だんだん5話
ー5話
春菜は1ヶ月で、ライブに耐えられるピアノスキルを身に付けた。
小林は、ハルトモのコンセプトを破壊するに等しい歌詞で、アルバム制作とツアーを会議に提案した。
「小林さん。これを誰が聞くんです?」
稲沢さんが、提案書が配られてから1時間後に沈黙する幹部の中で言った。
「ファンです」
「期間限定のモトルハとして活動するのは良い。我々は、教育のメディアでは有りません。エンターテインメントのビジネスマンだ。面白くない物はファンも買わない。知ってるはずです。ハッシーくんの前にいた小林智昭なら?」
「気づかなければ歌える。しかし、気づいてしまった。なにもかも嘘だって!嘘を歌うなら、ハッシーくんの前に!今すぐ戻ります!」
幹部達がざわめいた。
「ハッシーくんの前に行っても、ファンは言いますよ。小林さんハルトモハーモニーを歌ってくれとね」
「世界観が壊れるなら、聴かないでくれと言います。聴かない自由を君は持ってるはずだと」
稲沢さんは、小林をカラオケ制作にスカウトした時の目をした。
「誰も聴かないアルバムとツアー。スタッフの生活はどうします?アルバイトで支えろと?」
「春菜を残して行きます。ひとりでやれます」
稲沢さんは小林を見詰め続けている。
「小林智昭の休養。小林春菜のソロ活動……可能でしょう。しかしこのアルバムの制作費用とツアー費用……社長は決済しますか?」
「しないと思います」
稲沢さんはうなだれて、沈黙した。
「商店街の人達や戦場カメラマンの人達が寄付を集めてくれてます。美里さんが5千万出してくれました。僕の楽曲の権利はカラオケフリーダムが持ってます…」
稲沢さんが、顔を上げて小林を遮った。
「許可を貰いたい。出ないのなら契約の破棄をお願いします?ふざけるなっ!」
怒鳴る稲沢と、小林はにらみ合った。2人幹部が椅子から転げ落ちた。
「カラオケフリーダムと小林智昭は生きるも死ぬも一緒だ。許可は俺が社長からもぎとって来る。出さないのなら、社長と刺し違える」
稲沢さんは立ち上がった。幹部が止めに入る。
ドンッ。
ドアが閉まる音に全員が動きを止めた。
「俺を殺す相談か?もう少し小さな声でするもんだ」
「社長……」
「丸聞こえだ。わざとだな稲沢?」
「………」
「稲沢は新宿で100人相手に喧嘩してかすり傷ひとつなく、帰って来た。死にたくない。来週、孫とディズニーランドに行く約束だ。来週まで死ねん」
社長は稲沢に笑った。
「株主総会。荒れるぞ。俺も稲沢も首を揃えて辞任だな?」
「社長の首は、取らせません」
「そうか。稲沢が言うなら、小林くん。存分にやれ。手を抜くなよ。俺と稲沢が首を掛けるんだからな?」
小林はカーペットの床に土下座した。頭を擦り付ける。
社長が抱き起こす。
「君はスターだ。スターがそんなことしたらファンがガッカリする。矢沢永吉がそうしたら失望だろ?君は良いけど、小林智昭はどうかな?」
「すいません……」
社長は会議室を見渡した。
「何やってる?判断を下したんだ。全員仕事にかかれ!」
社長も出ていった。小林の為の根回しをするために。