第6話 旅立ち~2
森の中を1時間ほど歩くと小さな沢に行き当たったので、そこで乾いた喉を潤し、倒木に腰掛け少し休憩することにした。
休憩しながらマニュアルを読み返していると奥の茂みが何やら騒がしい。茂みから覗いてみると、馬車が魔物に襲われている。
ウインドウを開いて魔物図鑑をチェックしてみたところ、どうやらオークみたいだ。
それにしてもデカい…… ゆうに3メートルはある。地面には兵士が3人倒れており、おそらくはもう死んでいるだろう。
オークは馬車の陰に隠れていた老紳士に今にも襲いかかろうとしている。
俺は、とっさに石を投げつけ、オークが怯んだ隙に老紳士のもとに駆け寄り安否を確認する。
「大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですが兵士たちが……」
「俺が食い止めますので、その間に逃げてください!」
俺は落ちている兵士の剣を拾い上げ、やるしかないと自分を奮い立たせる。
オークは容赦なく斧を振り下ろしてくるが見切りのスキルのおかげで余裕でかわすことができる。このスキルは本当にすごい。攻撃と同時にうっすら軌道が見え、その軌道上に自分がいなければ攻撃を受けないという優れモノだ。
「今度はこっちから行くぞ!」
俺は攻撃をかわし、オークの懐に入り心臓を突き刺すと、オークは雄叫びをあげ、その場に勢いよく倒れて動かなくなった。
「ふー、楽勝だったな」
・・・『レベルが上がりました』
・・・『未来視が使用可能になりました』
どれどれ……
『未来視・・・0.5秒間までの相手の攻撃が先読みして見える』
これも回避系スキルだな。この調子でどんどん使えるようになっていくぞ。
「危ないところを助けていただきありがとうございました」
うしろから近づいて来た老紳士に深々と頭を下げられる。
「いえいえ、たまたま通りかかったもので。ご無事でなによりです」
「わたくしはウインディラ王国で執事をしておりますロイドと申します」
「俺はカナデです」
「カナデ様、お礼と言ってはなんですが、お城でお食事でもいかがでしょうか?」
ちょうど街に向かうところだったし、ついていくか……
「ありがとうございます。ご馳走になります」
俺は案内された馬車にロイドと乗り込むと一気に緊張の糸が切れ急に疲れに襲わる。まだ心臓の鼓動も速いままだ。しかしながら、馬車に30分ほど揺られながらロイドと会話をしているうちにそれも徐々に落ち着きを取り戻した。
ふと窓の外に目をやると大きな城門が見えてきた。本やテレビでしか見たことのない中世に作られたヨーロッパ調の城にテンションは上がり、本当に異世界に来たことをあらためて実感させられる。
「そろそろ到着いたしますよ。この裏門から、すぐ城内に入れます」
大きな橋を渡り城門をくぐったところで馬車が止まり、馬車を降りるとすぐに、恰幅のいい男性が走り寄ってくる。
「ロイド~、帰りが遅いから心配しておったぞ」
「陛下! 遅くなり申し訳ございません。ただいま戻りました」
「こちらの方は、どなたかな?」
「森で魔物に襲われているところを助けていただきましたカナデ様です」
「カナデと申します」
「そうであったか。わたしはジーク・ウインディラと申す。カナデ殿、大事な臣下であり友人のロイドを助けていただき感謝する」
ジークは始め不信感を露わにしていたがロイドのおかげで急に手のひらを返した優しい対応になった。たしかに知らない奴が城にいたら分からなくもないが……
「ロイドよ、国賓級のおもてなしをするのだぞ」
「もちろんでございます陛下、ただいま料理長に食事の支度をさせております」
「カナデ殿、ゆっくりと旅の疲れを癒していくがよい」
「はい、ありがとうございます」
そう言って俺が頭を下げると、国王は城の中に戻って行ったので、ずっと額にかいていた嫌な汗をようやく拭うことができた。なんたって転生して数時間足らずで国王登場だ。驚かないわけがない。
「では、カナデ様。お食事ができるまで、時間がありますので城内を案内いたします」
「ありがとうございます。お願いします」