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書きたい病が発症しました1


………短編ではアシェリート視点で終わりとしましたが、書きたい病が発症しました。活動報告でもチラッとお知らせしましたが、連載の準備をしていたら無性に書きたくなりました。ごめんなさい。

ネタ帳でこっそり投稿なのでお許しを―!!



……あ、ラリマー視点ですがハッピーエンドです。ラリマーではないです。困ったお二人がです。



 

※ちゃんとしたタイトルは「逃げた姉を永遠に嫉妬し続ける妹1」です





 ――とても羨ましかった。あの綺麗な紫色の瞳に見つめられるお姉様が

 ――とても悔しかった。彼に好意を抱かれているのはわたしなのに、優秀なだけで跡取りから未来の公爵夫人になると決まったお姉様が

 ――とても悲しかった。わたしと彼は両想いなのに、人のいない場所で彼と口付けを交わしたお姉様。その場所はわたしの場所なのに



 ヴァーミリオン伯爵家令嬢ラリマー=ヴァーミリオン。母親譲りの青緑の髪に空色の瞳の美少女。可憐な妖精を彷彿とさせる容姿に異性は見惚れ、誰もが彼女を守りたくなった。華奢な体は強く抱くだけで折れてしまいそうな程細く、瑞々しい唇から発せられる声は鈴を転がしたような音色をしていた。両親は常にラリマーを可愛がった。欲しい物があれば何でも与えてやり、どんなお願いも叶えた。

 けれど、1つだけ両親でさえも叶えられない願いがあった。



「ふえ……あああああぁ……!」



 可愛らしいぬいぐるみに囲まれたベッドの上。枕に顔を埋めて泣くラリマーを幼少期より仕えている侍女達はどう声を掛けて良いか分からず困惑していた。

 ラリマーには、双子の姉がいる。スカーレット=ヴァーミリオン。父親譲りの炎に燃えるような赤い髪と瞳の少女。性別が女性といえ、長子として生まれた為にヴァーミリオン伯爵家を継ぐ跡取りとして幼少の頃より厳しい教育を受けてきた。この国では、生まれて半年経った赤子は魔力検査を受ける。双子の姉妹も例外ではない。ラリマーは水属性で普通の魔力量だったが、姉のスカーレットは珍しい炎と光の複数属性で魔力量も王族に匹敵する程膨大なものだった。生まれた時から後継者となるに相応しい才能を持ったスカーレットを、両親は立派な女伯爵として、淑女となる為に3歳の頃より厳しい教育を受けさせてきた。

 スカーレットの才能は魔法だけではなかった。優しさの欠片もないと噂される厳しいマナーレッスンの教師の授業にもしっかりと付いていき、決して笑顔を見せないと言われていたのに教師はスカーレットに笑みを見せた。また、ダンスレッスンや伯爵としての勉学にも励んだ。どの先生も実力はあるが厳しいと評判の人ばかり。それでも、皆スカーレットが上達していく度に――時に厳しくする時もあるが――自分のことのように喜び、誉めた。


 対して、スカーレットの双子の妹して生まれたラリマーは、跡取りではなくても、将来何処へ嫁いでも恥ずかしくないように淑女教育を幼い頃から受けていた。此方も、多数の令嬢を立派に育て上げた教師に習った。しかし、ラリマーはスカーレット程に忍耐も強くなければ、勉学に精を出す性格でもなかった。初めは、何か出来る度に両親が誉めてくれるから苦手な勉強やマナーレッスンを耐えた。次第に内容も難しくなっていき、ラリマーは問題が分からなくなった。担当教師はラリマーが分かるまで根気強く教えた。それでも分からなくてラリマーは泣き出してしまった。

 ラリマーの泣き声を聞いて駆けつけた伯爵夫人アレイトは、担当教師にラリマーが泣いている理由を詰め寄った。分からない問題をラリマーが理解するまで分かりやすく解説していただけと弁解すると――



『うわあああああああん!! わたしはどうぜっ、おねえざまみたいに頭よくないもんっ!!!』



 担当教師はラリマーがスカーレットより劣っているとは一言も口にしていない。過去の授業でもそう。兄弟がいると、どうしても上と下、下と上で才能に差が開くことはある。幾つもの家の令嬢令息を指導してきた教師だからこそ、姉妹の差を決して誰にも言わなかった。

 娘の叫びにアレイトは強く教師を睨んだ。睨まれた教師は誤解だと弁明するも、アレイトからの勧告に従わざるを得なかった。

 泣き叫ぶラリマーを抱き締めたアレイトは、この日からラリマーには無理に勉強をさせなくなった。

 また、担当教師もこの日から姿を見せることはなかった。



「ひぐっ、ふええ、あああああああ!」

「ら、ラリマー様、どうされたのですか、そんなに泣いて」



 何時までも泣いているラリマーをそのままには出来ない。リリスは意を決してラリマーに涙の理由を訊ねた。枕から顔を上げたラリマーは、涙に濡れた顔のままリリスに話した。



「あしぇ、アシェリート様に会いに行ったら、こう言われたのっ」



 ――これ以上、俺に付き纏うな

 ――アシェリート……様?

