エリナの回想〜2
九歳になった。
少し体の大きくなった私はアリサにお願いして本物の剣を調達してもらった。やはり本物は重量感が違う。
剣を振ると重さで体ごと持っていかれる。私は引き摺りながらも毎日振り続けた。
ある日、いつものように汚れた服で裏庭からこっそり自分の部屋に戻るところを父の執事、ロイドに見つかってしまった。普段ならアリサが上手く先導してくれるのだか今日は仕事で外出していた為、一人だったのだ。
通路で鉢合わせてしまった私はまた父に報告されてしまうと下を向いて覚悟した。
「天井をそろそろ修復しないといけないですねぇ」
ロイドは上を向いてそんな事を呟きながら私の横を素通りしていった。
気づいていないはずが無い。しっかりと目も合っている。
とにかく私は他の人に見つからないように急いで部屋に戻った。
ロイドは先代の国王からこの国に仕えている執事でアリサの上司だ。祖父を知らない私にとっては優しくて理解のある祖父の代わりの様な存在。
さっきも見て見ぬふりをしてくれたに違いない。
私は着替えをして食堂に向かい食事をとるとそのまま図書室に立ち寄った。そして一直線に目当ての本棚に向かう。
あれ? 本が増えてる……
いつもの本棚には今までなかった剣術指南書や戦術書が並んでる。確か本の管理はロイドの仕事だ。間違いなく彼が置いてくれたのだと確信した。
私は何冊か手に取ると部屋に戻って読み漁った。
アリサと特訓を始めて半年が経過した頃にはまともに剣が振れるようになっていた。本で読んだいろいろな訓練方法を試行錯誤し毎日休むことなくそれを繰り返す。
その結果、十歳になるまでにはアリサを打ち負かしていた。
十歳になった。
これ以上、自分だけの訓練では限界を感じた私は、ダメ元で父に剣術を教えてくれる人を雇ってくれるように頼んだ。
すると意外にも、すんなりと了承してくれた。父もロイドからいろいろと私のことを耳にしていて根負けしたのだろう。
こうなった私は水を得た魚だ。今まで隠れて訓練していたがこれからは堂々と剣が振れる。私は剣術の先生が来る日を心待ちにして過ごした。
そんな夏の暑い日に彼はやって来た。これから私の先生になる人だ。彼は剣士の最上級クラスのソードマスターで、かつてナイトメアとも戦ったこともある。名前はバローロといい、全身は鍛え上げられた筋肉に覆われ、大剣を片手で軽々と振り回し見る者を圧倒した。
私にとってはこれ以上ない先生だ。
ロイドに連れられ裏庭にやってきた彼は私の姿を見るや否や帰ろうとする。彼だけでなく誰だってそうするだろう。
なにせ剣術を教えてほしいと言われた相手が十歳の少女なのだから。
私は鼻で笑って帰ろうとする彼の足にしがみつき何度も何度も地面に頭を擦り付け懇願した。彼に教わることが出来るのならそんなことはいくらでもできる。
真剣な私のその姿に彼はようやく首を縦に振ってくれた。
彼が最初におこなったのは、私に体力をつけさせることだった。練習前には必ず城の周りを十周走らす。
それは半分は体力の為だったと思うが、もう半分は諦めさせる為だったと思う。城の周りを十周なんて大人でも簡単に根を上げてしまうだろう。
当然、私に諦めの二文字などは存在しない。
私は毎日十周走り、走った後は素振りニ千回、これが三ヶ月は続いた。もちろん山羊のミルクも忘れてない。
三ヶ月経ったある日、先生は初めて打って来いと言ってくれた。
嬉しくてがむしゃらに剣を振り回したことを今でもよく覚えている。
私の本気がやっと伝わったのか先生はそれから、様々な戦術、知識を私に叩き込んだ。私もそれに応えるように今まで以上に必死になって食らいついていく。
十一歳になった。
先生に指導を受けて一年が経ち、自分でも驚くほどの成長を実感する。やはり私の選択は間違いではなかった。
とはいえ、この一年で何度、死にかけたか分からない。課外授業と言っては城の外に連れていかれ、森でモンスターの群れの中に丸腰で置き去りにされたり、盗賊のアジトに一人で潜入させられたりもした。そんな思いをしても私は全然、苦にならなかった。一つ一つ乗り越えるたびに強くなれると思ったら、むしろ楽しくなっていたのだ。
ある朝、先生は私を連れて山の中に入った。しばらく進むと先生は身の丈の三倍以上はあろう岩の前で立ち止まり、今からこれを木の枝で割ってみせると言う。
私はいくら先生でもそんなこと出来るわけないと思ったが、私はこの後、信じられないことを目の当たりにする。
先生は枝を拾うと気合い? 力? 分からないが何かを枝に込めると枝は微かに光り、その枝を岩の前で上から振り下ろすことで岩はものの見事に左右に分かれて崩れていった。
これは闘気と言うものらしい。
先生曰く、闘気の放出法を習得出来れば自己の何倍もの攻撃力を得られ、通常攻撃ではダメージの与えられない魔獣クラスにダメージを与えることができるようだ。
つまり、ナイトメアに挑むには必須事項……
先生は習得に五年を要したと言う。
はたして私に出来るだろうか?
いや弱気になってはいけない。必ず習得するのだ。
もっと強くならなきゃ……
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