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女子高生の魂がない魔王の娘だったら

連載中の「基本(残酷な)死亡エンドしかない悪役の姉に転生~魔王の娘の持って生まれたチート能力で将来安泰を目指す~」の『もしも』のお話です。

もしも、女子高生の魂が付着しなかったら……

 


 あの日々は嘘であってほしいと何度も願う。大好きな母様はユーリをコーデリア様から庇って死んでしまい、異母弟としか見ていないユーリが()()か好きと思い込み、大切な妹アイリーンといるだけで激しい嫉妬心に駆られ言いたくもない暴言を吐き、時に暴力まで振るった。

 何時しか、コーデリア様の亡霊とまで言われる様になった私を見てくれる人はいなくなった。愛してくれていた父様にさえ見捨てられ、“処分”も間近だと耳にした。殺される前にアイリーンを殺してやる。全然思ってもいないのに、ずっと前から体が見えないナニカに体を操られている私にはどうする事も出来なかった。せめてもの抵抗で、私の意志で動ける時は抗う術を探り、私と昔の仲良し姉妹に戻れると信じて歩み寄るアイリーンを態と遠ざけ――


 ……どれも失敗に終わった。


 “処分”される日、死ぬ前にアイリーンを殺す為に部屋へ呼び出し、いつも以上に激しい暴力を加えていた体が不意に止まった。理由は分からない。でも、チャンスは今しかないと私は瞬時に編み出した氷の刃を自分の腹部へ刺した。

 痛い。アイリーンが受けてきた痛みと比べると全然足りない。ちゃんと死ねる様に更に奥深く刺した。


 意識がぼやけ、耳が遠くなる。


 アイリーンの泣く声が聞こえる。



「よか……た。さい、ごに……あい……り……のおねえ、ちゃんのままで……死ね……て」



 これは心からの本心。コーデリア様の亡霊、妹を虐め魔王に見棄てられた王女。何と呼ばれても私の体が私の自由になることはなかった。

 ……最後に、自分の手で終わらせて……父様の手を汚さずに済んで……良かった。

 辛うじて保っていた意識はぷつりと途絶えた。




 ――次に目を覚ました時声が出なかった。姿見の前に映る自分の姿に言葉を失った。何処をどう見ても幼い頃の自分。死んだんじゃないの? どうしてまた子供に戻ってるの? これは夢? 強く頬を引っ張ると痛覚はあった。


 現実だ。



「どう……なってるの……?」



 あの時私は死んだ。自分のお腹を魔術で形成した氷の刃で突き刺して。



「……」



 時間が巻き戻った? もしそうなら、どうして? というか、今何歳? 見た感じ10歳っぽいけど……。

 金の装飾が施された姿見の前で呆然としたままでいると控え目な声が届いた。見ると、扉を少し開けてアイリーンが恐る恐るとした感じでいた。

 私と同じ金髪に青いリボンが結ばれてる。あれはアイリーンが9歳の誕生日に父様から贈られたリボン。ということは、少なくとも私の年齢は10以上になる。怯えた様子のアイリーンにも納得がいく。この頃には、既にアイリーンにいつも暴言を吐いて時に叩いてもいた。



「ね……姉さま……あの……」



 ……前までと違う。前の私なら、アイリーンの姿を見ただけで消えない苛立ちを抱いて傷つけてばかりいた。悪感情が丸でない。時間が巻き戻った影響? でも、うーん。



「姉さま……?」



 私は何度もアイリーンに告げた。近付くな、と。それは私に近付いたら危険だから。周囲の人たちも私とアイリーンを近付けさせようとしなかった。が、アイリーンは私に何度でも会いに来る。元の私に戻ってと。何度も願った。……結果は残念に終わったけど。

 予想が正しければ、今の私は既にアイリーンを虐めてすっかりと皆に嫌われてしまっている。巻き戻るなら、母様が死ぬ前にしてもいいのに……! 

 と誰に文句をぶつければいいか不明な怒りを抱きつつも、申し訳ないけどアイリーンをスルーして室内を見渡す。魔王の娘らしく、調度品はどれも最高級なものばかり。でも運べない。宝石とかに全く興味ないからない。


 あるのは……。



「“記憶”だけ、か」

「姉さま……あの、今日」



 覗き込むだけだったアイリーンが呼び掛けに応じない私を心配して部屋に入る。侍女トリオは何してるの! これが前回だったら、目にした瞬間アイリーンに何をするか分かったものじゃないわよ!!


 けどだよ。“記憶”があるということは、前回謎のナニカに抵抗する為に会得した魔術や頭に溜め込んだ知識もあるということ。魔力容量(キャパシティ)は元からあるし、魔力操作(コントロール)も磨いていけば上達する。


 お金に変えて売る物がなくても私には魔術と知識がある。


 私はクルリとアイリーンの方へ振り向いた。いきなりの行動にビクッとアイリーンが驚いても気にせず。



「ごめんね。こんなお姉ちゃんで」



 ずっと、謝りたかった。大切なたった一人の妹に沢山酷い事をして。


 突然の謝罪に目を丸くするアイリーンに私はこう告げた。



「もう私にアイリーンの姉である資格も、父様の娘である資格もない」

「姉さま……? 何を言って」



 言っている意味が分からないと顔を歪めるアイリーンに構わず、私は外へ駆け出した。「姉さま!?」と叫ぶアイリーンに心からの気持ちを伝えた。



「アイリーン! アイリーンは私の大事な妹よ! でも、もう私の事は忘れて傷付いた分幸せになって!!」



 私が傷付けてしまった分、私が幸せにするのはきっと無理だ。今は何ともなくても、また何時前みたいにアイリーンを傷付けるか分かったものじゃない。時間は外の様子からして昼。昼は基本執務室で仕事をしている父様と鉢合わせる確率は低い。アリス宰相も父様といるし、レオンハルト団長も基本いる。暇じゃない筈だけどね。リエル叔父様は城内をフラフラしているのが多い。

