第56話 アンネロッテ・メイフィールド〜3
俺が事情を説明すると彼女はさっきのふざけた様子とは異なり、真剣に話を聞いてくれた。話を聞いた彼女は信じられないといった表情でこちらを見ている。
「その話が本当なら是非一度見てみたいわね」
その言葉を聞いて俺はホッと胸を撫で下ろす。どうやら前向きに考えてくれるようだ。彼女は意識に潜るために必要な例のアレを俺に渡した。
「またこれですか…… 正直、不味いから苦手なんですよね」
「うそ? どちらかと言えば甘くて美味しいはずだけど。いいから早く舐めなさいよ」
俺は彼女の機嫌を損ねないうちに覚悟を決めて、口に放り込んだ。すると、以前のものとは違って苦くはない。まるでイチゴ味のキャンディーを舐めているようだった。
ミリアさんの時のアレは絶対に腐っていたに違いない……
そんなことを考えているうちに俺は意識を失った。
「じゃあ、行きましょうか」
意識の中で目を覚ますとアンネロッテはすでに俺の横に立っていた。早速、俺たちは風の柱に向かう。
「うわぁ〜 これは凄い。想像以上よ。こんな巨大な柱は初めて見たわ。もしかしたら私以上の素質かも」
アンネロッテは驚きながら柱の周りをウロウロしだす。
「よしっ、始めましょうか」
彼女は俺を柱の前に立たせると、すぐに詠唱を開始した。両手から勢いよく魔力が体内に流れ込んでくる。瞬く間に目の前の柱は小さくなっていき、ものの五分ほどで消えていった。
「じゃあ、次は炎の柱に行くわよ」
「はい、お願いします」
休む間もなく炎の柱へと向かう。
「こっちは、さっきより小さいからすぐに終わりそうね」
彼女の言葉通り、あっという間に炎の魔力は取り込み終えた。流石、超越者といったとこだろうか。
二属性の魔力を解放した俺は、今にも指先から溢れるのではないかと思うぐらい、体中に魔力が漲っている。
六属性を解放したら一体どうなることやら……
「予定より早く終わったし、記念に他の柱も見てきていいかしら?」
「あっ、はい。どうぞ見てき……」
彼女は俺の返事を最後まで聞くことなく、一人で駆け出して行ってしまった。
「キャーー。何これ! すごーーい! 光と闇の柱もあるっ!」
遠くの方で彼女が子供のようにはしゃいでいる声があちこちで響き渡る。俺は彼女が満足するまでしばらく座って待つことにした。
「……」
「お待たせっ! 帰りましょうか」
俺は待ちくたびれて、うとうとしかけていたところへ彼女は興奮冷めやらぬ様子で帰って来た。
俺が頷くと彼女は指をパチンと鳴らす。次に目を開けると、そこはアトリエだった。
「お疲れ〜 いや〜 ホント驚いたわっ」
アンネロッテは飲みかけのコーヒーを片手に興奮しっぱなしだ。
「お疲れ様です。ありがとうございました! これで魔法が使えるようになったんですか?」
「一応そうだけど。魔力を体外に放出できるようになるには、ある程度の訓練が必要よ」
「もしよければ、手ほどきしてほしいです」
「いいわ。但し、私の質問に嘘を言わずに答えてくれたらね」
アンネロッテは、急に真剣な面持ちで俺の目を真っ直ぐ見つめた。俺は何を質問されるか分からない緊張感から背中にじっとりと嫌な汗をかき始める。
「キミはこの強大な魔力を何に使うのかしら?」
「……」
「じゃあ、質問を変えるわ。キミはこの世界の人間?」
「……」
しばらく考えたが、俺は腹を括って正直に話すことに決めた。
「違います……」
「やっぱりね。そうじゃないかと思った!」
彼女は納得した様子で二杯目のコーヒーを淹れると、本棚から一冊の本を取り出し、あるページを開いて俺に見せた。
そこにはこう書かれていた。
『この世が災いの闇に包まれるとき、星霊神より遣わされた渡人が人智を超越した力で闇を祓う』
「これは昔からこの世界に伝わる言い伝えなんだけど、これってキミのことだよね?」
「それが俺のことか分かりません。ただ俺はステラと言う人に世界を救いなさいって言われて、この世界に来ました」
「ステラって、星霊神ステラ様のことよね? あー、私はなんてことをしてしまったの。渡人様の足を切り落としてしまうなんて」
アンネロッテは申し訳なさそうに頭を抱え、項垂れたまま黙り込んでしまった。
俺はアンネロッテに気にしなくていいと慰め、あらためて魔法指導のお願いをすると、彼女は二つ返事で快諾してくれた。
「渡人様、このアンネロッテ・メイフィールドが微力ながら、お手伝いさせていただきます」
彼女は丁寧に頭を下げた。
「や、やめてください。あの、カナデでいいですから。あと敬語も使わないでくださいっ」
「わかりました。ではカナデ、今日は日が暮れできたので、明日から特訓を始めましょう」
「よろしくお願いします。アンネロッテ先生っ」
俺は明日からの特訓に備え、エリナの待つ宿へ戻ることにした。
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