だんだん2話
ー2話
家は、春菜が強行引っ越しした三ノ宮城のままだ。
自宅アパートは鳩バスのルートになってしまい、引き払った。
なんでもないアパート前での記念写真がツイッターに上がる。
夕方に戻ると、真由子が夕食を用意してくれていた。
「ねぇ!路上ライブ見てくれた?」
粗びきソーセージとブロッコリーのホワイトシチューが、あまりにも美味すぎる。
「…見た。音が少し外れてたのと、1弦2弦が錆びてきてる音してた以外は悪くない。あれ、コピーじゃなくてオリジナルだろ?」
「そっかな~でも弦錆び出てないけど…」
「錆びって言っても、腐蝕の段階だから目に見えないよ。普通ピンって1弦鳴るだろ?ピヨ~ンて鳴り始めたら、弦のしなやかさがなくなったサインだ。交換だな」
「お父さんは、弦何使ってる?」
「ギフソンフォスファーのミディアムとライトとウルトラスーパーライトに、マーチンの80/20だな」
「そんなにイチイチ張り替えるの?」
「4台にそれぞれ張って、曲によってギターを替える」
真由子は春菜を見た。
「お母さんも?」
「そうね。全部小林くんが持ってきてくれるから、お任せだけど」
真由子は上目使いにして、口をとんがらせた。
「いいなぁお母さんは。お父さんが全部やってくれて。ローディの人がギターに触らせてくれないって嘆いてたよ?」
「メジャーまで路上だからな。自分でやらないと不安なんだ」
「私もお父さんみたいな彼いないかな~」
「もう。大学生なんだからいるんだろ?」
「いないよ。勝手に競争率高そうだとか言って、全然来ない。女の子から行けないじゃん」
春菜が笑った。
「真由子。ハッシーくんの前で歌ってたよね。反対側の電柱の後ろに誰か居なかった?」
小林も笑った。
「なになに?二人で笑って?いたよ、妻夫木マネジャーの息子さん。彼氏に立候補しますって、何もアプローチしてこない。何あれ?」
春菜が言った。
「今は、女の子からでもアプローチしても良いのよ?まぁお母さんの娘だから出来ないかもしれないけど」
小林も言う。
「妻夫木くん。四谷天窓で歌ってるらしい。ライブ見に行ってやったら?」
真由子は顔をしかめた。
変顔は春菜譲りだ。春菜も小林も爆笑する。
「あの気弱さで、四谷天窓?観客厳しくて有名だよ?チケット売ってるだけじゃないの?」
小林は首を振った。
「それがさ。近藤春菜以来の渋谷系の逸材だそうだ」
「えぇ~?お母さん渋谷系じゃないじゃん。なんかの間違い。でも、私のライブは大学の学祭含めて皆勤ただひとりだから、行くよ」
こんな会話が許される日本社会は有り難い。小林は思った。