第36話 愛情スープ?
どれくらい眠っていたんだろう……
気がつくとそこは知っている天井だった。
俺は最初に案内された部屋のベッドで目が覚める。
ゆっくりと上半身だけを起こすと、体にはいたるところに包帯が巻かれていた。
「いててててっ」
まだ脇腹が痛むのと右手に少し痺れがある。
それにしてもあの後どうなったんだろう。
二人が無事ということまでは確認したのだがそこからの記憶が全くない。
あの時は本当に死ぬかと思った。
もっと強くならないと……
とりあえず目も覚めたので俺は、人を呼んでみることにした。
「すみませーん!」
少し大きめの声でベッドから呼びかけてみる。
すると間もなくしてロイドと見知らぬ気品のある女性が部屋に入ってきた。
「おお、カナデ様!! 目が覚められましたかぁ。ちょうど様子を窺おうと近くまで来ていたところに声がしたので飛んできました」
「お体の具合はいかがですか?」
見知らぬ女性が丁寧な口調で尋ねてきた。
「あっ、はい、少し体が痛む位で、もう大丈夫です」
一体誰だろうこの人は……
「この度は、本当にありがとうございました」
女性がゆっくりと頭を下げたので、俺もそれに合わせる。
「カナデ様、この方がアイラ様です」
「えっ!?」
俺は体の痛みも忘れて、慌ててベッドの上に正座した。そういえばよく見たらエリナにそっくりだ。
「そんなにかしこまらないで楽にしてください」
「気づかなくてすみませんでした。お姿が戻る様子は見えたのですがお顔までは見えなかったので」
「それにしてもずいぶんお若く見えるのですが」
見た目は二十代後半といった感じだ。
エリナの少し歳の離れた姉と言われても誰も疑わないだろう。
「ふふふ、これには私も驚いているわ。どうやらナイトメアに憑りつかれる前に戻ったみたい」
「なんだかすごく得した気分だわ」
この人、今まで生死を彷徨っていたのにポジティブだな……
「エリナも喜んでいるんじゃないですか?」
「それはもう職務の時以外はアイラ様にベッタリです」
ロイドは嬉しそうに答える。
当たり前か、一番母親に甘えたい時に甘えられなかったんだからなぁ。本当にみんな笑顔になれてよかった。
「それではカナデさん、ゆっくり休んでください。あとで愛情たっぷりの食事を運ばせますね」
「愛情?? えっ、はい、ありがとうございます。いただきます」
軽い雑談をした後、二人は、なにやらニヤニヤしながら部屋をでていく。なぜニヤニヤしてたのは分からないままだ。
まぁいいや、もう一眠りするか……
次に目を覚ますと窓の外はすでに日が落ちていた。
トントン
ドアのノックが聞こえた方に目を向けると、そこには食事を持ったアリサが立っている。
「お食事をお持ちいたしました。こちらに置いておきますね。それでは失礼いたします」
アリサは淡々としすぎる口調でベッド傍のテーブルに食事を置くと部屋から直ぐに出て行こうとしている。
はやっ!
寝ぼけて抱きついてしまった日から、俺に対してあからさまに態度が冷たい。
それでもめげずに俺は声をかけた。
「あのー、アリサさん!」
「なんでしょうか?」
アリサは出口を向いたまま立ち止まって素気なく返す。
「実は俺、まだあんまり手が自由に動かなくて」
「もしよかったら、あの、その……」
察してくれたのかアリサは何も言わずに椅子持ってきて横に座ってくれた。そして何も言わずに持って来たスープを俺の口に放り込んだ。
「熱いっ!!」
あまりの熱さにスープを吐き出してしまった。
「ちょっと何してるんですか!!」
アリサは急いで布団にこぼれたスープを拭く。また懲りもせず怒らせてしまった。
「すみません、あまりにも熱くて」
アリサはやれやれといった様子でスプーンですくったスープにゆっくり息を吹きかけた。
やったー!
俺は心の中でガッツポーズを3回繰り返す。
なんて幸せなんだ。これならずっと怪我したままでいいや。
こんなきれいなメイドさんに食べさせてもらえるなんて命懸けで頑張った甲斐があったよなぁ。
俺はスープの味とアリサが時折、近づく時の優しい香りをしっかり堪能した。しかし途中からは元気になりそうな下半身を抑えるために必死にならずにはいられなかった。
天井を見つめたまま九九を一の段から九の段まで何度も繰り返したことで味も匂いもわからなくなってしまったのだ。
スープを半分ほど飲んだところでドアの方から何だか嫌な気配がする。そっと目線を向けるとそこには不機嫌そうな顔のエリナが立っている。
「3日も目を覚まさず眠っていたのに、起きて早々にいいご身分ね」
「エ、エリナ様!! こ、これは違うんです」
急に現れたエリナにびっくりしたのかアリサは驚いてスプーンを床に落としてしまった。
「まぁ、目が覚めたんだったらいいわ。それじゃ」
俺が何か言葉を返す前にエリナはクルリと向きを変えて足早に部屋を後にした。
「なんだあいつ、会った途端に嫌味かよ」
エリナの喧嘩腰な態度に俺は内心腹が立った。
一言ぐらい礼があってもいいじゃないか?
「あー見えてエリナ様は一番心配しておられたのですよ」
「あれで?」
俺は納得のいかない顔でアリサに聞き返す。
「あれでです」
「実はこのスープはエリナ様が毎朝出かける前に作ったものなのです。目が覚めたら持っていくように言われていました」
「目が覚めるまでは毎朝作り直していたんですよ。それにこの部屋にも朝出かける前と夜帰られた時には必ず立ち寄られていました」
「えっ!? そうなんだ意外だなぁ。でもなんでですかね? わざわざ料理までして、毒でも入ってるのかな??」
冗談まじりで笑う俺を見て、アリサは呆れた顔で眉間にしわを寄せる。その顔はどう見てもまた怒っている。
「なんでですかね?? ですか……」
「そんなことが分からないようでしたらまだまだ修行が足りませんね」
アリサは落ちたスプーンを拾うとそそくさと部屋から出て行ってしまった。
また怒らせてしまった、でも何か悪い事したかなぁ?
まったく、あいつが現れるとロクなことがない。
まさに天国から地獄とはこのことだ……
嫌な顔をしながらも、もう一度スープに目を向けて、少し震える両手でゆっくりスープの皿を持ち上げ口へ運んだ。
そういえば、このスープ最初に料理長のものをご馳走になった時に比べたら少ししょっぱい気がしてはいたんだよな。
そんなことを考えながらスープを完食し、また横になった。
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