第9話 作戦会議
家に帰り、制服を脱いでからベットに横たわる。
一息着いた後にバス停での出来事を思い出して悶絶していた、つい勢いだったため後になって自分がとてつもない事をしたんだと思った。
結局あの後一緒のバスで帰ったのだが、黒崎の方を見ることが出来なかった。
その後は、これからの作戦を考えるため明日早めに登校するように約束をした。
人目につかないようにとの配慮だろうが、朝早いのはちょっときつい。
ただ、自分の行動に後悔はしていない。
それだけは揺るがなかった。
いつも通りの時間に家族が集まり、食事を取って風呂に入った後部屋のベットでラノベを読む。
部屋を未だに姉と弟の三人で使っているため手狭たがすっかり慣れた、今弟は居間でテレビを見ていて姉も一番下のベットでゆっくりしている。
その時、突然話しかけられた。
「晶、陸上部に入るの?」
「うん、そのつもり」
「種目は短距離?」
「あとは幅跳びもかなって思ってるけど」
「ふーん、前の一緒にいた子は?聞いた?」
「いや、全然そういう話はしてない」
「ふーん、そっか」
それからは特に会話もなく、俺はラノベの続きを読んだ。
今週ももう終わりそろそろ入る部活を決めておかなければいけない、黒崎の方も多分決まっているだろう。
明日の早朝に会う約束をしているからその時にでも聞いておこうかなと少し思った。
高校生になってからも母親に起こしてもらい、寝ぼけながらも用意された朝食を食べる。
朝のテレビを眺めると今日も晴れだそう、時間を確認するとまだ余裕があるが今朝は早めに家を出ることにした。
まだ明け方の薄暗いなかを歩いてバス停へと足を運ぶ、上を見上げると雲ひとつない綺麗な青い空が広がっていた。
待ち時間をラノベで潰しつつバスに乗り込んで学校へと向かう、目をつぶって少しすると峠を降りて学校が見えてきた。
バスを降りて校門を抜け橄欖通りを通り生徒玄関で靴を履き替える。
教室棟はまだ朝早いため人気がなく静かだ、廊下もどこか薄暗い。
教室に入っても黒崎もまだ来ておらず誰もいない、自分の席に着いて黒崎が来るまで寝ることにした。
しばらくすると教室の扉を開ける音で目を覚ます、音がした方を見ると黒崎が教室に入ってくるのが見えた。
「おはよう汐見君、早かったのね」
「おはよう、黒崎がいつ来るかわからなかったから早めに来てただげだよ」
「そう、それじゃ約束を通り作戦会議を始めましょうか」
黒崎も自分の席に着いて、俺は後ろを向く。
作戦会議のために昨夜も色々考えてきたがこれと言ってピンと来たものはなかったが参考までにはなるだろう。
「では、まず改めて克服しないといけないことを明確化しておきましょう」
「お、おう了解」
細過ぎる、これも性格なのかと思ったがバックから取り出したノートの表紙に対策議事録と書かれていたのを見た時は流石にビックリした。
「ガチじゃん…」
「何か言ったかしら?」
「いや、なんでもない(薮蛇だな)」
「まず一つ目が私の男性恐怖症、そしてもう一つが貴方の女性に対する苦手意識を無くす事ね」
「え?俺のも含まれてんの?」
「当たり前でしょ?昨日自分で言ったじゃない協力ではなく共同、お互いに成長していくって」
「ああ、そうだったな」
昨日のあの言葉のことはすっかり頭から離れており黒崎のことしか考えていなかった、嘘や詭弁ではなかったが自分の問題はそこまで深刻な問題でもなかったからかもしれない。
「それで、なんで女性が苦手になってしまったの?」
「えっ?それ聞く?」
「あら、私は話したのに貴方は何も言わないなんて公平ででしょう?」
「…そうだな、でもしょうもないことだぞ?」
「それは聞いてから私が判断する」
「分かった」
当時小学生五年生の時に保育園の時から一緒だった女子に告白したのだが、その時はなんの考えもなしに突撃したため結婚の申し出もしてしまい見事に玉砕してしまった。
それからというものクラスの全員から思春期真っ只中の男子として見られ、男子からは弄られ女子からは目の敵にされてきた。
クラスの中で俺の呪いというものが流行り、教室で呪いのなすり付けあいがあったり隣の席では机をくっつけるのだが俺の隣の女子は席を離したりしていた。
近づけば距離を置かれ、侮蔑の視線を浴びせられた。
修学旅行の夜に部屋で気になる女子について話す時に、全員一致で俺から話すことになりその時は純粋に話すが今思えばその夜は結局俺一人しか話しておらず旅行から帰るとその話がクラスに知れ渡っており名前を出した女子は落ち込んでいた。
その状況は小学校を卒業してからも変わらず、中学校の時は机に入れていたラノベのエロい挿絵を見られて変態扱いされ、女子の敵になっていた。
それ以来まともに女子と話したことすらない。
そういう経験から女子と関わることはしなくなり時間が経つほどに女性への苦手意識というかもはや恐怖すら感じるようになった。
女子と関わる度にあの時の辛辣な言葉や侮蔑の視線がフラッシュバックして死にたくなる、中学生の時は本気で自殺を考えたほどだ。
今というものその辺は薄れているが積極的に関わろうとは思えない。
「でもおかしいわね、私には普通にしてなかった?」
「初対面の黒崎ならもはや他人として見るから性別はあんまり関係ないんだと思う。…まあ内心は結構疲れるけど」
「それはちょっと分かるかもしれない、私にとっての汐見くんがそうだもの」
「まあ、俺の場合精神的なものだけど黒崎の方は身体的にも影響が出てるけどな」
「ええ、それが問題なの。だから私はこのトラウマを克服したい」




