中二病でも恋はしない――青春嫌いな妖怪天邪鬼
朝のHRが始まる前の教室にて、僕――猫宮ツバサは、独り読書に耽っていた。クラスの他の奴らは、相変わらずオトモダチと楽しく談笑している。僕は改めてそいつらを一瞥し、小さく鼻で笑った。
群れるのは弱者の象徴。強者とは群れを嫌い一匹狼を貫く孤高の存在。それこそが最高にクール。一部の失礼な人間は僕を「中二病」と称するが、孤高こそクールだ。
とは言え、そんな僕にも悩みはある――
「おはよー、猫宮!」
そう、隣の席の犬塚だ。席替えで隣になったせいで、事ある毎に絡んでくる鬱陶しい人間だ。
「……朝から騒がしい」
異性に話しかけられて舞い上がる様な凡人ではない僕は、クールに返事をする。
「つれないなぁ、猫にゃんは」
「ね、猫にゃんって呼ぶな!」
犬塚の冗談に、僕は思わず反応してしまった。そんな僕を見て、犬塚はくすくすと笑う。いかん、僕のクールなイメージが崩れてしまう……何故か、こいつと居ると心が乱される。
「あ、そうだ、今日の数学の宿題やってきた? やるの忘れちゃってさ」
「宿題は自分でこなすもの。他人に頼るなど堕落も甚だしい」
「そう言いながらいつも見せてくれる猫宮、好きだよ」
「……しつこく絡まれるのが嫌いなだけだ」
「素直じゃないなぁ」
「何が⁉︎」
……気付けばまた犬塚のペースに乗せられていた。怒りのあまり、心拍数が上がっているのを感じる。僕は孤独を愛する人間だから、このままではストレスで早死にしそうだ。
「……?」
不意に、犬塚は僕を見つめた。
「……な、何?」
柄になく僕が戸惑った声を上げると、犬塚は僕の髪をそっと撫でた。
「⁉︎」
「……髪に糸屑ついてたよ」
犬塚は平然とした様子で、指で摘んだ糸屑をフッと吹き飛ばした。
「――き、気安く触るなぁ!」
「……あ、ゴメンゴメン。うち妹いるから、つい」
「この僕を年下扱いかっ⁉︎ いや、そこじゃなくて……そ、その、心臓に悪い!」
「え? なんで?」
「なんでも!」
無神経な犬塚を、僕は睨みつけた。さっきから顔が熱い……これは、そう、怒って頭に血が昇ったからだ。
……これは恋ではない。凡人とは違うクールなこの僕が、恋愛なんてする筈が無い。それでは僕の一匹狼キャラが消えてしまう。
と、ふらりと犬塚の友人が現れた。
「おい犬塚ー? 猫宮さんに絡むのやめとけって……大体お前、あんな僕っ娘中二病女のどこが良いんだよ?」
「いや普通に可愛いだろ」
「――⁉︎」
……ぼ、僕は恋なんてしていない。絶対してないからな。