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悪魔か天使か ※没回


ファウスティーナがベルンハルドに言われた止めの言葉を思い出したらとは最初思いましたがそれだとずっっっとシリアス展開になって私が書けないとなって没になりました。

途中までですが供養のつもりで追加します( ノ;_ _)ノ


 


 外から屋敷に戻ったファウスティーナはリンスーを連れて部屋に一旦入った。ブランケットを置き、朝の身支度を済ませたかった。洗顔の用意をお持ちしますとリンスーが部屋を出ると、机の引き出しの奥に隠していた【ファウスティーナのあれこれ】を引っ張り出した。ページを開き11歳と書かれた以降、何も書かれていない白紙と睨みあう。



「本当に困ったものね……」



 前の自分の記憶が戻ったなら、どうせなら全部を思い出したい。そうしたら、2度と同じ過ちは犯さず、誰も不幸にならない幸福のハッピーエンドのシナリオを描けるのに。現実はほぼ覚えていないのと同じだから頭を悩ませる。

 ふと、ファウスティーナはある本の存在を思い出した。公爵邸で見つけた『捨てられた王太子妃と愛に狂った王太子』という、題名から既にドロドロの愛憎劇必須な本。中身は子供が見たら赤面もののあの本。無性にあの本が気になる。王太子妃と王太子が愛し合う場面は鮮明に書かれているのに、その後は書いていない。

 覚えているのは、2人は運命の女神フォルトゥナによって“運命の恋人たち”になったこと。“運命の恋人たち”に関する本を『リ・アマンティ祭』当日に足を運んだグレゴリー書店で見つけている。運命によって結ばれた恋人たちが幸福のまま終わるハッピーエンド。


 ファウスティーナが理想とするベルンハルドとエルヴィラの姿。



「アエリア様や私以外に前の記憶を持っている人っていないのかな……」



 探せばいるのかもと抱くが望みは薄い。それよりも、急に可笑しな事を言い始めたファウスティーナの精神を疑われる。これは絶対に止めようと首を軽く振った。

【ファウスティーナのあれこれ】には、11歳の出来事を書きたくて何度か試した。思い出そうとすると痛くなる頭と戦いながら。結果は白紙が物語っている。リンスーが戻るまでにまだ時間はある。再度、挑戦してみた。



「うう……」



 11歳以降、11歳以降、と念じ記憶の奥深くを塞ぐ白い靄の奥を行こうとすればするほど頭痛が酷くなっていく。我慢をして靄の奥を見る。

 額から流れた一筋の汗が床に落ち、小さく濡れた。それにより、微かに見えた光景があった。似合いもしないのにエルヴィラが着るリボンとフリルが沢山ついたドレスを着た自分とベルンハルドが言い争う場面。何を言っているのか、言われているのかまでは分からなくても決して良い雰囲気じゃない。

 何かを言い放った自分に対し、ベルンハルドは瞬時に顔全体に怒気を滲ませ声を放った。何を言っているのか分からなくても彼を怒らせた事だけは理解出来る。

 だが――――声が濃く脳に響いた。


 “お前のような底意地の悪い相手が婚約者となった僕の気持ちにもなれ! お前は僕の唯一の汚点だ!”



「――――」



 まだ、リンスーが戻らなくて心底良かったと安堵しているファウスティーナは、反対に全身から血の気が失せていくのを感じていた。

 知っている。とても、知っている台詞。視界が霞む、足が震える、呼吸が苦しい。思い出さなければ良かった。思い出したいと願っていたのは他でもない――自分自身なのに。

 床に座り込んだファウスティーナは呆然と綺麗に掃除されている床を見つめた。そうだ、あれは11歳の時に投げられた言葉。ずっとベルンハルドに好かれたくて、仲良くなりたくて必死に話し掛けても初対面の失敗のせいで嫌われたせいで何時だって嫌そうな顔をされた。何が切欠か、までは思い出せない。でも、エルヴィラと関連がある。何だったろうとぼんやりと考える。きっと婚約者よりもエルヴィラを優先するベルンハルドを詰り、今までの鬱憤を爆発させたベルンハルドに反撃されたのだろう。


 記憶を取り戻してからのベルンハルドとの思い出が蘇っていく。愛情はなくても、信頼が満ちた瑠璃色の瞳を向けられた時どれだけ嬉しかったか。向けられた言葉の一句一句ファウスティーナにとって大切なもの。


 唯一の汚点と吐き捨てられた。ベルンハルドの為に、認めてもらえる為に努力してきた事全てが無駄になった瞬間。ファウスティーナは悟った。ベルンハルドとエルヴィラがお似合いだと絶対に譲らないのかを。唯一の汚点と叫んだ自分とでは、ベルンハルドは決して幸福にならないからだ。俯くと沢山の雫が床を濡らしていった。

 誰も不幸にならない婚約破棄を願って行動をしてきた。どれだけ空回りしようが。

 前の自分が悪かったのは誰が見てもそうだった。ベルンハルドに汚点と叫ばれてしまったのも自業自得。今が良好なのは、前の自分の記憶を取り戻したから。良好でも、時折チラつくベルンハルドとエルヴィラ。教会に移り住んでからも偶に寂しそうにしている。



「……殿下……ベルンハルド……様……」



 唯一の汚点と叫ぶほど、嫌いな相手と婚約継続したのはファウスティーナが女神の生まれ変わりだったせい。エルヴィラと結ばれなかったのは女神の生まれ変わりではないから。



「エルヴィラが、女神の生まれ変わりだったら、良かったのにっ」



 両親のどちらに似ようがどっちでもいい。女神の生まれ変わり以外であったなら。




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