山査子
「えええぇぇ!髪の毛切っちゃったん!?」
麗らかな春、1人の女子生徒の素っ頓狂な声が響いた。
「そう、切ってん。実は告白したんやけど振られてね……」
彼女の前に立つ私は、短くなった黒髪を揺らして俯いた。
「え、嘘……なんかごめ」
「なーんて、嘘やけどね!」
しんみりと言いかけた友人に向かって、私はにっと笑ってみせた。
「もう邪魔だのお手入れが大変だのって髪の毛結ぶ必要もないし、一回思い切ってボブにしてみよっかなって思ってん。どう?似合う?」
私のあっけらかんとした様子に彼女は一瞬唖然として、次いで小さく苦笑した。
「うん、似合ってる。長いのですっかり見慣れてたから新鮮やけどね」
「生まれ変わった私を、もっともっと褒めて褒めて、ついでに崇めてくれていいんやで?」
おどけて言う私に、彼女はクスクス笑った。
そのまま2人で並んで桜並木を歩き始める。
「高校生やねぇ」
「そうやで、華の女子高生!よく漫画とかやったら、恋に部活にすんごい青春してるやん?でも始まってみると意外に中学の時と変わらなかったりするんやろね」
「そんな、身もふたもない」
「あんたやって笑ってるやん」
顔を見合わせて笑い合う。
「部活はどうするん?手芸とか料理とか?」
「うーん、まだ決めてない。何があるかわからへんし、色々見てみようかなって。そっちは?」
「私もまだ。なら部活見学一緒に回らへん?」
「うん回ろ回ろ!」
二人の少女は前を向いて進む。新しい出会いとこれからの日々に、期待を膨らませて。