第46話 続、真夜中の訪問者〜2
横になってそのまま眠ってしまったのも束の間、ベッドの硬さに熟睡できず目が覚めてしまった。おそらくはウィンディラでの良質なベッドに体が慣れてしまったのだろう。これは冒険者にとっては由々しき事態だ。
起き上がった俺は部屋に置いてあったグラスに水を注ぎながら何気なく窓から外を眺める。
窓の外はポツポツと雨が降り出している。雨は次第に強くなり地面を激しく打ちつけ、稲光りと共に時折、轟音が鳴り響いた。朝までに止むといいのだが。
俺はつけっぱなしだった部屋の明かりを消し、再びベッドに向かおうとすると、ドアの外で人の気配を感じた。ここは角部屋で正面にも部屋は無い。だとすると、この部屋に入ろうとしているのは間違いない。
強盗か?
最悪の事態を想定して身構える。
息を殺してドアの方を警戒していると、静かにドアノブが回りだした。
しまったっ! 鍵をかけるのを忘れてたっ!
しかしながら、今さら遅い。
ドアノブが回りきってドアが少しずつ開くと、徐々に廊下の明かりが部屋に入ってきた。
「カナデ、起きてる?」
暗くて見えにくいがどうやらエリナのようだ。
「なんだよ! 驚かすなよ。今、明かりをつけるから」
手探りで明かりをつけるとエリナを部屋に招き入れた。
「寝てた?」
「いや、寝ようとしてたとこ。こんな時間にどうしたの?」
「あのね、ちょっとお願いがあるんだけど」
エリナはモジモジしながら何故だか言葉を詰まらせている。しかし今はそんなことよりも部屋着姿のエリナに目を奪われた。
パステルピンクとオフホワイトのモコモコとした可愛らしいパーカーにショートパンツ、長くて綺麗な栗色の髪はポニーテールだ。色白の細い足がショートパンツのおかげでより美しく見える。
それにしてもエリナってこんなに胸が大きかったかな??
ステータスを見てみよっと。
『エリナ・ウインディラ』
『クラス・パラディン』
『レベル18』
『剣技15、魔力10、体力7、知力5、敏捷8、運5、センス6、バストF』
え、え、え、エフっっ!
エー、ビー、シー、ディー、イー、エフ……
右手の指を折りながら数えてみる。普段、胸当てを付けてる時にしか会ったことなかったから、気づかなかったなぁ。さっきも着替える前だったし。つまり、今は押さえつけられていた物が解放されてるわけか。
「ちょっとっ! 聞いてるの?」
「ごめん、ごめん。考えごとしてた。それで頼みって何?」
「きょ、今日ね、ここに泊まっていい?」
「はっ? えっ? どういうこと?」
エリナの突拍子もない言葉に俺の思考は完全に停止してしまった。
「だめ〜??」
「ちょっ、ちょっと待ってよっ! 理由を教えてよ」
「り、理由なんて別にないわよっ」
「訳がわからないよ。もう寝るから早く自分の部屋に戻れって」
エリナの背中を押して部屋から追い出そうとした次の瞬間、稲光りと共に今までにない雷鳴が轟いた。おそらく近くに落雷したのだろう。
「キャァァッ」
悲鳴と同時にエリナが胸に飛び込んできた。触れた体は微かに震えている。
「もしかして雷が怖いから??」
「怖くなんてないわよっ。ただ少し苦手なだけっ」
「苦手だから怖いんだろ??」
「違うわよっ。怖いから苦手なのっ!」
「ほら〜、やっぱり怖いんじゃないか」
「うるさいわねぇ〜 どっちだっていいでしょっ」
「ふふふ、わかった、わかった。ここに泊まっていいよ。俺は床で寝るからベッド使って」
「べ、別に床で寝なくてもいいわよ。今日だけは特別に許してあげる。そのかわり、絶対に変なことしないでよっ!」
「もー、しないって。とにかく早く寝ようぜ。眠いったらありゃしない」
俺が部屋に鍵をかけ、明かりを消そうとすると、エリナはすでにポニーテールをほどいて狭いシングルベッドに先に潜り込んでいた。
最初は仰向けのまま二人ともベッドに入っていたが、しばらくするとエリナは横向きになり体を寄せてきた。そしてこちらの肩に自分の額を当てると左手を俺の胸の上にそっと置いた。腕にはエリナの柔らかい胸と少し小さめの突起が触れている。
そいつのおかげで重かったはずの俺の瞼はバッチリ軽くなった。
もしかして、つ、つ、つ、つけてないのか??
寝る時だから当たり前か。それにしてもこのままだと確実に理性という名のダムは決壊し、欲望の渦に飲まれてしまうだろう。
実際、もうすでに俺の妄想の中のエリナは丸裸にされ片足にパンツが引っかかった状態である。
「あのー、エリナさん? わたくし、寝れなくなるんですけど」
「いいわね、絶対に変なことしないでよっ」
言葉と行動の圧倒的矛盾っっっっ!
「私が追いかけて来たのはね、カナデにちゃんと言わなきゃいけないことを言えてなかったからなの」
「ん? 何のこと?」
「あのね、お母様を助けてくれてありがとう。この事をきちんと伝えたかったの。言おう、言おうと思ってたけど、いざ面と向かうとなかなか言い出せなくて。結局、私は何も出来なかったし、もしあなたがいなかったら、お母様はもちろん、お父様も国のみんなも今頃はきっと・・・・・・」
「遅くなってごめんなさい。本当にありがとうっ」
エリナはそう言うと俺の肩に顔を押し当てて声を殺して泣いた。
「なあーに、お姫様。礼にはおよびません。当然のことをしたまでです! また困ったことがあれば、わたくしめに何なりとお申し付けください」
俺はエリナの頭を撫でながら少しおどけて返した。
「あはは、もぉ、何キャラなの? それ?」
エリナは涙を拭うとニッコリと微笑んだ。笑っているエリナはとても可愛い。
よかった。どうやら泣き止んだみたい。
「ねぇ、ねぇ、ところでカナデの家族は今どこにいるの??」
「俺の家族? 俺の家族はね……」
俺は幼い時に家族を失ったことや親戚をたらい回しにされていつも一人だったということをエリナに話した。もちろん他人にこんな話をしたのは初めてだった。
「そうだったんだ。ねぇ、こっち向いてよ」
「ん? 何?」
俺は体ごと向きを変えて、エリナの方へ顔を向けた。するとエリナは黙って自分の胸に俺の顔を導くと優しく頭を撫でてくれた。
「ちょっ、おっ、おい」
「いいから、大人しくしなさいよ。今度は私の番っ」
エリナのマシュマロのような胸の柔らかさと温かさを感じてるうちになんだか自然と涙が溢れてくる。こんな気持ちになったのは何十年ぶりだろうか。子供の頃に母親がなかなか寝付けない俺を優しく寝かしつけてくれた時と同じ感覚。
「大丈夫、カナデはもう一人じゃないわ。これからは私がそばにいるから。なんたって私はあなたの・・・・・・なんだからね」
俺はエリナの胸の中で最後の言葉を聞き取れないまま心地のよい深い眠りについた。
・・・・・・
「ちょっと! いつまで寝てるのよっ! 馬車に乗り遅れるわよっ!」
エリナの声で目を覚ますと、もうすでに正午を回っていた。
「早くしないと置いていくわよっ」
「すぐ行くから待ってよっ」
俺は、急いで支度を済ますとエリナのあとを追いかける。
「なに、ニヤニヤしてるのよっ」
「別に〜〜」
こいつと旅をするのも悪くないかもな……
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