第43話 魔力解放〜2
「俺は意識を失ったと同時に真っ暗な空間に仰向けで横たわっていた」
「カナデよ、聞こえるか?」
どこからかミリアの声がする。
「はい、聞こえます! 今からどうしたらいいですか?」
「まずは周りに何か光は見えぬか? 見えなければもうできる事はないからお主の目を覚ますぞぃ」
「今、確認します」
俺はその場に立ち上がりクルッと周りを見渡した。
「遠くの方に小さく光が見えます」
「そうか、よかったのぅ。どうやらお主は魔法が使えるみたいじゃ。何色の光が見えるのだ?」
「えーとですね、赤と緑と青と黄色と白と紫です」
「馬鹿者! 冗談言っとる場合かっ。早く何色か教えぬかっ!」
「冗談じゃなくて本当に六つ見えるんですって!」
「もういい、ワシも今からそっちに向かう。嘘だったら料金は二倍もらうからなっ」
ミリアはそう言うと瞬時に俺の隣に現れた。
「何ということじゃ!? 本当に六つ見えるではないか」
「これからどうするんですか?」
俺は驚きで腰を抜かしたミリアに手を貸し起き上がらせた。
「ワシの専門は炎じゃ。とりあえず赤い方へ向かうぞ。ワシの術もそう長くは持たないから急ぐのじゃっ」
「わかりました。急ぐんですね? じゃあ失礼します」
ミリアを両手で抱えると俺は赤い光の方へ全速力で走り出した。
「こらっ、もっと丁寧に運ばぬかっ!」
ミリアの言葉などお構いなしにさらに速度を上げる。光に近づくにつれて次第に光が大きくなっていく。光の元に辿り着くとそれは大きな赤い光の柱だった。
「どうなってるんじゃ? こんなことがあり得るとは」
ミリアは光の柱を見ながらしばらく呆然としている。
「あのー、ミリアさん」
「すまん、すまん。では始めようか。ただ、これほどのものをワシの魔力で、お主に取り込めるかは正直なところわからんわい。とりあえずやれるとこまではやってみるが」
「お願いします」
「うむ、では両手を光にかざすがよい」
言われたとおりに手を光にかざすと、初めは火傷でもするのではないのかと思ったが予想とは違い、とても心地よく温かいものだった。
ミリアは手をかざしたことを確認すると俺の背中に手を置いて詠唱を始めた。すると、目の前の赤い光がゆっくりと手の平から体内に入り、そして体中を駆け巡る。光が体内に取り込まれていくにつれて目の前の光の柱は次第に小さくなっているよう見えた。
これが魔力か。体の芯が物凄く熱い……
「ミリアさん、すごいですよ! どんどん魔力が入ってきてますよ!」
「そうか、じゃが喜んでいるところ水を差して悪いがそろそろワシは限界みたいじゃ」
しばらくは順調に魔力を取り込んでいたが、三分の二を残したところでミリアの魔力ではそれ以上は取り込めなくなってしまった。
「すまんがこれ以上はワシには無理だな。まあ初級魔法ぐらいなら使えるじゃろう。とりあえず術を解くぞ。疲れてワシは死んでしまうわい」
「はい、わかりました。お疲れ様です」
ミリアが指をパチンと鳴らすと次に瞬きをした時には部屋のソファーに座っていた。
「ミリアさん、ありがとうございました」
「中途半端ですまんかったのう。ワシがもう少し若ければなんとかなったのかも知れぬが。まったく年には勝てぬわ」
「それにしてもどうなっておるのだ? 全属性使える人間など聞いたことないぞ。お主は一体何者じゃ?」
ミリアは鋭い眼光で俺を真っ直ぐ見つめてきた。
「あはははっ、俺にもよくわからないです。たまたまですよ、たまたま」
ステラにも正体を明かさないようにと言われていたこともあり、俺は笑ってその場を誤魔化した。
「まぁ、言いたくないのなら無理には詮索しないでやろう」
「ありがとうございます。助かります」
よかった、すんなり引いてくれて……
