お務めご苦労様です〔後編〕
うーん・・・
シズネちゃんの意図は、聞いた限りだと、あれだと思うんだよね。
私も自分で分からないと駄目だと思うんだ。
遠回しな言い方で、それとなくヒントか・・・
難しいミッションだよ。
シズネちゃんは、どうするつもりなんだろう?
兎にも角にも、説教するって言っちゃったからなー
少しだけするかな。
「さて、ボロ雑巾」
「そのボロ雑巾は止めてもらえないか?」
「その縄が外れるまではボロ雑巾で良い。で、今の状況になった理由は理解してる?」
「負けたからだろう」
こいつ・・・何も分かってない。
ホント、どうやって分からせるつもりなの?シズネちゃん。
「はぁ・・・正直、溜め息しか出ないわ。負けただけなら、とっくにスカージュちゃんと話を着けて解放されてるか、樹海に捨てられてるって」
「なんだと!」
「あなたね、普通に考えなさい。役にたつのか、たたないのか分からない人を道具にして得があるの?幸いインゴットを作る才能は有ったみたいだけど、無かった場合はどうなの?ただの食費の無駄よ?」
序列を強い弱いで判断する奴等って・・・
「ではなぜ俺は・・・」
「それを考えるのが今の貴男のやる事!・・・ねぇ、昔より馬鹿になったの?昔の方が色んな意味でましだったわよ」
「さすがに、それは失礼だろう!」
「その通りだろうが」
「うむ、自分に適う者など居ないと奢って居ったであろう?」
「昔のお前には、それは無かったからな」
「で、負けたから服従すると?」
何?その理論は?
脳ミソがカラッカラに乾いてるの?
それともグジュグジュに腐ってるの?
どっちにしたって駄目じゃない。
「そう言えば、スカージュちゃんはさっきシズネちゃんに勝ったわね。スカージュちゃんの方がシズネちゃんより強いって事だから、ボロ雑巾はスカージュちゃんに服従するんだよね」
「そ・・・それは・・・」
「なんかスカージュちゃんが可哀想になって来たわ。散々、他人の事を畜生呼ばわりしたくせに、当の本人は畜生の道理で生きてるんだからね」
「な、なんだとっ!」
「何が違うって言うの?強い者が多くを率い、より強い者に負けたら従う。これは獣を始めとした畜生の道理よ。違う?」
「ち、違わない・・・」
丁寧に説明しないと分からないの?
何をどうすればこんな馬鹿になれるの?
私には想像も出来ないわよ。
「なんかね、ボロ雑巾と話してると新薬の実験をしたくなるから、これで最後ね。ボロ雑巾は捕虜でも奴隷でも使い魔でもないの、道具なの。この違いが分からないならシズネちゃんはその綱は切らないわよ」
「・・・違い、か」
私の出せる最大のヒント。
これだって出し過ぎかも知れない。
ん?
あれは・・・
シズネちゃんだー♪
木の陰からチラチラ様子を窺ってるねー
ちょっと気不味いのかな?
んっ!目が合った。
「ミランダさーん!」
うおっ!
全力で突っ込んで来たねー、尻餅着いちゃったよー
「どーしたのー?」
「あのね!森でキノコをいっぱい見付けたの!これっ!・・・これって食べれる?」
「もちろんー♪これねカラタケって茸でねー。今の時期にたくさん生えるのよー。あらっ!傘の開いて無いのが多いわねー」
「うん、開いたのは殆ど無かったよ」
カラタケも傘が開かないと、なかなか見付からない稀少な茸なんだよ?
やっぱりシズネちゃんは人には見えない物が見えてるのかな?
「開いて無いのは美味しさもアップするんだよー♪」
「ホント!やったね♪」
「内緒だけどねー、人間と人魔にはそれ程でもないんだけどー、他の魔族には激辛茸なのよー♪しかもー、魔族界には刻んだ物しか流通してないしー、名前も辛味材だから誰も知らないはずだよー」ボソッ
「マジで!くっくっく、こいつで仕返しだっ!」ボソッ
「そうゆう仕返しはー・・・」ボソッ
「やっぱりダメ?」ボソッ
「オッケー!」
「にしししし、うん♪」
「あっ!でもねー熱の通りが悪いからー、今くらいから調理しないとー、夜御飯にも間に合わなくなっちゃうよー」
「えーっ!じゃ直ぐに始めないと!」
「だねー今日は私も作るねーカラタケのサラダ♪結構自慢なのよー♪」
「ほうほう!これは生でも食べれるの?」
「生はお腹壊しちゃうからー、一回茹でるんだよー」
「なるほど・・・茹でれば良いのか、じゃ天麩羅も作ろう!キノコの天麩羅って好きなんだ♪」
「天麩羅?」
「うん♪キノコの周りに水で溶いた小麦粉を付けて油で揚げるの」
異世界の料理か、結構簡単な作り方のも有るんだね。
「凄く美味しいのを作るには、冷たい水で小麦粉を溶かないといけないの。氷なんて無いよね?」
氷まで使って作る料理なの?
異世界ってのは何に付けても凄いわね。
「氷ならノスフラト君が作れるんじゃないかなー?」
「出来るのである、どの程度必要なのであるか?」
「ほんのちょっとで良いよ。インゴットの半分位」
「それ位ならば直ぐである」
「やっぱりノスフラト君は凄いね♪じゃ、夕食前に作ってくれるかな?」
「了解した」
「アイシャさん?カラタケの丸焼きを、お願いね♪」
「おぅ、任しとけ」
ん?
