第42話 魔力解放〜1
途中の二つの村で休憩をして夕方前にはカッサータに到着した。
「あー、疲れた」
馬車を降りた俺は大きく背伸びをする。
「もたもたしてないでさっさと歩かんかい。日が暮れてしまうわい」
「おばあちゃん、私は少し買い物をしてから帰るわね。それじゃあカナデさん、また後でね」
「はい、いってらっしゃい」
クラリスを見送って、すぐにミリアの後を追いかけた。
「あのー、家の場所わかるんですか?」
「心配ない、黙ってついて来ればよいわ。もともとワシの家を息子が結婚した時に貸したんじゃ。新婚生活にババアがいたら嫁さんも可哀想じゃろ?」
なるほど、一応気を遣っていたから独りで暮らしてたんだ。ただの偏屈ばあさんじゃないんだな……
馬車を降りてから15分ほど歩いただろうか、細い路地を抜けた先に立派な屋敷が見えてくる。
立派な屋敷だなぁ、貴族の別荘かなにかかな?
「おい、どこに行くんだい」
屋敷の前を素通りしようとしてた俺をミリアは呼び止めた。
「えーー!! ここですか??」
「そうじゃ、なにか文句あるのか?」
「い、いえ、あまりにも想像と違ったのでビックリしてっ」
「まぁ、魔法学校の教員は給料もいいからのぉ。退職金もたんまりと貰えたわい」
そうか、だから授業料がめちゃくちゃ高いのか……
「なにをしておる、早くこんかっ!」
俺が屋敷に見惚れているうちにミリアはすでに玄関の前に立っていた。
玄関まで遠っっ!!
俺は息を切らしながらやっとの思いでミリアの待つ玄関まで辿り着いた。外観や庭にも驚いたが玄関の扉もやはり立派だ。
「帰ったぞぃ」
ミリアは扉を開けると大きな声で中に向かって叫んだ。すると中から中年のメイドらしき女性が現れる。
「ミリア様、お待ちしておりました。奥様、ミリア様がお戻りになられました! 私はお茶の準備をいたしてまいります」
メイドと入れ違いに奥から身なりは簡素だが、とても品のある気立ての良さそうな女性がこちらに向かって歩いてきた。おそらく彼女がクラリスの母親だろう。
「お義母様、お久しぶりです。遠い所からお疲れ様でした」
「クレアさん、久しぶりじゃのう。これから世話になるよ」
「やめてください、お義母様。ここはお義母様の家なのですから。ところでそちらの方は?」
「あー、こいつはワシの太客じゃよ。まあ、すぐに帰るから気にせんでええ」
「カナデといいます。お邪魔させてもらいます」
俺は軽く会釈をしてミリアの後について歩きだした。長い廊下の突き当たりの扉の前でミリアは立ち止まると何やら呪文のようなものを唱えだした。どうやら魔法で扉を施錠していたに違いない。
カチャ
「よし、入ってそこに座るがよい」
案内された部屋は思ったよりも狭く、壁の本棚には魔導書らしき難しそうな本がビッシリと並んでいた。俺は興味津々で部屋を見渡しながら部屋の真ん中にあるソファに腰を下ろす。
ミリアは窓を開けると机の引き出しから取り出した紙に包まれた小さな物を俺に放り投げた。
「これはなんですか?」
「今からワシがお主の意識に潜るからのぅ、潜りやすくする為の睡眠薬みたいなもんじゃ。いいからさっさと口にいれんか」
包んである紙を開くと中からドス黒くて白い粉がいっぱい付いた飴玉のようなものが出てきた。
「見るからに怪しいですけど食べて大丈夫なんですか?」
俺は手に取ったそれをミリアに返した。
「まぁ少し古いが死にはせんじゃろ」
「あの、新しいのは無いんですか?」
「無い! つべこべ言わずに早く口に入れんかっ。それが嫌ならもう帰るんじゃな。無論、金は置いていってもらうがな」
「わ、わかりました。わかりましたよぉ」
俺は、渋々に飴玉を口に入れた。
苦い! 不味い! 臭い! 例えるならそれは床にこぼれた牛乳を拭いた雑巾を一週間後に口に入れたみたいだった。
「絶対に吐き出してはならん。それが最後の一個だからな。しっかりと口の中で溶かすのじゃぞ」
途中、何度も吐きそうになりながらも10分程かけてようやく口の中の飴玉をすべて溶かすことができた。おそらく今まで生きてきた中で一番長い10分だったに違いないだろう。
「どうじゃ? 意識はまだあるか?」
「あ、はい、まだ一応。でももうダメです……」
ミリアの声が次第に遠くなっていき、俺はそのまま意識を失っていった。