「話を戻すがあの魔力量を取り込むには相当の術者に頼むしかないのう」
「そうなんですね。もし伝手があれば紹介していただけると助かります。もちろん紹介料もお支払いしますので」
「金はもういらんわ。あんなものいくら金を払っても見れるもんじゃない。いい冥土の土産になったわい。術者のことじゃが、伝手とまではいかないが一人だけ心当たりがある。ワシの昔の教え子に天才がおってな、彼女ならもしかしたらできるやも知れぬ」
「へー、そんな凄い方がいたんですか。ミリアさんよりもですか?」
「ワシなんて足元にも及ばぬよ。彼女は魔術師の名家に生まれで炎と風の上級魔法を自由に使いこなし、普通は四年で卒業するところを二年で首席卒業しおったわ。確か名前はアンネロッテだったはず」
「今はどこにいるんですか?」
「んー、知らん。ミラーナに居るかもわからん。なんせ二十年ぐらい経っておるからのぉ」
「そうですか……」
「そんなに落胆するでない。魔法学校で聞けば手がかりがあるやも知れん」
「わかりました。とにかくミラーナに着いたら魔法学校を訪ねてみます」
「そうか。ならこれを持って行くがよい」
ミリアは机の引き出しから一枚の古びた紙を取り出して、指で数回擦ってから俺に渡した。
「それはワシの紹介状じゃ。魔法学校は警備が厳重じゃからなかなか入れんよ。だが、その魔法印を見せれば話ぐらいは聞いてくれるじゃろう」
「ありがとうございます。では、そろそろ失礼します」
「おい、こら待て。銀貨十枚払わぬか」
「えっ、さっきお金いらないって」
「あれは紹介料の話じゃろ? それとこれとは話は別じゃよ」
「はい …… わかりました」
「ふぉふぉふぉ、嘘じゃよ。冗談、冗談。早く行かぬと日が暮れるぞ」
ミリアはそう言うと部屋を出て玄関に向かって歩き出した。
「ちょっと待ってくださいよー」
俺も慌てて立ち上がりミリアのあとを追いかける。玄関に着くとちょうどクラリスが買い物から帰って来たところで両手にはたくさんの荷物を持っている。
「あら、カナデさん、もうお帰りですか? 晩御飯も食べていけばいいのに」
「ありがとうございます。気持ちだけいただいておきます」
「そう。残念だわ。ところで魔力解放はどうだったの?」
「一応は成功したうちになるのかな?」
「一応で悪かったなっ」
「あっ、いえ、そんなつもりじゃ。とにかくミリアさんありがとうございました。いろいろと教えてもらって助かりました。ミラーナに着いたらアンネロッテさんを探してみます」
「かまわんよ。こっちもいいもの見せてもらったからのぅ」
「では俺はこれで失礼します。お二人ともお元気で」
俺は二人に挨拶を済ませ、屋敷から出ると今晩の宿を探すことにした。
「クラリスよ、ワシは渡人に出会ったかもしれぬ」
「渡人っておとぎ話にでてくるあの渡人? この世が災いの闇に包まれるとき、星霊神より遣わされた渡人が人智を超越した力で闇を祓うって話だよね?」
「そうじゃ、あやつはそうかもしれん」
「えっ! カナデさんが? あははは、もうおばあちゃん冗談やめてよ。渡人様なんて作り話でしょ。やだボケ始めてるのかしら? お母さんっ! おばあちゃんがボケ始めてきてるっ!」
「えっ? お義母様大丈夫ですか? 一度、お医者様に診ていただいたほうが……」
「ワシはボケとらんわっ!! どいつもこいつもボケ老人扱いしおってからに! もう、ええっ!」
「おばあちゃん、待ってよっ。まったく、おばあちゃんたら、自分では年には勝てないって言うのに人に言われると怒るんだから」
機嫌を損ねたミリアはそのまま自室にこもってしまった。
「渡人様、どうかこの世界をお守りください」
自室に戻ったミリアは窓から遠くの空を見つめながら心の中でそう呟いた。




