第17話 受け継がれる意志
食事が終わるとファリナがお茶を入れてくれた。
「あんなに機嫌のいい父は初めて見ましたよ。カナデさんのことをよほど気に入ったみたいですね」
「初めて?? そんなことはないでしょ??」
「父は昔から旅に出てばかりで家にあまりいなかったですし、母が亡くなってからは、会話がほとんど無い状態でしたから」
ファリナは母親を思い出したのか少し寂しそうにお茶をすすった。
「母は私を産んだ後、流行り病にかかってしまって、5歳の時に亡くなりました。ちょうど父が旅に出ている時に発作が起きてしまって、私がお医者様を連れて帰って来たら、もう手遅れでした。私は自分勝手に旅に出ていた父に、怒りをぶつけたんです」
「そして、それ以来、父が旅に出ることはなくなりました」
だからお城で剣を教えてたのか。でも今はあんなに仲良さそうだよな?
「仲直りはできたんだね?」
「はい、時間はかかりましたが。私は13歳で、住み込みで町に働きに出ました。この家には二度と戻らないつもりでいましたが、二年前に偶然、仕事でお城に行くことがあって、そこでロイドさんから、母が亡くなった時に父がどこに行ってたかを聞かされたんです。あの日、父は母の病気を治せる薬草をナイトメアが住処にしている森に探しに行ってたんです」
「それを聞くと私は、すぐにでも父に謝りたくて仕事も忘れてここに戻りました。でも、いざ父に会ったら言葉が出なくて。そんなただ泣いている私を父は優しく家に迎え入れてくれました」
そう言うとファリナは涙を浮かべた顔を見られないようにキッチンに食器を片付けに行ってしまった。きっと、二人とも素直になれなくて辛かったんだろうな……
何も見てなかったことにするか。俺はキッチンにいるファリナにおやすみを言って、用意してくれた部屋で床に就いた。明日は筋肉痛だから覚悟しておかなければならない。
翌朝、案の定、筋肉痛で起き上がれなかった俺を師匠がたたき起こしに来た。
「いつまで余裕こいて寝てやがる! さっさと水汲んで来い!」
急いで支度をして外に飛び出すと師匠は黙々と薪割りをしている。俺は師匠に近寄り、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。答えてくれるかは分からないが……
「師匠、あの~」
「なんだよ? どうせファリナが余計なことでも言ったんだろ?」
師匠は頭を掻きながら気まずそうに顔をそむけた。
「なんで俺に稽古をつけてくれる気になったんですか?」
「あの日、俺は自分の未熟さで大事な人を失った。今でもあの時、薬草を持ち帰れていればと思うこともある。だが無念を晴らしたくても、今の俺ではもうどうにもならない」
「そんな時にお前が現れた。そしてお前の目を見て賭けてみようと思った。ただそれだけだ」
「師匠!!」
「うるせーよ! 朝から大声出すなっ」
「俺、必ずナイトメアを倒します! そして王妃様もこの国も救って、ついでに師匠の無念も晴らして見せます!」
「ついでってなんだよ!? いいから早く行け!」
師匠は俺に桶を投げるとまた薪を割りに行ってしまった。
今はとにかく与えられた課題をこなしていくしかない。そしてナイトメアを必ず倒す。
そう心に固く誓って川へ向かった。