 部屋を飛び出して走る私の横を過ぎ去る騎士や侍女達は皆驚いた表情で立ち止まる。「アフィーリア様!?」「何処へ行かれるのですか!」「アイリーン様を探して! きっとまたアイリーン様に何かしたんだわ!」……最後の侍女の言葉に自業自得でも心に刺さる。好きでアイリーンに酷い事したんじゃない。


 城のエントランスホールへ来た。もう少しで外だ!



「お止まりください! アフィーリア様!」

「ここから先はお通し出来ません!」



 嫌よ。もう私はアイリーンを傷つけたくない、父様にこれ以上嫌われたくない、……自分が自分でなくなっていくのを無力なまま見ているのはもう嫌……っ

 目頭が熱い。視界が潤む。泣いている暇も、溢れる涙を拭う暇もない。出口を封鎖する騎士達に罪はない。ないけど――



「《踊れ風の乙女》!」



 左手を突き出した。掌から放出された膨大な風の波が騎士達を易々と呑み込んだ。踊る様に周囲を舞う風の中に捕らわれた騎士達は尚も制止の声を叫ぶ。現場検証がされれば、悪いのは全部私だと判断されるだろう。

 城を出て、次に向かうのは森の中。

 私だって無意味に走っているんじゃない。エントランスホールから出た方が近道になる。森の中には、人間界に通じる(ゲート)があると前回知った。

 アイリーンから、父様と関係なく生きるには魔界にいられない。最後に残されたのは人間界への道だけ。ずっと遊び場として使っていた森の奥をひたすら走った。何時追手が来るかも分からないから、無我夢中で走り続けた。



「はぁ……はぁ……っ」



 どれくらい走り続けたのか。鬱蒼とした森の中が急に薄い霧に覆われた。進む毎に濃くなる霧を頼りに走り続け――見つけた。



「これが……人間界へ繋がる扉」



 霧に包まれた真っ白な扉。目視で確認しても魔術が施されている形式もない。


 遠い方から、私を呼ぶ声が届く。


 立ち止まっている暇はない。ゴクリと唾を飲んで早足で扉の前に立った。ドアノブがない。試しに扉を押した。簡単に開けた扉にビックリしつつ、何も見えない先に緊張と恐怖が生じる。この先が人間界。人間界がどんな場所か全然知らなくても、人間に魔力はないから魔術を扱えない。狡いけど幻術を使って騙す事が可能。



「アイリーン……」



 見なくなった城の方を向いた。きっとアイリーンは父様に私の脱走を話しただろう。声の数が多くなったのが何よりの証拠だ。



「父様! アイリーン!」


 此処にいない、もう会うつもりのない父様とアイリーンに届くように大きな声を出して心からの言葉を発した。



「私は父様と母様の娘で、アイリーンのお姉ちゃんで――――








 幸せだったよ……!!」






 例え……もう誰も私を愛していなくても……


 そして、最後に大きく息を吸い込み――――



「後、私が――――異母弟(おとうと)でしかないユーリを好きになる訳がないでしょおおぉ!!! 私は父様以上に好きになれる相手じゃなきゃ御免よおおおぉー!!!」



 前回ずっと言いたかった心の内を大放出して行ったのであった。






 ――――この日、魔界から一人の王女が姿を消した。森に響いた王女の叫びが最後の声であった。渾身の叫びは城まで届いており、アフィーリアが元に戻ったと喜ぶも既にその身は人間界に落ちたと知らされ大混乱を招いた。また、一人大きな衝撃と混乱とショックを受けたのがいる。声が届いていると思わない、仮に思っても大嫌いな相手に何を言われようと嫌悪しか抱かれないと決め付けているアフィーリアには関係のない話である。



「さあ! 人間の人達には申し訳ないけど、魔術を使って生活させてもらいます!」





こうなりました。

ぼんやりと考えた話としては


落ちた先がある王国にある孤児院の前

怪我をしている人がいたから何も考えずに治癒魔術を使用。怪我完治。怪我人は『聖女』様と感涙してアフィーリアに感謝する

経緯を聞いた優しい孤児院の院長がアフィーリアを保護してくれる。その際に『聖女』が何か教えてもらう。意味を知って全然違うと否定。でも周囲の人々は怪我を治してくれたアフィーリアを『聖女』様と敬う。

アフィーリアの必死の懇願でこの事は孤児院の秘密となり、代わりに住まわせてもらうことに。ある日、貴族の男性が来てアフィーリアを引き取りたいと言う。



ここからはあるあるですね。想像が色々と出来て楽しかったです(*^^*)

魔王の娘が『聖女』ってアリなのかナシなのか……。

あと、魔界側の人達も当然アフィーリアを捜索しています。人間界も広いですから、何時見つかるやら。


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