第10話 一日の始まり
朝早く誰もいない教室に美少女転校生と二人っきりの時間という一般的には羨ましがられる状況ではあるが、俺にとっては依然として緊張しっぱなしである。
なんとかそれを表に出さず話を耳に入れようと必死なんだが、対しての黒崎はと言うと真面目にこの会議を進行しようとしていてその顔は真剣そのものである。
「まあ、なんにせよ俺たちは素人だ。方法も何も一から見つけていくしかないが。ひとまずやることと言ったら情報収集からだと思うんだが?」
男性恐怖症、女性に対する苦手意識の改善。
どちらも精神的な問題であり、解決法も曖昧なものだ。
しかしありとあらゆる情報が転がっている現代、検索すればヒットしないワードは無いはず。
「そうね、解決方法を調べてそれを実践していくのが今の私達に出来ること。今日はこんなものかしら」
議事録ノートが閉じられた、会議はどうやらこれにて終了のようだ。
時間は8時にはまだ早い程で、もうしばらくすればクラスの生徒が登校してくるだろう。
「朝早くからごめんなさい、昼休みでも良かったかしら?」
「いや、多分この時間が一番いいだろうな。俺はあんまり負担にはならないけども、黒崎は大丈夫か?」
「私は平気、汐見くんが大丈夫なら良かった」
会話が終わりまだ誰もいない教室が静かになる、こういう時なんだが落ち着かなくなってしまうのは仕方ない。
何か話題を探していると、頭の隅に置いておいたことを思い出した。
「そう言えば、黒崎は部活どれに入るか決まったのか?」
今日は木曜日、部活動の入部届は今週までに集めて一斉に出すことになっていてすると猶予は今日しかない。
「陸上部にしようと思う、あなたのお姉さんを見てあんなかっこいい人みたいになれたらなって思ったから」
そういった黒崎の目はなんと言うかキラキラしてるように見えた。
羨望の眼差しというかそんな感じだ、身内としては喜ばしいけど、少しむず痒いかな。
「そっか、なら俺と一緒だな」
「そう、やっぱり汐見君も陸上部にはいるのね。良かった」
その良かったに少し疑問を持った。
「俺と一緒で良かった?なんでそう思ったんだ?」
本当に理由が分からなくて直球で質問してしまう。
「だって、右も左も分からない転校生の私は知らない人ばかりの部に入るのは不安なの。一人でも知り合いがいるだけでも違うだろうし貴方を通してあの人と知り合えるかもしれないしね」
あの人とは、姉のことだろう。
確かに筋の通った話で納得した、俺と一緒で良かったの意味が分かって俺もホッとしてる。
「それでその…汐見君は私と一緒で良かった?」
「…どうして?」
その良かったもなぜそんなことを言ったのか全然理解出来なかった。
黒崎からしたら俺みたいなやつそこまで気にすることないと思っていたのに。
今まで他人に意識されたことがなく、意識されていることを認識しようともしなかった自分にとって今の黒崎の言葉には動揺を隠しきれないでいた。
「だって、私みたいな面倒な人間と四六時中一緒にいるのは嫌じゃないかなって思ったのだけど…」
それを聞いて思わず吹いてしまった。
黒崎も不安だったのだ、自分にあるコンプレックスのせいで自信がなくて。
こんな自分と付き合うことは相手にとってデメリットでしかないことを知ってしまっているから。
そういう考え方が俺にとっては痛いほど分かるもので。
正しく先程同じようなことを考えていたことを思うと笑うしかなかった。
「ちょっと…、そんなに笑うようなこと言ったかしら?」
俺が笑ったことに不満だったのか頬を膨らませていた、現実にそんなことするとは思わず顔を背けてしまう。
「いや、ごめんちょっと待ってすぐ落ち着くから」
深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「まあ、部活動も一緒なら良かったじゃない。私もさっき言った通り不安もあるから汐見君に色々サポートして欲しいのよ」
「分かった、できる限りでいいならやるよ」
そうしてると、教室にクラスメイトが入りだしてお互い話を切り上げて前を向いた。
今日も一日の学校生活が始まる。




