エリナの回想〜1
私はエリナ・ウィンディラ、十八歳。
ウィンディラ王国の王女であり、いずれこの国を治める者。
王女と聞くと響きがいいかもしれない。煌びやかで美しいドレスに身を包み、貴族のパーティーに参加して美味しいお茶やお菓子を楽しむ、そんな生活。おそらくはこれが普通だろう。
しかし私は違った。
ウィンディラ王国はそれほど大きい国ではないが水と緑に囲まれた自然豊かな国で風の精霊神殿の守護国である。また国内の鉱山で産出される魔鉱石は全世界の60%を占めており、経済的にもかなり潤っている。
私の父、現国王、ジーク・ウィンディラは平和主義者で他国に対して常に中立を守ってる。先代国王が流行病で亡くなると若くして国王に即位した。
私の母親、アイラは風属性の魔術士でもともとは他国で回復術士として活動していた。そんな母は、ウィンディラで数年に一度、風の精霊神殿で行う祭事に参加し、そこで父、ジークと出会う。
当初は王族でもない母が父と結婚することに周りは大反対していたが父の説得と母の人柄によって許しが得られ結婚が実現し私が誕生した。
そんな国で私は両親の愛を十二分に受け八歳まで何不自由なく、すくすくと育った。そう八歳までは……
それは夏の蒸し暑いある日、悪夢は訪れた。真夜中に突然の大雨と雷鳴で目を覚ました私は泣きながら、いつものように母親のベッドに潜り込む。
「エリナはいつも泣き虫さんね」
母はそう言って私を優しく寝かしつけてくれる。いつもなら母に頭を撫でてもらうとすぐに寝付けるのだが、何故かその日は違った。おそらくこれから起こる恐怖を子供ながらに感じ取っていたのだろう。無論、母がそれを感じていないはずがない。
母は人を呼び、私を預けると一人、窓際まで向かい外の様子を窺う。すると次の瞬間、窓ガラスが割れ黒い影が部屋に飛び込んで来た。
私は母のお付きのメイドに部屋から連れ出され、父や衛兵達と共に部屋に戻った時には、母は全身に禍々しい痣が無数に浮かび上がった状態で倒れており、それ以来、母が目を覚ますことは二度となかった。
父はあらゆる手を使って原因究明をおこなう。そしてそれが魔獣ナイトメアの仕業であると突き止めた。ナイトメアは取り憑いた者の魔力を徐々に吸収して自分の魔力にする。母の魔力量からするともって十年らしい。
父は名のある冒険者を雇い、討伐を命じたがそれも叶わず、返り討ちにされるだけだった。それからというもの父はどうしていいのか分からずに諦め始めていた。
私はその日から母は私が助けると固く心に誓ったのだ。
まずは強くならなくてはいけない。そう考えた八歳の私はこっそり誰も寄り付かない城の裏庭へ行き、拾った木の枝を一人で朝から晩まで一日中振り回していた。
ある日、木の枝では物足りなくなった私は城の武器庫に忍び込み本物の剣を盗み出そうとした。
当然、子供の私にそんな事が出来るはずもなく、呆気なく衛兵に見つかり父に大目玉をくらう。
そんな時、いつも慰めてくれるのは私の世話役のアリサだ。アリサは母のお付きのメイド、ルーシー・トスカーナの娘で私より八つ年上である。彼女は顔もさることながら艶のある綺麗な黒髪はとても美しく、また一人っ子の私にとっては姉のような存在だ。
父に大目玉を食らった翌日、いつものように裏庭へ練習に向かうと子供の私にでも見つけやすい場所に兵士が訓練用に使う木で作られた剣が置いてあった。
きっとアリサが自分の使っていた物を置いてくれたのだろう。アリサは私の護衛をする為、普通のメイドと違い特殊な訓練も受けている。彼女の母親もまた然り。
アリサには毎日ここに来ていることがバレていたに違いない。
まぁ当たり前のように毎日、泥だらけで部屋に戻っていればバレるに決まっている。
私はその剣を毎日、毎日振り続けた。雨の日も風の日も雪の日も。夜は夜で城の図書室から持ち出した剣術指南書を片っ端から読み漁り、そのおかげで難しい文字もいつの間にか覚えることができた。難しい本も読めるようになった私はさらに知識を身に付ける。
一人の練習では限界を感じた私はアリサに練習相手になってくれるように頼む。始めは渋っていたが私の熱意に負けて引き受けてくれるようになった。これは二人だけの秘密の特訓。
初めての対人戦は惨敗だった。アリサはもちろん手加減してくれている。私は多少なりとも自信はあったが、それは脆くも崩れさってしまう。やはり体格も経験も何もかもが負けている。
それからアリサは自分の仕事の合間を縫っては私の練習に付き合ってくれた。
私もアリサの厚意を無にしないように今まで以上に必死なった。
体も丈夫にする為に最近は大嫌いで絶対に飲まずに残していた山羊のミルクを毎日飲むように頑張っている。これには、いつも残すと怒っていたアリサも驚いていた。
もっと強くならなきゃ……
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