第29話 決戦ナイトメア~1
もう朝か……
昨日は街から戻ったあと師匠に遅くまで付き合わされたからな。
まだ少し眠い。
眠い目をこすりながら立ち上がり、冷たい水で顔を洗って目を覚ます。
「おっ、早いな」
「おはようございます師匠。相変わらず早起きですね」
「生活のリズムを崩さないのが大事なんだよ」
師匠はお茶をすすりながら静かに呟く。師匠はいつ寝ているんだろう。俺よりも遅くまで起きていて、俺より早く起きている。
「おはようございます! カナデさん」
ファリナが朝食を持って台所からこちらへやって来る。
「おはようファリナ。今日はいつになく豪華な朝食だね?」
「そりゃ今日はカナデさんには頑張って勝ってもらわないと」
「ありがとう。頑張るよ」
「大丈夫、カナデさんなら絶対勝てますよっ!」
「そいつはどうかわからんぞ。なんたって俺が手も足も出なかったんだからな」
「もぉー! お父さん、水をさすようなこと言わないでよね。だいたいカナデさんのほうがお父さんより強いでしょ」
「一緒にしないでもらえますかぁ」
ファリナの勢いに師匠もすっかり黙ってしまった。いつも通りの食卓に何だかとても安心する。
師匠も娘の前では普通のおじさんだな……
「おいカナデ、聞こえてるぞ」
「す、すみませんっ」
俺は朝食を急いで口に放り込んで逃げるように外に飛び出す。
今日もいい天気だな。
朝の日の光を浴びながら大きく深呼吸をする。
さぁ、いよいよだ……
緊張してきた俺は、手のひらに人という字を書いて呑み込んでみた。
すると……
「まぁ、なんということでしょう! まったく効果はありませんでした~」
「お前、さっきから一人で何を言ってんだ??」
一人遊びしていた俺に、師匠が後ろから声をかけてくる。
「わっ! 師匠、急におどかさないでくださいよぉ」
振り返った俺に師匠は一振りの剣を何も言わずに渡してきた。練習の剣と違い、とても重量感がある。
「これは??」
受け取った剣を鞘からゆっくり抜いてみる。刀身は真っ黒く、全体的に簡素で飾り気は全くないが立派な剣だ。
「こいつは俺がいつか奴にリベンジするために鍛えた剣で、それをお前の闘気に耐えられるように改良した物だ」
「えっ!? そんな大事なものいいんですか??」
「いいから持っていけ。そんな練習用の剣では、お前の全開に耐えられず折れちまう。それじゃ勝てるもんも勝てないからな」
「それで勝ってこい!」
「はい! ありがとうございます!」
「あと、ちなみに攻略法みたいのはないんですか?」
「あるわけねーだろ。そんなもん。まぁ、しいて言うなら奴はおそらく左利きってことだ」
「勝負を決めにくる時は自然に利き手を使っちまうからな」
「一流な武人ほど利き手を悟られないようにするもんだ。頭の隅っこにでも入れとけ」
「わかりました! ありがとうございます!」
新しい剣で軽めのウォーミングアップを済ませ、ちょうど一息ついていた頃、ロイドが馬車でこちらへ向かってくるのが見えた。
「カナデ様~ お迎えに参りました~!」
もうそんな時間か……
「じゃあ師匠行ってきます!」
「おう、行ってこい!」
師匠は俺の背中を思い切り平手打ちした。
「痛い!」
まったく、この人は加減てものを知らないのだろうか……
「お前は大袈裟なんだよ。気合いを入れてやっただけだろ」
見送ってくれた師匠をあとにしてロイドの待つ馬車へ向かう。
「おー、カナデ様、ずいぶんたくましくなられて! 身体の内から力が満ち溢れていますぞ!」
「えっ、そうですか?」
かなり闘気は抑えてるんだけどなぁ……
実はロイドさんは只者じゃなかったりして……
馬車に乗り込もうとするとファリナが慌てて家から飛び出して、こちらへ駆け寄って来た。
「もう行っちゃうんですか!」
「うん、夕方までには城に着かないといけないからね」
「絶対に戻って来てくださいね!」
ファリナは今にも泣き出しそうな顔で俺の腕を掴む。
「大丈夫だよ! 必ず帰ってくるから」
「いってらっしゃい!」
「いってきます!」
手を振るファリナを背に馬車に乗り込み、俺も窓からファリナに手を振り返す。
「では、出発しますぞ!」
ヒリヒリする背中を摩っていると馬車はゆっくりと動き出した。
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