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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第一章 島の学校
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第14話 入部オリエンテーション

早朝の教室、こんな時間から登校するやつなんてそうそういない。

とはいえ、流石に今日は早すぎたのか黒崎もまだ着いていなかった。

まあ、黒崎もじきに来るだろう。

朝早い時間に起きて学校に来たためまだ眠い、黒崎が来たら起こしてくれると信じて少し寝ることにした。

しかし、目を開けた時にはもう既に周りの席は埋まっている。

時間を確認すると、もう朝の読書の時間が迫っていた。

「おはよう、汐見君。随分とぐっすり寝ていたのね」

「黒崎…ああ、おはよう」

「もしかして、朝早くから来てたの?」

「まあ、また話し合いをするのかと思って」

「流石に毎日はする必要は無いんじゃないかしら?」

「そうだよな、俺の勘違いだ」

「いえ、私もその事についてあまり詳しく話してなかったからお互い様よ」

その時、朝の読書の放送が流れた。

この時は私語はしてはいけないため、静かにしていないとならない。

今日のことについて話しておきたかったが焦ることはないだろう。

と思っていたが。

休み時間は、

「ねえ、黒崎さんはどこの部活に入るの?」

「私は陸上部に入ろうと思うの」

「そうなんだ!足すごい早かっもんね」

昼休み、

「黒崎さんー!一緒にご飯食べよう」

「いいわよ」

「やったー!」

「…(無言で席を立つ)」

全然タイミングがない、気づけばもう放課後だ。

「はいじゃあ、今日から部活動が始まります。各部活動それぞれの場所でオリエンテーションがあるから今からその場所を伝えますね」

陸部の場所を把握してから、改めて考える。

黒崎のためとはいえそこまで焦る必要があるのかということ、まだその段階では無いんじゃないかというのもある。

でも、それでも黒崎のためにもできることはやっておきたい。

「黒崎、ちょっといいか?」

「どうしたの?もう陸上部のオリエンテーションまで時間はないけれど」

「黒崎、部活に勧誘されたときにいた男の先輩って陸上部の部長だったか?」

「ええ、そうだったけれど」

「その人とはそれ以降話をしたか?」

「いいえ、学年が違うから会うこともなかったわ」

「そうか…」

「汐見君どうしたの?」

黒崎は戸惑いながらもちゃんと話を聞いてくれている、ならばこそそれに俺も答えなければならないだろう。

「その先輩ともう一度会って話をしよう、その時のことをまだ心配してるかもしれないしな」

「それは・・・」

話を聞いた彼女はかなりうろたえていた、それもそうだ男性恐怖症に加えて一度怖くて気絶してしまった相手に会うのはとてもじゃないが不安だろう。

こんなことを言ってしまったことに自分自身も後悔した、そして躊躇した。

勢いでこんなことを黒崎にさせていいのか、こんな大事な話を急に言われても困るだけだ。

「わかった」

「え・・・」

「部長さんともう一度会って話をしてみる」

その言葉に俺も戸惑いを隠せなかった、黒崎の表情には不安と緊張と決意の色が入り交じっている。

やっぱり彼女はとても芯が強いと思った。

どんなことでも貪欲に行動しようとするその姿をみて俺も腹を括ることにした。

「でも、一つだけお願いがあるんだけど。いいかしら?」

「どうした?」

「その時には汐見君も一緒にいてくれるととても心強いのだけれど。・・・お願いできるかしら?」

「わかったよ」

「ありがとう、助かるわ」

話は固まった、しかし二人は肝心なことを忘れていた。

「あっもう時間がない!」

「やばい!もう走らないと間に合わないかも」

不幸中の幸いというべきか、教室にはその時はもうすでに生徒はおらず話を聞かれることはなかった。

二人して教室を急いで出て、走ってオリエンテーションの場所に走る。

「もう、汐見君が急にあんな話をするから、昼休みとかにでも言ってくれればよかったのに」

「いやそれは黒崎に周りの女子がいたから遠慮して」

「それは今後の汐見君の課題になってくるわね」

「くっ、それは確かに」

階段を勢いよく降りていく、しかし途中で黒崎が立ち止まった。

「どうした?遅れるぞ」

「ええ、でもこれだけは言わせて」

階段の踊り場、誰もいないその空間に二人は顔を合わせた。

「私の事、真剣に考えてくれてありがとう」

「そういう約束だからな」

「だから、私も貴方の事についてちゃんと考えるから。それだけ」

「お、おう」

そういうと黒崎は先に階段を降りていく、心なしか顔が赤くなっていたような気がして俺も恥ずかしくなった。

