起きたらプレイ前の乙女ゲームの役割不明な令嬢になってました
高校を卒業して就職した会社は時間だけがブラックだった。残業手当も深夜手当も休日出勤手当もしっかりと出してくれる会社だったが、如何せん仕事量がとんでもなかった。製造業な為、多少の残業があるけど大丈夫? と面接時言われたのを思い出す。1時間2時間の世界だろうと思った当時の自分を蹴りたい。通常は朝8時15分から勤務で定時が17時。研修の3か月を過ぎた日から、夜の8時まで残業。そのまま、日数が経っていき、気付けば定時が22時が基本となっていた。無論、基本給+残業手当+22時を超えるとつく深夜手当が加算されて高卒な割に給料は多い方だった。家族には何度か転職を勧められるもずるずると仕事へ行った。気付くと勤務年数3年は経過していた。
が、やっぱり限界はある。まだまだ若いから休みの日は遊びたい。休日も会社のカレンダーで決められているから土曜休みは月に3回か2回、年末は日曜日しか休みがない。なので、休みは基本寝ていた。寝るしかない。暇な時期もある。5月6月7月。9月から繁忙期にかけて忙しくなる。
学生時代は楽しんでいたゲームも漫画も働き始めてからすっかり疎遠となった。
日曜日の朝、貴重なゴロゴロタイムを楽しんでいると学生時代からの友人からメールが届いた。内容はこう。
[今はまっている乙女ゲームすっごく面白い! ――が好きそうなキャラもいるから、やってみて! パッケージの写真送るから買ってみそ!]
である。
添付された写真を見ると確かに自分好みなイラストだ。内容も確認するも悪くない。実家暮らしで残業三昧で遊びに行く時間がない為にお金は同い年の子と比べるとある方だと思う。お昼から、ゲームショップに行って買いに行こうと彼女は決めた。
(あ~、でもこの絵……確か姉も面白いとか言ってたな~。どんなだっけ、確か――――)
彼女の意識はここで途絶えた。
*****
目を覚ました彼女が次に見た光景は、眠る前のものと大きく異なっていた。古い木製の低い天井が高い真っ白なシャンデリア付の天井へと変貌を遂げていた。
「へ」
間抜けな声を漏らす。ぱちくりと瞬きをした。何気なく、手を視界に入れた。
「ええっ」
小さい、明らかに子供の手。
固まっているとコンコンとノックをする音。「失礼します」と言って入って来たのは、10歳位の男の子。子供用の燕尾服を着たハニーブロンドにアクアマリンの瞳の格好いいより可愛いが似合う。
「お目覚めですか、ベアトリクス様」
(ベアトリクス? 誰? ってか、君も誰?)
聞きたい事が山程あるのに、起きたら子供に――それも全くの別人っぽい――なっていたせいで頭が混乱としている。
「お嬢様?」
呼び掛けても反応しないベアトリクスを心配する少年。
だが、彼女に少年を気にする余裕がない。
(思い出せ、思い出せ、思い出せ! 私は確か寝て、起きたら友人と姉が好きな乙女ゲームを買いに行くと決めていて……)
寝てからの記憶が一切ない。
悪役令嬢ですがね(笑)
ゲームの内容を知らないから、自分が何のキャラになったのかも不明な主人公がああでもないこうでもないと必死に平和な生活を目指して生きるお話です。
多分。