プロローグ
「お疲れ様でした」
今日もいつもと同じ時間に退社して、いつもと同じバスに乗って帰宅する。
そんな生活が入社してからもう10年続いてる。
俺の名前は月城 奏 ごくごく普通のサラリーマン、32歳の独身だ。
趣味と言えばネトゲぐらいで休日もよほどのことがない限りは家からは出ない。
別に自分はこの生活に特に不満はないし窮屈なわけでもないのだ。
そりゃたまには、学生の頃に戻ってみたいとか考えたりはするが到底できない話。結局は、今の人生を消化していくしかないと自分に言い聞かせている。
そういえば今日は新しいガチャの更新日だったなぁ ボーナス入ったし少し多めに回してみるか。
そんなことを考えながらバス停に向かっていると後ろの方から誰かの呼ぶ声がする。
「月城さーーん」
息を切らしながら走ってくる女性がいる。
同じ職場の野田 栞だ。
去年に一度、同じ企画でチームになったことがあるが今は挨拶を交わすぐらいでしかない。
「帰り道こっちなんですか?」
彼女の帰り道は反対ということは分かっていたが、どう反応していいか困ったので、そう言った。
なぜなら女性に呼ばれることなんて滅多にないからだ。
「仕事が終わってから友達と約束があったんですけど、急用できたとかで、すっぽかされちゃってー」
「コーヒーでも飲んで帰ろうかと思ったら、ちょうど月城さんの姿がみえたので」
「もしよかったらご飯行きませんか?」
「はっ!?」
俺が一生聞くことはないだろうと思っていた言葉に思わず耳を疑った。
「もしかして予定ありました? デートとか」
「ないです、ないです。からかわないでください!」
俺は思いっ切り首を横に振る。
「決まりですね。何か食べたいものあります?」
外食する店なんてたまに仕事帰りに寄る、定食屋くらいだ。そんな俺が女子ウケする店なんて知るわけない。情け無い話だが彼女に全てを任せた。
「じゃあ適当に決めちゃいますね」
そう言って彼女はカバンからスマホを取り出して謎の歌をうたいだす。
「どの店にしようかな、天の神様の言うとおり、ぽぺぽのぽぺぽのおまけつきですよ、鉄砲撃ったら知らない人に当たったよ」
彼女が店を決めてる間、さっきから気になっていた解けた靴紐を結ぶために腰を下ろした。
「すみません、靴紐結ぶんで少し待っ……」
駄目だ、スマホに夢中で聞こえていない。
まぁすぐに追いつけばいいか……
靴紐を結び終え、立ち上がると、すでに彼女は20メートルぐらい先まで進んでいる。
交差点の信号は赤だし追いつけるな……
急いで彼女のあとを追う。
えっ……
ちょっと待って……
信号は赤なのに彼女は止まる気配がない。
俺は彼女を止めようと必死に走る。かろうじて追いついたがもう避けられない。
仕方ない……
諦めた俺は彼女を前に突き飛ばす。
キキィィィィーーーー
急ブレーキの音と同時に悲鳴が辺りに響き渡る。
俺はアスファルトに激しくたたきつけられて何度も転がった。
カラダがいうことをきかない……
ここで死ぬのか……
うそだろ……
目の前にうっすらと彼女の顔が見えた。
俺の名前を呼んでいる。
「月城さーーん!! しっかりしてくださーい!!」
の、野田さん……
無事でよかった……
あまりいないとは思いますが少しでも気に入った、続きが気になるという方がいらっしゃいましたら励みになりますのでブックマーク、評価をお願いします。