さっきまでとは裏腹に明るい表情を見せる、これからのことに対して不安を感じさせないほどで。

「さあ、急ぎましょう汐見君。」

それから、走ったおかげで少し余裕をもって集合場所についたことに安心しつつ姉に一言声を掛ける。

「姉ちゃんちょっといい?」

「どうした?」

「部活終わった後、部長と話がしたいからそのこと伝えてきてくれない?」

「ええー、ヤダ」

普通に嫌な顔をされて断られた、でもそう簡単に引き下がるわけにはいかない。

「例の転校生の件で話をつけないといけないんだよ、頼む姉ちゃん」

こんなに必死に頼み込むのは何年ぶりだろうか、よく覚えてない。

「ふう、わかった。でも断られても知らないからね」

「サンキュー姉ちゃん、恩に着る」

「はいはい。ほら、そろそろ始まるからクラスごとに並んで座って待機」

準備は整った、後は黒崎次第。

列の誘導をしている先輩に従って、もうすでに並んでいるクラスの後ろに座る。

うちのクラスからはちらっと見た感じ男子が何人か、そして女子が少し多い程度。

列は男女別で二列、自分のすぐ隣に女子がいるのでちょっと居心地が悪い。

「あれ?晶じゃん。陸上部入るんだ」

「海、お前か」

「お前かとはなによ!?」

「ていうかお前も陸部入るのな、確かに中学の時陸上の選手に選ばれてたもんな」

彼女は、元浜海。

一応保育園からの腐れ縁。まあ島の環境ではほとんどのやつが長いつきあいになるのだがこいつは一番長いうちの一人。小学生の低学年までは仲良く遊ぶ仲だったが、あることがきっかけでこれまで喋るのを避けていた。

彼女も選抜に選ばれるほど運動能力については高い方、小学校の時には同じ陸上クラブに所属していた。

「そうだけど選手じゃなくてマネージャー。ていうか晶には関係ないでしょ」

「いや同じ部に入るんだから関係なくないだろ」

このようにちょっと天然というか、抜けてるところもある。成績はあんまりよろしくなかったはずだが、アッパークラスにいることに少し驚いた。

俺としたことが、他の生徒の自己紹介を聞き逃していたらしい。

聞く気がなかったとも言う。

「ふんっ、ほらもう始まるよ」

「ああ」

座って待機している新入生の前にぞろぞろとジャージ姿の先輩達が整列していく、その中には姉の姿もあった。

真ん中あたりから一人一歩前に出た男子生徒、おそらくあの人が部長だろう。

「こんにちは、陸上部部長の青方充っていいます。よろしくお願いします」

簡単な自己紹介の後にぱらぱらと拍手が上がる。

「こんにちは、副部長の今里遙香です。これからよろしくお願いします」

副部長は女子で、黒崎よりもなんというかプロポーションが良い。

さっきの部長もかなりのイケメンだったしやはり上に立つ人間というのは輝きのある人物なんだなと思った。

それから配られたスケジュール表を見ながら簡単に説明を受けた。

直近は五月のゴールデンウィークの長期遠征だろう、連休のほとんどが当てられていて自由にできそうなのは終わった後の何日か。

「最後に顧問の先生方から挨拶があります。それではお願いします」

陸上部の顧問は三人いる。

「ええ、皆さんこんにちは。顧問の小浜です。この度は我が陸上部に入部してくれてありがとうございます。知っての通りこの陸上部はこの高校の中で一番生徒数が多く自慢になりますが毎年上位大会に出場している実績があります、その分練習も厳しいです。でもたくさんの仲間とね励まし合ったり支え合ったりして歴代の先輩方もやってきました。その伝統を受け継いで頑張っていきましょう、これからの皆さんの頑張りに期待しています。以上」

背が高く、とても厳しい印象の顧問の先生だ。

「こんにちは、同じく顧問の有川といいます。先ほど小浜先生が言った通りうちは県内の高校比べてもレベルが高いです。確かに厳しい練習ばかりかと思いますがそれでもみんなで一生懸命頑張っていきましょう。はい、私からは以上です」

今喋った先生はさっきの先生よりは小柄(さっきの先生がかなり背が高い)だが眼鏡の奥には情熱が宿る瞳が見える。

「皆さんこんにちは、顧問の若松と申します。一年一組の生徒さん達はもう知ってるかもしれませんが改めて挨拶しますね。私は専門的な指導はできるわけではありませんがそれでもみんなのことをほかのいろんな面でサポートしていきますのでこれからよろしくお願いしますね。以上です」

最後の人は我がクラスの副担任、教室の時よりも若干テンションが高い気がする。

陸上部の顧問だからといっても元々陸上をしていたということはないらしい。

「ありがとうございました、それではこれで入部オリエンテーションを終わります。全員起立、気をつけ礼」

長くなったがこれで終わった、さてこれからは黒崎のことに集中しよう。

頭のなかで意識を切り替える。






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