 ――……スカーレットの為にしてきた結果がこれか。……俺の前からさっさと消えろ



 リリスや他の侍女は何も言えなくなった。



「どう、して、どうして! わたしとアシェリート様は両想いなのに! 邪魔なお姉様がいなくなれば、もう誰の目も気にせず愛し合えるのに!!」



 アシェリートはスカーレットの婚約者。そのスカーレットは、2週間前姿を消した。

 ……今まで育ててもらった恩として、多額の金と離縁状を置いて。置き手紙はなかった。否、離縁状が置き手紙代わりだったのかもしれない。


 今、ヴァーミリオン伯爵邸は非常に重い空気が漂っている。スカーレットが消えた日から、母アレイトは寝込み、父クリムゾンは生気の抜けた顔で日々を過ごしている。ラリマーだけがある意味元気だった。これで心置き無くアシェリートと愛し合えると信じたから。スカーレットが消えたその日から、アシェリートに会いにオルグレン公爵家へ通い詰めては追い返された。会えたのは昨日。やっと会えたのにアシェリートから放たれた言葉にラリマーの心はボロボロになった。屋敷に戻ってからずっと泣いている。

 ラリマーが泣いていたら、真っ先に駆け付けてくれる筈の両親は来ない。



「ど……して!! どうしてよぉ……!!」



 ラリマーが姉の婚約者と両想いと思い込むのは、本人だけでなく周囲もそう思っていた。婚約者の妹に好意を寄せるアシェリートと婚約者がいながら姉の婚約者に想いを寄せるラリマー。実際、2人が一緒にいる方が多かった。アシェリートが屋敷に訪れてもスカーレットと一緒にいる所等1度も見たことがない。

 ――真相は実に単純だ。ラリマー付の侍女達が、誰1人アシェリートの訪問をスカーレットに行かないようにしていたから。そうすれば、我が儘で見た目だけしか取り柄のないラリマーのご機嫌は常に良くて余計な癇癪に巻き込まれずに済む。

 アシェリートと一緒にいれるだけで常に有頂天となっていたラリマーは今も気付かない。2人と言っても、場所は常に人目のある庭園。距離も一定を保ち、決してラリマーに触れなかった。向けられている紫水晶が優しげに見えても何の感情もなかったことに。会話もラリマーがずっと一方的に話してアシェリートは相槌を打っているだけだと。




 ◆◇◆◇◆◇

 ◆◇◆◇◆◇



 ――ラリマーがアシェリートと会ったのは、10年前オルグレン公爵邸で行われたお茶会の場。公爵夫人のシュガーと一緒に招待客を迎えていた。姉妹の母アレイトとシュガーは友人で、時折こうしてお茶会に誘い会う間柄だった。母親同士の挨拶が終わるとアレイトが姉妹に挨拶をするよう軽く促した。

 姉の斜め後ろに立ったラリマーは頬を染めた。癖のある黒髪に美しい紫水晶の瞳をした少年。緊張しながらもしっかりとカーテシーを披露したスカーレットに続いて、ラリマーもぎこちないながらも挨拶をした。終えるとまた少年を見つめた。



(あ……)



 少年と目が合う。固まったまま動かない少年がビクッと肩を跳ねさせた。ちらっと横を見るとすぐに視線を戻し、自己紹介をした。



「ようこそお越し下さいました。ヴァーミリオン伯爵夫人。スカーレット様。……ラリマー様。オルグレン公爵家長男アシェリート=オルグレンです」



 ふわりと笑ったアシェリートにこの時のラリマーは心を奪われた。そして、それはアシェリートも同じだと確信した。



(アシェリート様はずっとわたしを見ていたわ! わたしが可愛いから見惚れていたのね!)



