第58話 魔法
「いい加減に目を覚ましなさいっ」
アンネロッテの声に俺はようやく目を覚ました。辺りを見渡すと大きな岩が無数にある岩山で少し先は切り立った崖になっている。
「ここはどこですか?」
「ここはメイフィールド家が所有している山の中にある修練場よ。ここで代々メイフィールド家の人間は幼い頃から魔法の訓練をしてきたわ。ここから見える土地は全てメイフィールド家が所有しているから誰にも迷惑がかからずに魔法を使うことが出来るってわけ」
「ここから見える全部!?」
一体どのくらいの広さなのだろう……
全く見当がつかない。遥か彼方まで岩山だったり森が続いている。
「さて、それでは始めましょうか」
「はいっ! お願いします」
俺はアンネロッテについて少し開けた場所まで一緒に歩き出した。ようやく学べる魔法に期待と興奮が込み上げ、自然と足取りが軽くなる。
「この辺でいいかしら。まずは魔力を自由にコントロール出来るようになりましょう」
彼女はそう言うと俺の前に手のひらを差し出して、その上に小さな炎の球体を作って見せた。初めは球体だった炎は次第に立方体になったり円錐へと変化していき、最後はとうとう動物の形にもなって俺を驚かせた。
「これくらいできなきゃ話にならないわよ。魔法は想像力が大事なの。まずは手のひらの上に少し魔力を出して火球をイメージしてみなさい」
とにかく俺はアンネロッテに言われたとおりに手のひらに火球をイメージしてみた。
火、火、火、球、球、球……
そう頭の中で念じ、闘気を出すのと同じ要領で試してみると、いとも簡単に手のひらの上に小さな火球を作ることが出来た。
「やった。できたっ!」
「嘘でしょ…… やるわね。流石といったところかしら」
一回で成功したことにアンネロッテもとても驚いた様子だ。彼女曰く、小さな火球を作るだけでも何ヶ月、下手したら何年もかかる場合もあるらしい。
たしか師匠も闘気習得するのに五年かかったって言ってたし、そういう感覚なのかな……
アンネロッテに褒められて調子に乗った俺は火球をさらに大きくしていった。
「ちょっと、もうそろそろ止めなさいっ!」
アンネロッテの制止を受けた頃には時すでに遅し……
直径が十メートルをゆうに超えた火球はさらに勢いを増して膨れ上がっていた。
「ヤバイ、ヤバイ。あれ? 勢いが止まらない……」
まさか!? 暴走!?
「何でもいいから早く遠くに投げなさいっ!!」
俺はアンネロッテの大きな叫び声と同時に遠くの山の方へ火球を放り投げた。俺の手を離れた火球は不規則に膨れ上がり、収まったと思った次の瞬間、それは轟音とともに大爆発を起こした。
爆発によって立っていられないほどの激しい爆風とたくさんの瓦礫が俺たちに襲いかかってきたがアンネロッテの魔法障壁のおかげでなんとか事なきを得た。
煙が晴れた先には広大な更地が広がっており、爆発の威力がいかに凄まじかったかを物語っている。
「ふぅー、危なかった」
「なにしてんのよっ!!」
俺が安堵で胸を撫で下ろしていると、横でアンネロッテが大爆発する。
「誰があんなに大きなものを作れって言ったのっ!! あのねぇ、魔法を使う時は常に、集中力と冷静な判断力が求められるのよっ。仲間を傷付けたらどうするのっ!! アンタみたいな調子に乗りやすいタイプは向いてないわ!!」
「すみませんでした…… 以後、気をつけます……」
「いい? 次に勝手なことをしたら破門からの処刑よっ。覚えておきなさい」
処刑!? 破門はともかく処刑って……
いや、この人は間違いなくやる。
危ない、危ない。そういう人だったことを忘れていた。
俺はアンネロッテの罵声と怒号にただただ平謝りをして、なんとか続けさせてもらえる許可を得た。
そういえば師匠にも同じようなこと言われたなぁ。
だって褒められたら調子に乗っちゃうじゃない?
人間だもの……
いかんいかん。次は処刑…… 気をつけないと……
「じゃ、続けるわよ」
俺はアンネロッテに言われたとおりに、もう一度火球を作り、立方体の形をイメージしてみたが、なかなか成功しない。立方体のイメージに集中し過ぎると瞬く間に火が消えてしまう。どうやら魔力を出すことと立方体のイメージをバランス良くしなければいけないようだ。
しかし理屈は分かっているが何度やっても上手くいかない。始めてから三時間ぐらい経っただろうか。頼みののアンネロッテはすでに飽きて自分のアイテムバッグから取り出したソファーで眠っている。
さらに三時間が経過し夕方になると肌寒くなってきたからかアンネロッテが目を覚まし、あくびをしながらこちらにやってきた。
「まだやってるの? 初日から張り切り過ぎるのは良くないわよ」
彼女は座るのに丁度いい大きさの石に腰掛け、頬杖をつきながらあからさまに今日はもう帰りたいオーラを放っている。
「もう少しだけやらせてください!!」
中途半端で終わらせたくなかった俺は彼女の態度などお構いなしに続けようとしたが、気持ちに反して何度やってもこれ以上、火球が現れることはなかった。
「残念賞〜 魔力切れみたいね。真昼間からやってるんだから当たり前だわ。じゃあ、帰るわよ」
アンネロッテは自分のソファーをしまい、待ってましたとばかりに急いで帰り支度を始めだす。
「わかりました。お待たせし……」
すべての魔力を使い切った俺は、その場に座りこんでしまった。
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