったところで、こちらに駆け寄ってきた。
「君が奈々の言っていた弟君だね、そしてそちらの子が例の」
「はい、そうです自分は彼女のクラスメイトの汐見晶って言います」
黒崎はまだ俺の後ろで気持ちを整えているようで深呼吸をしている。
ここは少し時間を稼いだ方が良さそうだ。
「そうか、君は付き添いで来てくれたんだね」
「はい、また倒れるようなことがないように。でも今回は多分大丈夫ですよ先輩。そうだよな黒崎」
後ろの黒崎に声を掛けて気持ちを押してやる、見たところ決意は固まったようでちゃんと視線は部長のほうを向いていた。
「青方先輩、先日の件については心配を掛けてしまって本当にすみませんでした」
黒崎はしっかりと部長の目を見て謝ることが出来た、少し手が震えているのが見えたがそこを我慢してきちんと頭を下げる。
「いやいや、君が謝ることじゃないよ。俺が結構前のめりで勧誘したせいで怖がらせちゃったからね、こっちこそごめんなさい」
「いえ、こちらこそ!」
これはお互いが謝りあって譲れなくなってしまっている、ここは付き添いの俺が止めるしかないと思っていたが。
「はいはい、二人とも顔を上げる!もう話はついたんだからそれで良いでしょう?」
そこに割って入ってきたのは副部長の今里先輩だった。
「奈々と充の話を聞いてね、どうせこうなるだろうと思ってこっそりのぞいてて正解だったわ」
その後ろには身内の姉もくっついていた。
「まさかこんなことになるとは、一緒にいて正解だったわ」
「まあ私もあの場にいたから一応関係者でもあるけど、先輩が二人もいたらスムーズの話が進まないかと思ってね」
今里先輩の思惑通りということだそうだ、こっちとしては正直助かっているので文句もない。
「ふう、よかったな黒崎。これでちょっとは前に進めたんじゃないか」
「ええ、ほんのちょっとだけだけどこれが私の最初の一歩目ね」
二人は確かな達成感を感じて笑った。
それを端から見てる年上達はなんだか青春しているなー、と温かい目で見守っていた。
そこでふと、思いついたことがある。
「黒崎、どうせなら二人にも事情を説明してみたたどうだ?」
二人とはもちろん青方先輩と今里先輩のことだ、陸上部のなかでも少なからず協力してくれる人がいた方が良いと思う。
その中でも上に立つこの二人なら心強い上、信頼もできそうだ。
「そうね、あの先輩方。少し聞いて欲しい話があるんですが」
そうして二人に自分が男性恐怖症という悩みを抱えていることと、その現状がどれくらいひどい状況なのかを伝えた。
「勧誘されたときに気絶して倒れてしまったのがその証拠です」
「なるほど、それで晶君はそれに協力しているわけだ。」
「はい、俺に対してはそこまで怖がられてないので。」
「なるほど、黒崎さん。まだ俺のことは怖い感じ?」
急に呼びかけられたからか、びっくりして今里先輩の後ろに隠れてしまった。
「あっ、あのごめんなさい、どうかしましたか?」
「・・・。いいやなんでもないよ。」
さすがの青方先輩もちょっと落ち込んでいる様子、まあ言葉を返されただけでもまだ良い方だと思う。
「おおっと、黒崎さん大丈夫?ほらほらよしよし貴女よく見たら凄くかわいいじゃない!うりうりー!」
捕まった黒崎は今里先輩にもみくちゃにされていた、早速仲良くなれたようでなによりだ。
「きゃっ、先輩ちょっと。どこ触ってるんですか!?」
「うふふ、よいではないかよいではないか女の子同士なんだし。おおー、これはなかなかのものをお持ちで」
「春香先輩もよっぽどだと思いますけどねー、どれどれうわあーこれは凄い」
黒崎が二人の先輩から早速女子の洗礼を受けていて、男子の俺と青方先輩は目を逸らす。
今更ながらちょっと心配になってきた。
「こら遙香、奈々もいい加減にしとけ。俺たちもそろそろ帰るぞ」
「はいはい、じゃあねみんな明日から部活頑張っていこうね」
そう言い残して三年生の二人は先に帰って行った。
「じゃあ俺たちも帰るか、姉ちゃん次のバスって何時?」
「ん?多分あと少しで来るよ。黒崎ちゃんもバスで帰るの?」
「はい、それと汐見先輩。先輩のこといろいろ聞いてもいいですか?」
黒崎はうちの姉を一目見たときからファンになったらしい、凄い前のめりになってるのがわかる。
「別にいいけど話すことあるかな?」
その姉の困った様子を眺めつつ俺も含めて三人でバス停へと歩いて行った。