もう拗ねてない?・・・って事は無いわね。
何か魂胆がありそうね。
「じゃ、早速作りに行こう♪」
「はいはーい」
「あのね、まだまだいっぱい生えてたんだけど、全部採ったら来年生えなくなっちゃうよね?」
「生えると思うよー。でもー、見付けるのが大変になるかもねー」
「そっか、じゃ残して正解だね♪あっ!来年はさ、一緒に採りに行こうよ」
「いいわねー」
「どっちがたくさん採れるか競争しよう♪」
「シズネちゃんには適わないわよー」
「そう?それじゃ、どっちが大きいのを採れるかなら?」
「それなら勝てそうねー、負けないよー」
「私だってー!」
「「あははははは・・・・
「ふむ、素のシズネ殿は久し振りに見た気がするのである。茸を採るのが余程楽しかったのであるな」
―仕返しの夕食時―
「おっ!これは美味・・・
「このキノコ美味しい・・・
「これは!うんっ!・・・
「がっ!」「あっ!」「むっ!」
「「「辛ーいっ!!!」」」
にっしっしっし。
さぁさぁ火を吹け、力場なんか作らないブレスを吹くのだ!
にしても、このキノコは美味しいな。
ピリ辛な感じでクニュクニュしてるんだけど歯切れも良いし香も良いし、味付けは削った岩塩で正解だよ。
ミランダさんもノスフラト君もモリモリ食べてるよ。
ハムスターじゃなかったら丸かじり出来たんだろうなぁ。
ちょっと残念だね。
「なんだこりゃ!無茶苦茶辛いじゃないか!」
「そう?ピリ辛で美味しいわよーこの天麩羅っての良いわねー周りのサクサクしたのが良いわねー茸のクニュクニュとサクサクを一緒に噛むと面白いよー」
「ミランダ殿の作ったサラダも美味である!」
「アイシャさんの焼いたのも美味しいよ!焦げ目が香ばしくてカリッとしてて私は好きだよ」
カラタケ・・・こっちで食べた食材で一番美味しい!
これが辛くてダメって魔族が可哀想だよ。
「なんで平気何ですか?こんな辛いの初めてです・・・水~!」
「ホントですよ・・・旨味は有るんですが・・・辛さが異常です・・・ゲホッゲホッ」
「シズネ!何か仕込んだなっ!」
・・・どうやって?
私は手品師じゃないんだよ?
「焼くキノコを選んだのアイシャさんだよ?焼き上がったのを配ったのもアイシャさんだよ?いつ仕込めるの?」
「そ、それは・・・」
「ふぅ・・・私がアイシャさんの分を食べて見せれば良いの?」
「いや、そこまでしなくても・・・」
「でも納得いってないんでしょ?」
「まぁ・・・」
どれを食べても同じなんだよ?
魔族で有る限り辛いのさ。
はっ!
・・・アイシャさんの食べかけを食べる。
間接キスじゃないか!
・・・ニヤリ。
「それじゃ、いただきます。モグモグゴクン。やっぱり美味しい♪」
「ホントに何ともないのか?」
「美味しいよ?あっ!」
「やっぱり辛いのか?」
「私・・・アイシャさんと間接キスしちゃった・・・ポッ♡」
「それがどうかしたか?」
「だって~間接キスしたら結婚しなきゃダメじゃない?」
「そうなのか?そんなの聞いた事無いぞ!」
「いゃーん。アイシャさんを嫁にするのかぁ」
「あたしが嫁なのかっ!」
ふっふっふ。
引っ掛かったよ。
シズネちゃん劇場の始まりだぁ!
「そうだよ?もしだよ、男が勝手に間接キスなんかしたら『変態!キモイ!』とか言われちゃうじゃない。良いよって食べさせるのは女の子からの求婚なんだよ!」
「そ、そうだったのか・・・」
「結婚の御披露目の時に着るアイシャさんのドレスかぁ・・・きっと綺麗だよねぇ。あっ!可愛い感じのも良さそうだよねぇ」
「あたしのドレス姿?」
だんだん赤くなって来た。
か、可愛いよ!
やっぱり根は女の子なんだよねぇ。
「やっぱりアイシャさんのスタイルならセクシーなのが良いかな?胸元をバンと強調して、背中も思い切って出しちゃおう!上半身そんな感じでセクシーだけど下はフワッとした裾広がりのスカートで刺繍とレースでかわいらしさも演出するの。そうだ!頭にはティアラを乗せようよ!黄色い髪だから・・・青!『拒絶の壁』で私が造るよ!きっと皆がウットリ見惚れちゃうね」
おぉぉぉぉっ!
首まで真っ赤になったよ。
これがスカージュちゃんなら全身から火が出てそうだよ。
しかし・・・どんな想像してるんだろう?
あまりの赤さにみんな注目してるよ。
「アイシャちゃんって・・・そんなに結婚に憧れてたんだー」
「えっ?いや、そんな事はないぞ」
「誰も信じないよー首まで真っ赤にしてるんだしー」
「こ、これは辛さでだな・・・
「嘘!心此処に在らずって顔してたしー」
「う、嘘じゃない!」
「私の間接キスの話は嘘だけどね」
「な、なんだと!」
「ほら、怒るって事は想像してたんじゃないのー」
「そんな事は・・・いいから、飯食うぞ!」
あっ、それカラタケだよ?
そんなに口に入れて・・・
「ゲホッゲホッ!辛ーーーい!!」
「「「「「あははははは」」」」」




