第8話 ボーイミーツプリンセス~2
彼女はロイドの姿に気づくと手を振ってこちらに歩いてくる。
「カナデ様、挨拶だけ済ませたらすぐに立ち去りましょう」
「あ、はい。わかりました」
なんでだろう、せっかくだから王女様とおしゃべりしたいのに……
「ロイドおかえりなさい」
本当に、近くで見ると天使のように美しい。見ているこちらがなんだか恥ずかしくなってくる。
「先ほど戻ったばかりでございます」
「ご苦労様、しばらくはゆっくりと休んでね、もうおじいちゃんなんだから」
「はい。そうさせていただきます。お心遣いありがとうございます」
「ところでそっちの小汚い男は誰なの?」
「エ、エリナ様! なんということを…… この方は帰路の途中、オークに襲われていたところを助けていただいたカナデ様です。お礼にお食事でもと、お城までお連れしました」
「そう、それは失礼したわね」
俺は心のこもってない謝罪と口の悪さに驚きを隠せなかった。
「それでは、そろそろ食事の支度が整う頃なので失礼いたします」
ロイドは歩きながら申し訳なさそうな顔で静かに何度も頭を下げてくる。俺も大丈夫ですよという表情でそれに応え、少し苦笑いをした。
王女様がまさかあんな感じとは……
「ちょっと待ちなさい!」
10歩ほど進んだところで彼女に呼び止められる。
「あなた、オークを軽々と倒したんですってね? 一度手合わせしてもらえるかしら? 食事の前の軽い運動になるわよ」
「エリナ様、カナデ様は今日はお疲れになられているので、また次回にでも」
ロイドは、なんとか逃げようとするが、彼女はなかなか引き下がらない。
「大丈夫、すぐ終わるわ。あなたはどうなの? やるの? やらないの? 逃げるというなら別にいいけど……」
「わかりました。やりましょう」
俺は考える間もなく即答する。なぜなら彼女の言動にかなり苛立っていたからだ。ロイドもこうなることが分かっていたから、早く立ち去ろうとしたのだろう……
この手のタイプは一度ガツンと痛い目を見せないな。
スキルを使って手っ取り早く終わらせるか……
「始める前に確認ですけど、王女様にケガさせちゃったらマズいですよね?」
「ふふふっ ずいぶん自信があるのね? 心配はいらないわ。剣を握ってる以上は、それくらい覚悟しているから。もし、本当にケガさせることが出来たら、逆に褒美をあげるわ」
彼女は余裕の笑みを浮かべている。
「誰かっ! この者に剣を用意しなさい!!」
すぐさま近くにいた兵士が剣を渡してきた。使い込まれた訓練用の物だ。
「旅で疲れているらしいから、すぐに終わらせてあげるわね」
「お気遣い感謝いたします」
いつの間にか、騒ぎを聞きつけた他の兵士たちも集まって、俺と彼女の周りにはグルっと一周、人の壁ができた。
まずは向こうのステータスを確認するか。
『エリナ・ウインディラ』
『クラス・パラディン』
『レベル18』
『剣技15、魔力10、体力7、知力5、敏捷8、運5、センス6、シークレット×』
潜在能力はこちらが上だが、レベルは向こうが遥かに上だ。普通の人間からしたらすごい能力。うーん、能力からしてスピードタイプといった感じか……
ん? シークレットってなんだ?今は見ることができないなぁ。
まぁ、そのうち見れるようになるだろう。
とにかく最初は様子見で回避に専念したほうがいいか。見切りスキルも発動させておこう。
よし!いつでも来い。
「では始めましょうか」
彼女と同時に自分も剣を構えた。
しばらくは、お互い一歩も動かないまま時間だけが過ぎていく。
「来ないなら、こっちからいくわよ!」
次の瞬間、彼女の鋭い突きが右頬をかすめる。
は、速い、さっきのオークなんて比べ物にならない! 剣の軌道が見えてから、実際の剣が到達する時間が早すぎる。
「少しはできるみたいね? 少なくとも、私の初撃をかわせる者は、ここの兵士の中にはいないわ」
初撃をかわしたことに、彼女はもちろんだが、周りの兵士も、かなり驚いている。おそらくは、一撃で終わらせるつもりだったのだろう。
「ごめんなさい、ロイド。 食事はもう少しあとになりそうだわ」
ロイドは、やれやれといった感じでこちらを見ている。
「さて、今度はかわせるかしら?」
今は、とにかく回避して隙が出来るのを待つ。回避の練習もできるチャンスだしな。