第54話 アンネロッテ・メイフィールド〜1
目が覚めるとソファーで横になっており、ブランケットが一枚かけられていた。昨日はそのまま寝てしまったようだ。
エリナはまだ眠っているのか、彼女の寝室からは大きなイビキと寝言のようなものが聞こえる。昨夜はワインを一人で三本も開けたのだ、そうなるのも無理はない。
俺は支度を済ませ部屋を出ると地図を頼りに魔法学校へ向かった。途中、市場の屋台で軽く腹ごしらえをして正午前には到着することができた。
「立派だな……」
広い敷地に大きな四階建ての校舎が三棟あり、少し古くなってきてはいるが歴史を感じる悠然とした佇まいにおもわず声が出てしまう。
正門をくぐり中に入ると早速、若い守衛の男に止められ守衛室に連れて行かれた。俺は事情を説明しミリアの魔法印を見せたが全く取り合ってもらえず押し問答が続く。
「どうかしたのか?」
部屋に年配の守衛が入ってきた。年は70ぐらいといったとこだろう。
「あっ、ロレットさん。コイツが見たことのない魔法印を見せてきて中に入れろってしつこいんですよ」
「どれどれ」
年配の守衛は魔法印を受け取ると少し懐かしむ様子で俺の方を見返してくる。
「ミリア先生は元気かね?」
「あっ、はい。ピンピンしてますよ」
「ここはワシに任せて君は仕事に戻るといい」
若い守衛はそう言われると部屋から出て行き仕事に戻っていった。
「この書式は今は使われてないから、彼が知らんのも無理はない。すまんかったのぉ。ワシはロレット、ミリア先生とは旧知の中じゃ」
「こちらこそ突然押しかけて申し訳ありません。俺はカナデと言います」
あらためてロレットに事情を説明する。
「なるほど、ではワシが教務課に案内しよう。生徒のことはそこで管理しておるから何かわかるかもしれん」
俺はロレットに連れられ守衛室を出ると正面に見える校舎に入り、長い廊下の突き当たりの部屋に案内された。
部屋に入ると数名の女性たちが事務作業に追われている。ロレットは入り口に一番近い席にいる女性に声をかけて呼び寄せた。
「あら、ロレットさん。どうしたんですか? こんな所にきて」
女性は椅子から立ち上がりこちらに歩み寄ってきた。色白の肌にややぽっちゃりとした体型。短く切り揃った黒髪に眼鏡をかけており、年は4、50代くらい。
「なに、彼が人を探しておってなぁ。カミーラさん、少し手伝ってはくれないか?」
「ロレットさんの頼みじゃ断れないですねぇ。いいですよ」
彼女はロレットの頼みを快く引き受けてくれた。
「では、カナデくん。ワシは仕事に戻るよ」
「助かりました。ありがとうございます」
ロレットは俺の肩をポンっと叩くとその場を立ち去った。
「えーと、どなたを探しているのでしょう?」
「20年以上前に卒業したアンネロッテという方なんですけど」
カミーラは本棚から埃の被った名簿を何冊か取り出すとペラペラと捲り始める。
「アンネロッテという名前は8人いますね。他に情報はないですか?」
「有名な魔術士の家らしく、成績優秀で2年で首席卒業したみたいです」
「うーん、この人かな? アンネロッテ・メイフィールド。22年前に首席で卒業してるし間違いないでしょう。メイフィールド家っていえば街はずれにある大きなお屋敷だと思うわ。今は人が住んでるか分からないけど」
「ありがとうございます。ひとまず、そこに行ってみます」
俺はカミーラと帰る途中で会ったロレットに礼を言い、魔法学校をあとにした。
魔法学校から出た俺は、メイフィールド邸へ向かう途中、少し遠回りをして昨日の武器屋に立ち寄った。すると、おかしなことにそこは武器屋などはなく空き地に記念碑らしき物があるだけだった。
どうなっているんだ? 確かに場所はここのはず……
記念碑を見てみると、やはり、ロン・グラハムベルは、すでに亡くなっていると書かれている。
夢?? いや、貰った剣もちゃんと背負っている。
怖くなった俺は急いでその場から離れて、もう一度考え直す。
しばらく考えた結果、昨日の人物は幽霊で剣を渡す者が現れるまで成仏出来なかったのでは? という結論に達した。
気味の悪い話だが、それが一番納得できるし、それ以外は考えられなかった。
これ以上は考えるのはやめよう……
俺は考えるのをやめて再び歩きだした。
街はずれの市場を抜けると広い公園になっていた。この公園の先にメイフィールド邸はあるはずだ。
公園ではちょうどフリーマーケットが開かれており、多くの人々で賑わっている。
人混みを掻き分けながら進むと一箇所だけ混み合ってない場所があった。どうやら売れない画家が自分の描いた絵を売っているようで、俺は興味本位で少しのぞいてみることにした。
うーん、なんとも理解し難い抽象画の数々。子供のお絵かきかな?
「あら? 私の絵を気に入ってくれたのかしら?」
俺が理解できずに困惑していると後ろから可愛いらしい少女が話しかけてきた。
左目はルビーのような赤い瞳で、右目は翡翠のような緑の瞳。長く伸びたふわふわのプラチナシルバーの髪をツインテールにしている。細かい刺繍の入った白と黒を基調としたローブを纏い、見た目は10代前半から中頃に見えるが口調だけは妙に大人びていた。
「あ、いや、なんか個性豊かな絵だなぁと思って……」
「あっ、わかっちゃう? この絵の素晴らしさがっ」
別に褒めてないんだけど……
「じゃあ、俺、急いでるんで……」
俺は面倒にならないうちに先を急ぐことにした。
「ちょっと、その森の先には何もないわよ」
「この先にあるメイフィールドさんのお宅に用があるんです」
「そう。それなら私が案内してあげるわよ」
少女に連れられて、しばらく森を歩くと目の前に大きな屋敷が見えてきた。遠くから見ると立派だったが近くで見ると至る所が古くなっており、庭も手入れされてなく草が伸び放題だ。
「アンネロッテさん、いるかなぁ?」
「彼女なら家にはいないわよ」
「そうですか。また出直してきます」
諦めて道を引き返そうとすると少女は俺の袖口を掴み引き留めた。
「ところで私に何の用かしら? 冒険者クン」
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