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互いを勘違いしている王子と令嬢

 

 

 

 魔王城の広大な庭に生える大きな木の幹に隠れて、陽光を浴びて寄り添い合う男女を青みを帯びた紫の不思議な色の瞳が憂いを帯びて見つめていた。瞳の持ち主の女性の栗色の髪が風に靡く。

 

 

「メリル様。このような所にいては風邪を引かれますよ」

「ネージュ殿下」

 

 

 メリルと呼ばれた少女は、気付かない間に後ろにいた青年――ネージュに小さく驚くも困った笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫ですよ。今は暖かい季節ですし、身体は丈夫な方だと自負しております」

「なら、こんな所にいるより、ぼくと薔薇園を歩きませんか?」

「ネージュ殿下と? ですが、私と一緒にいてネージュ殿下に御迷惑をかける訳には」

「迷惑? かかりませんよ」

 

 

 魔界の王太子フィロンの婚約者である自分が、第2王子であるネージュと一緒にいる所を他人に見られ、あらぬ噂が流れればネージュに迷惑がかかる。只でさえ、フィロンは他の令嬢に心が傾き、生まれた時からの婚約者であるメリルを嫌っているというのに。嫌われる原因が何か何も思い当たらないメリルだが、魔王と公爵である父が決めた婚約が覆される事は不可能。……例え、メリルがフィロンを一途に想っていても最初から想い人のいる相手の心を射止めるのは無理なのだ。

 ネージュは自身の兄こそが、目の前の令嬢を傷付けていることこそに腹を立てている。寧ろ、自分と一緒にいると噂が流れてメリルとの婚約破棄に繋がるのなら幾らでも流させてやる。

 

 

「丁度、ダマスクローズが満開しているのでメリル様には是非見てもらいですのが」

「良いのですか?」

「勿論」

 

 

 花好きのメリルが魔王城の薔薇園に目がないのはよく知っている。顔を輝かせて表情を綻ばせるメリルを見て、兄と兄の隣に当然のようにいた令嬢に抱いた悪感情が霧散していく。

 ふと、陽光が注がれる方へ視線が動いた。兄弟共に父譲りの青みがかった銀糸に紺碧の瞳。長い睫毛に覆われた紺碧がネージュを視線だけで殺す勢いで強く睨んでいた。

 

 

 ――婚約者の顔合わせの日に会ったメリルを好きになっておきながら、素直になれない所か突き放す態度しか取れないばかりか、付き纏う令嬢を側に置いて暴発寸前のメリルへの愛情を押し込めている。表に出たら、もう二度とメリルは陽の光を浴びれないだろう。それ程、フィロンのメリルに抱く愛情は深く――狂気を孕んでいる。

 一歩間違えれば、愛が憎しみへと変わる。

 

 きっと、今日がそうなるだろう。

 

 隣の令嬢を置いて此方へ早歩きでやって来る。

 1つ、あの兄が必死になるだろう策を思い付いた。

 

 ……それが、ネージュ自身も好意を抱くメリルをフィロンの必死に抑えこんでいた狂おしい愛情を暴走させる引き金を引くとも知らずに。

 

 

「ねえ、メリル様」

「はい」

 

 

 ネージュに呼ばれ、メリルは返事をした。

 

 

「メリル様は薔薇の中で一番好きな品種はダマスクローズでしたよね?」

「はい。大好きです」

 

 

 歪に口端が吊り上るのを必死に我慢する。ネージュの思惑等知らないメリルは素直に答えた。

 

 

「ぼくと同じですね。ぼくも愛していますよ」

「ふふ、一緒ですね」

 

 

 ばきり、と地に落ちていた枝を力任せに踏み潰した音が2人の耳に入る。振り向くと茫然と立ち竦むフィロンがいた。陽光が降り注ぐ所にいた彼が何時の間に。

 

 

「……メリル」

 

 

 滅多に呼ばれない声にメリルは嬉しさから緩みそうになる表情を阻止しようと強張らせた。

 

 

「今のは……事実か?」

「?」

 

 

 今の? と首を傾げるも、ネージュとの会話を聞いていたのだろうと思いすぐに何を問われているか察した。

 

 

「はい」

 

 

 薔薇はフィロンの好きな花でもある。些細な物でもフィロンと一緒なのが嬉しくて、折角無理に引き締めた表情を緩ませた。

 青みがかった紫の瞳に宿る喜びの色と自分には決して向けない笑みを浮かべたメリルを見て――……フィロンの心は瞬く間に黒く染まっていく。

 

 


※出会った時からフィロンを好きなメリルですが、自分に自信が無い上に長年フィロンに婚約者として扱われない所か、普段からいない者扱いをされる上に他の令嬢と親しげにしているから愛されていないと思い込む。婚約破棄をされても受け入れる所存です。

※同じく、フィロンもメリルを好き、というよりべた惚れし過ぎてどうしたらいいのか分からないのと素直になれない性格のせいで色々と拗らせてしまっている人。ネージュとメリルとの会話を聞いて、メリルがネージュを好きだと誤解。メリルを奪われたくない一心である行動に出ます(ノクターンさん行確定)

※フィロンの弟ネージュ。お互いを好き合っているくせに気持ちが通じない。それ以前に、兄のフィロンがメリルを好き過ぎてどう接していいか分からない上に上記の性格のせいで進展所か後退の一途を辿る2人の為に劇薬を投入した。

※フィロンを骨抜きにしたと噂の令嬢。自分こそ、次期魔王になるフィロンの妻に相応しいと思い込み、婚約者がいるメリルがいても構わずフィロンに付き纏う。フィロンが何も言わない、受け入れている節があるためメリルとの婚約も破棄寸前だと囁かれる。……実際は、メリルにぶつけたら壊れてしまうと危惧して暴発寸前の感情をぶつける為の器でしかない。


……ノクターン行きかも。


※ノクターンじゃなく、ムーンライトです。間違えました

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