第16話 修行開始
「いいかカナデ。お前はセンスも、何故だか分からんが特殊なスキルも持っている。しかし、それを生かせる基礎が全くないからまずはそこからだ」
「はい! よろしくお願いします!」
とにかく基礎を教えてもらえるのは本当にありがたい。なんたって剣なんて昨日、初めて握ったんだし。
「しばらくは、剣を使わない訓練をする。今から、ここの山道を下って川の水を汲んで来い! 汲んだ水は今日の風呂に使うから走って行けよ!」
俺は師匠に、二つの木の桶を渡され少し困惑した。一ヵ月しか無いのに剣を使わないなんてどういうことなんだ?
「じゃあ、行ってこい!」
「いってきます!」
納得ができないまま、とりあえず山道の入り口に着くと、すぐに目を覆いたくなった。道というのは名ばかりで、下には石がゴロゴロ、左右には草木が生い茂っているただの獣道だ。
なんて走りにくいんだ……
あまりの道の悪さに歩いている速度とほとんど変わらない。
30分ほど下ると、ようやく川が見えてきた。急いで川の水を汲んで、休む間もなく来た道を引き返す。
はぁ、はぁ、やっと着いた……
湯舟に汲んできた水を入れて、またすぐに山を下る。
一体、何往復したのだろう?
湯舟が一杯になった頃には、すっかり日が暮れていた。
「し、師匠、終わりました」
俺の足腰は悲鳴を上げていて、立っているのがやっとだ。
「先にその汚い身体を洗ってこい、それから飯だ」
這うように風呂場へ向かい、湯舟に飛び込むと汲んできた水は、例の石のおかげでちょうどいい温度になっている。
痛てて、絶対明日は筋肉痛だな……
俺は、湯舟で入念にマッサージしてから風呂から上がると師匠は一杯やりながら見知らぬ女性と話している。
「やっと出てきたか。飯が冷めちまったぞ! ファリナ、こいつが今、話してたカナデだ」
「初めまして、バローロの娘のファリナです」
微笑みながら挨拶してきたファリナは師匠の娘とは思えない可愛らしい女性だ。年齢は俺よりは少し下だろうか。
「カナデです、しばらくお世話になります」
「普段、ファリナは町で住み込みで働いているんだが、たまに掃除や飯を作りに来てくれるわけよ」
本当だ! 昼間は足の踏み場がなかったのに綺麗に片付いている……
「いいかお前、大事な娘に変な気、起こすんじゃねーぞ!」
「もう、お父さん! 飲み過ぎよ! ごめんなさい、気にしないでね」
ファリナは師匠から酒の瓶を取り上げると、キッチンに片付けにいった。
「ところでカナデ、今日の水汲みから何か学べたか??」
「いえ、足腰の強化になるのかな? ぐらいしか」
何も考えず、がむしゃらに走ってただけだしな……
「あれには三つの意味がある。一つは、お前の言った体力面、しかし、これは本来の目的ではない」
「大事なのは二つめと、三つめだ。お前にとってあの道は走りやすかったか?」
「すごく苦労しました。走っているはずなのに歩いているみたいで……」
「そう、いつも戦う場所が、平らな地面とは限らない。岩山だったり、森だったり、水辺だったりすることもある。悪路でも普段の力を出せるように慣れておかなければならない」
「三つめは、先を見据えた動きをするということ。右の枝をかわした後、左はどうかわしたら次の動きがしやすいか、何十手も先を考えながら行動しろ。目先のことだけでなく全体を見渡せ! そして最善の選択をする」
「これが出来なければ、一ヶ月、水汲みで終わるからな。明日からは、それを意識してやれよ」
「はい!頑張ります」
「じゃあ俺は、寝る。お前も早く寝ろよ」
師匠は、一方的に話をすると奥の部屋に千鳥足で入っていった。その後ろ姿を見ながらさっきの話を思い出す。やはりソードマスターというのは伊達じゃない。水汲み一つにあんなに意味があるなんて思いもよらなかった。
「ふふふ、やっとご飯が食べれるわね。お酒飲むとホント話が長いんだから」
「そんなことないよ。ここに来てよかった。本当に勉強になることばかりだし」
とはいえ、腹ペコなのも事実……
俺は、パンを両手で掴んで、口いっぱいに詰め込んだ。