 実際は、斜め前に立つ双子の姉に見惚れていた。と思わなかった。両親や使用人が常に可愛いと誉めてくれる笑みをずっと浮かべ続けた。



 ――お茶会が始まった。

 ラリマーは知り合いの夫人と花を咲かせるアレイトのドレスに引っ付いたまま何処へも行こうとしない。スカーレットが気を遣って一緒に行こうと誘うも、嫌だと断った。ラリマー程でないにしろ、スカーレットもお茶会に参加する。そこで友人を作るが、スカーレットの友人は皆ラリマーに厳しかった。姉は何も言われないのにどうしていつも自分だけ。気に食わなかった。例え、令嬢としてのマナーがなっていないから注意されていてもそれが理解出来ない。屋敷に戻るとアレイトに泣き付き、姉であるスカーレットが叱られた。妹を大切にしない、挙げ句に友人に虐めさせようとする最低な姉と。スカーレットが反論してもラリマーが泣いているだけで被害者だと判断する母に何を言っても無駄だった。


 会場内を見渡した。



(アシェリート様はどこかしら?)



 すっかりとアシェリートを好きになってしまったラリマーは周囲へ視線を泳がせた。視界に入る範囲には見当たらない。自分から動き出して見つけるしかない。

 アレイトに友人の所へ行くと一声掛けて動き出した。広い場内を探してもアシェリートの姿はなかった。代わりに、アシェリートと一緒にいた濃い桃色の髪をハーフアップにした同じ瞳の少女がいた。「あの」と声を掛けようとする前にメイドに何かを言い付けていた。



「じゃあ、頼んだわよ」

「はい」



 ジュースの入ったグラスを2つ置いたトレイを持ってメイドは庭がある方へ行った。誰に渡しに行ったのか気になって視線を向けたラリマーは頬を赤く染めた。庭で探していたアシェリートがいた。何故か、姉のスカーレットもいる。

 2人で何をしていたか知らないがやっと見つけた。夢中になって走った。途中、移動していた使用人がラリマーが急に飛び出して転びそうになったり、ドレスの裾を持って走る姿に眉を寄せる夫人もいた。

 急いで2人の所へ駆け付け、スカーレットを呼んだ。ラリマーに気付いたアシェリートは顔を顰め、スカーレットは驚いた後「ラリマー! 走ってはいけません」と注意をした。立ち止まったラリマーは何故注意をされなくてはいけないのかと首を傾げた。アシェリートがいたから来ただけなのに。どんなにスカーレットが正しい行動を取ろうとも、ヴァーミリオン家で可愛いのはラリマー。そのラリマーが泣き出せば、当然彼女を溺愛するアレイトは騒ぎを聞き付け駆け付けた。泣いているラリマーを抱き締め、当たり前の注意をしただけのスカーレットを叱った。表情を強張らせ、小さな体を震わせるスカーレットにラリマーは心の中で舌を見せた。何時だって正しいのは愛されている自分なのだと信じているから。

 見兼ねたアシェリートが前へ出ようとする前に開催主のシュガーがやって来た。すぐにアレイトはスカーレットが騒ぎを起こして申し訳ないと謝罪をしたが、口元を扇子で隠したシュガーの表情は険しいまま。

 そしてスカーレットに謝罪をするよう強制した。が、シュガーが一蹴した。



「黙りなさい。彼女は謝るようなことはしていないでしょう? スカーレット嬢とアシェリートに飲み物を運んだメイドに聞きましたが、どう聞いても悪いのははしたなく走り出したラリマー嬢であって、注意をしたスカーレット嬢は悪くないわ。姉として当然の注意をしただけじゃない。それを何ですか? 泣いている子が被害者で注意をした子が加害者になるの? 全く、よくそれでわたしの開くお茶会に連れて来たものね。知っていたら、スカーレット嬢だけを連れて来るよう書いていたのに」



 一切の容赦がない氷の言葉(やいば)がアレイトとラリマーに突き刺さる。

 シュガー=オルグレンは王国の『氷姫』と呼ばれる程、無慈悲で冷徹、そして他者の追随を許さない美貌の女性。また、現国王の妹で元姫君。夫であるバルーン=オルグレンとは珍しく恋愛結婚で家庭でのシュガーを知らない者は皆、『氷姫』を嫁に貰ったバルーンに同情気味だった。

 ――と、オルグレン公爵夫妻のことは今は置いておこう。


 決して大声を出している訳でも激昂している訳でもない、淡々と、冷静に事実を述べるシュガーを真っ青な表情で見上げるアレイトとアレイトに抱き締められ守られているラリマーは、丸で化け物を見るような目でシュガーを見ていた。

 その後、シュガーの呼んだ使用人に母共々客室へ連れて行かれた。途中、後ろを振り返るとアシェリートが姉スカーレットに話し掛けているのを目撃した。

 客室へ運ばれ、真っ青な顔をしたままソファーに座ったアレイト。ラリマーは「お母様……」と呼ぶも反応はなかった。






長かったので今回は切りました。


では((((ヽ(;^^)/

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