第45話 続、真夜中の訪問者〜1
俺はマルコの店の帰りに公衆浴場に寄って汗を流し、向かいの酒屋で酒を買い宿へ戻った。部屋に入ると窓を開けて椅子に腰掛け火照った顔を手で扇ぐ。それから買ってきた酒で喉を潤し、小一時間ほど涼んだ。おかげで身体の火照りも引いてきたのでベッドに移動し店で買った物を一面に広げた。
調子に乗って五枚も魔映板を買ってしまったが、どれも試聴した限りでは当たりで後悔はしていない。これなら、しばらくは楽しめそうだ。
本当は何枚か見ようと思っていたが、明日は午前中に出発する乗り合い馬車に乗る為、今日は一枚だけ見て早めに寝ることした。
どれにしようかな〜
ベッドに並べた五枚から目を閉じて一枚選ぶ。
ドンドンドン
突然のノック音にビックリして目を開ける。
こんな時間に誰だ?
「はーい、どちら様ですか?」
魔映板を部屋の隅へ追いやり、ゆっくりとドアを開けた。
「ヤッホー!」
慌ててドアを閉めて考える。何であいつがここに?
いや、見間違いかもしれない。きっとよく似た宿の従業員のはず。そう自分に言い聞かせてもう一度ドアを開ける。
デジャヴゥゥゥゥーー
勢いよく飛び込んで来た者の正体はやはりエリナだった。
「何でここにいるんだよっ!」
「なんでって? 私もあんたの旅についていくからに決まってるじゃない」
「だ〜か〜ら〜 なんでついて来るんだよ!」
「なによ〜 冷たいわね〜 帰国してすぐに追いかけてきたんだから。この街に着いてからも宿を一軒、一軒探したのよ。一人旅は寂しいでしょ? だから、この私が一緒に旅をシ・テ・ア・ゲ・ル。光栄に思いなさいっ!」
「余計なお世話だから早く帰れよ。あっ、まさか、勝手に城を抜けてきたんじゃないだろうな?」
「それは大丈夫。お父様とお母様にお願いしたら、あっさり認めてくれたわ。カナデさんが一緒なら心配ないわ、社会勉強の為に行ってらっしゃい! だって」
みんな何を考えてるんだよ。仮にも一国の王女だぞ。簡単に旅に出すなんて。
そうか、ロイドもアイラもこうなる事が分かっていたから俺にしつこく念を押したのか。
ぐぬぬっ、やられた。せっかく一人旅を謳歌しようと思っていたのに
「あっ、そうそう。アリサからこれを預かってきたんだったわ」
エリナはしっかりと封のされた手紙を渡してきた。
「なんだろう? もしかしてラブレター?」
期待に胸を膨らませ手紙を開封するとただ一言、こう書かれている。
『エリナ様に何かあれば殺す』
俺は黙って手紙を折りたたんでポケットにしまった。
「馬鹿ね〜 ラブレターなわけないじゃない。アリサは来月、結婚するんだから」
け、結婚だと。あのアリサさんの体を好き放題できる男がこの世にいるだなんて。一体、前世でどんな徳を積んできたんだよ。
それに比べてこっちは勝手に殺されて、勝手に異世界に飛ばされたというのに。
「さっきから何をブツブツ言ってるのよ。とりあえず私は部屋に戻るわね。じゃっ、明日からよろしく〜」
エリナが部屋を出た後、俺はベッドに寝転がると、しばらく天井をぼんやりと眺めた。はたしてエリナを連れながらこのまま旅を続けていいものかどうか。エリナは確かに普通の人間よりは強いがナイトメアのような相手だと歯が立たないし、俺にもエリナを守りながら戦う自信だってない。もし、万が一にもエリナの身に何かあったらジークやアイラにだって顔向けできなし。
それにエリナと一緒だと、これから楽しみにしている娼館巡りもできないじゃないかっ!
やっぱり置いていくか……
それがお互いのためだと思ったので、明日は予定より早く起きて始発の馬車に乗ることにした。流石にエリナだって二度も追いかけては来ないはずだ。
そうと決まれば今のうちに荷物をまとめておこう。
俺は明日の準備をするためにベッドから起き上がろうとしたが、酒を飲んで横になったせいか急に眠気に襲われてしまい、残念ながらそのまま眠ってしまった。




