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自分を殺す為に育てた子供にとてもなつかれた魔王

※最強魔王が自分を殺させる為に聖女の子供を育てる



「はあ……つまらん」



静寂が支配する空間で鮮血に染まった玉座に腰掛ける一人の女がいた。豪奢な銀髪、ギラギラと光る翡翠の瞳。成熟した体を強調した漆黒のドレスに身を包み、優雅に足を組む。

肘を立て、ワイングラスを揺らす。ゆらゆらと白ワインが揺れる。



「つまらんのう」



二度、同じ台詞を呟いても。返事を寄越す者はいない。足下に転がる無数の人だった肉塊が散らばっている。つい先刻、玉座に腰掛けたままの女に裂かれた勇者一行。



「"奴"の加護を受けた人間でさえ、儂を楽しませる者は現れんか」



決して人には抗えない超越的存在。魔族と呼ばれる種の頂点に君臨する魔王。それが女――シルヴァ・ヒストリア。通所"銀の魔王"。


魔族と対を成す種族――神族の頂点に座する神が加護を与えた勇者も、聖女も、剣王も、獣王も、魔導王も。誰一人――シルヴァに勝てず、無残に殺された。



「……ん?」



ふと、微小の生命反応を感知し、銀の眉がピクリと動いた。玉座の間に転がる肉塊に生命反応は既にない。だが。



「ほう」



興味深そうに翡翠を細め、玉座から立った。その際、持っていたグラスは後ろへ投げ捨てた。聖女だった女の残骸の前に立つ。胸から上を裂断し、即死した聖女の腹に手を当てた。


奥深くにとてもとても小さな命が宿っていた。



「聖女が子を孕んでいたとはな。だが、面白い」



誰の子かは如何でもいい。シルヴァは掌に魔力を集中させ、不思議な言葉を詠唱した。淡い光が掌から発せられ、離すと光の球体が現れた。中には宿って3か月程度の生き物がいる。


本来であれば、これからも母の胎内に宿り育っていく筈だった。シルヴァの手によって葬りさらなければ……。



「余興は多い方がいい。聖女の子がどの様に育つか――暫くは退屈しそうにないな」



喉を震わせ、シルヴァの静かに嗤う声が玉座の間に響くのであった。





――十年後、輝かんばかりの金髪に青を帯びた深緑の瞳の少年が真っ直ぐとシルヴァに向かっていく。無邪気に、両手を広げて。



「シルヴァー!!」



しゃがんで少年を抱きとめた。首を両腕を回した少年を抱き上げた。



「十歳になっても甘えたなままだな」

「だって、シルヴァはぼくの母親じゃないか」

「何度も言わせるな。儂はお前の母じゃない。寧ろ、お前の親の仇だ」



どうしてこうなった、とシルヴァは何度も頭を抱えた。聖女の腹に宿っていた赤子にヒンメルと名付け、今日に至るまで育てている。魔王城から離れ、人里離れた森の中に家を建て暮らす生活にも随分と慣れた。


ヒンメルには自分が母親を殺した事を正直に伝えてある。そして、強くなって自分を殺せと何度も言っている。その為に魔力操作、魔術、格闘術等を教えている。

――だと言うのに。



「え~! 嫌だよお! ぼくの母親はシルヴァだよ!」

この始末。

「そりゃあ、生みの親を殺したシルヴァは悪い奴だよ。でも、生みの親って言われても全然ピンと来ないもん。一緒に住んでた時期があれば、シルヴァを嫌いになってたけどどんな人か知らないもん」



母親の聖女がどの様な人物か知らない。また、育ての親であるシルヴァに愛情たっぷりと育てられた為に親の仇を憎む発想が端からない。将来自分を殺してくれるのを信じて育ててきたのにとシルヴァは嘆息する。


拗ねた声色でヒンメルに呼ばれ目線を下へした。



「シルヴァはぼくが嫌いなの?」

「……」



遠い昔から生きるシルヴァが心を許した存在は今まで一人たりともいなかった。卓越なる力を持った魔族に生まれ、研鑽を重ねていく事で気付けば"銀の魔王"と畏れられるまでになった。



「少なくとも、お前には立派に大きくなって儂を殺す使命があるのだ。だが……嫌いではない」

「そっか」



最初の台詞は気に食わないが、嫌われてなくて安心した。

ヒンメルを抱いたまま、シルヴァは歩き始めた。

「これから何処へ行くの?」



「さあな。気儘に行くさ。行きたい所があるなら、連れて行ってやる」

「う~ん。ぼくはないかな。世界にどんな場所や物があるのかまだ解らないから。シルヴァの足が向くままでいいと思うよ」

「儂の……か」



魔王城に籠って千年近く。"奴"の加護を与えられた勇者等が度々討伐に来ても――総て屠ってきた。シルヴァの渇きを潤せる者は現れない。


全身の血が沸騰し、生きている実感を感じ、破滅するかもしれない危機感を最大限にまで高めてくれる相手に飢えている。圧倒的な力を有するが故に、まともに殺り合えるのは同じ魔王のみ。

東西南北に君臨する四人の魔王。魔族から世界を守る神もまた東西南北に存在する。シルヴァは北の大陸に君臨する魔王。"奴"と呼ぶのは、北の大陸を守る神。

暇潰しに神の所へ喧嘩を売りに行こうか、と考えが頭を過ぎった。



「シルヴァ!」

「なんだ」

「ぼくはシルヴァが行く所へなら、どんな場所だってついて行くよ!」

「……そうか」



真実を知って尚、自分を純粋なまでに信用し、慕ってくれるヒンメル。いつかは殺されたいと願う。

けど、今は、今だけは。


――ヒンメルとの生活も悪くない


この穏やかな時間に浸っていたい……。




最強魔王だけど親馬鹿なシルヴァ。聖女と勇者の子だがシルヴァに育てられた為シルヴァ大好きっ子に育ったヒンメル。



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