嫌われ役って・・・〔後編〕
「よぉ、道具。朝飯は美味かったか?」
「・・・美味かった。で、何しに来たんだ?挑発には乗らんぞ」
「道具を挑発してどうすんだ?あたしはインゴットを作りに来たんだ」
「お前がか?」
「そうだけど?あたしは成功率3割なんだ、そのまんまにしとくのは悔しいからな。ってお前!なんだ!その仕上がりの良さは!」
アイシャさん・・・そんなに悔しかったのか。
インゴット作りって言ったって、溶けた鉄を流し込む訳じゃないし、普通とは違うやり方だから仕方ないんだよ?
それと、あいつそんなに上手いのか?
全部ダメなんじゃないかって予想してたんだけど。
「見本を見れば分かるだろう?角がはっきり出ているからな、気を付けるのはそこなのだろう?簡単ではないが、気を付ける箇所が分かれば出来ると思うが」
「くそっ・・・ヴラドにも負けてるのか・・・意地でも出来るようになってやる!」
あんまり熱くならないで程々にね。
にしても、そんだけの観察眼があって何で自分を客観的に見れないかな?
自分は完璧とても思ってるのかな?
「ヴラド、何を考えてる?」
「・・・なにも」
「ふーん・・・なら、何を見ている?」
「あの2人だな」
見ちゃイャン♪
「見てどうすんだ?お前、スカージュの結婚を認めてねぇし、普段のシズネは観察した所で強さの秘密なんぞ見付ける事は出来ねぇぞ」
「認めてはいないが、気にはなるからな。それと・・・あれは俺の理解の範疇を超えている。詮索するだけ無駄だ。・・・しかし1つだけ知りたい」
何を?
「何を?」
あはははは、ほぼ同時だったよ。
「あの強さがあって、こんな所に居るのはなぜだ?」
強さって重要なの?
強くったって楽しくなくない?
強さなんて要らないもん。
「あいつは、強さとか力とか興味無いんだよ。強さより楽しさを求める享楽家な所がある奴だ」
きょうらくか?
ってなんだろう?
魔王様は時々難しい言葉を使うから困っちゃう。
で・・・良い意味なのかな?
「今やってる事だってな、あいつ自身が物作りが好きってのもあるが、シュヴァツが試行錯誤して上手く行った時の嬉しさとか、作ってる時が楽しいとか思ってくれる様になったら良いな。そんな風に思ってるんじゃねぇか」
それもある!
一番は、2人で満足いく物を作り上げるのが楽しいからなのだ。
「なるほど、スキルの継承か」
「違うぞ、あいつ等はスキルは使ってない」
「なに!スキル無しで作ってるのか?」
こんな物を作るのにスキルなんて要るの?
雨除けの何十倍も大きい物を作るなら有った方が良いだろうけどね。
「持ってすらいないな。・・・そうだな、先1年2年でスキル無しでも作れるって物が魔族界に広まるかも知れねぇな」
「そんな物が有るのか?」
「数日前にシズネの気に入りの商人に試作品を渡したな。あの商人、名は知れてないがヤリ手だぞ。十中九以上の確率で広めると踏んでる」
やっぱりアイシャさんの裸婦像も持ってこうかな?
そしたら確率もっと上がると思うんだけどな。
間違い無く、命懸けの行為になるけど。
「・・・不潔です!」
「スカージュか」
「またからかわれてるみたいだな」
いやからかってません。
真面目に答えました。
そしたら勘違いされました。
って!うぎゃっ!
不意打ちとは卑怯也!
でも当たんないもーん♪
命中率低過ぎだからね。
これ利用して精度を上げてみるかな?
「へへっーん!不意打ちしても当たらないなら意味ないもーん♪」
「当てます!次は当てます」
「無理無理ースカージュちゃんには無理ー♪」
「もう怒った!マジオコですっ!」
「アイシャ、何だあの魔法は?見た事が無いぞ?」
「ありゃブレスだよ」
「人型でブレスだと?」
「竜魔なら誰でも出来るんじゃないのか?スカージュは初挑戦で出来たぞ」
「出来るのかは知らん。そもそも人型でブレスを使う事すら思い付くものじゃない」
そうなの?
体内から出してる訳じゃないのは分かってるんでしょ?
力場を生成してブレスにしてるなら、人型でって思わないの?
思わない方が不思議なんだけど。
「シズネさん!避けないで下さい!」
「アホかっ!避けなかったら黒焦げじゃないか!」
「それなら・・・こうだ!」
「あれがブレスだと?あれはまるで・・・
「やっぱ気付くか?バルムンド殿のブレスだ」
「やはり・・・しかし、短いな」
「あれはわざとだ。出しっぱなしも出来るが、効率が悪いってんで小出しにしてる」
「とりゃあっ!」
おっ!
5本一気に出た!
凄い凄い、スカージュちゃんやるねぇ。
でも、5本なら余裕で避けれる。
「なにっ?複数一気に?」
「あれもシズネのアイデアだな。高威力を複数出して当たる確率を上げるって事だ」
「・・・なるほど」
そろそろ良いかな?
狙撃の腕を上げてもらおうじゃないか!
「ん?」
「おいコラ!シズネ!こっちに来てどうする?」
「ちょっと考えがあってね。大丈夫、ダメそうなのは私が相殺するから」
竜魔王の頭の上で仁王立ちさ!
さぁスカージュちゃん、撃って来なさい!
「シズネさん卑怯っす!父上を盾にするなんて!」
「人聞き悪いなぁ、盾にはしてないよ?私の全身が見えるでしょ?」
「見えますけど・・・
「私だけに当たるように撃てば良いんじゃないのぉ?」
「無理っす・・・シズネさんだけを狙うなんて、あたしには・・・
「スカージュ!撃てっ!」
「・・・父上?」
「お前なら出来る!撃て!」
へぇ、信じるんだ。
意外だったよ。
ん?
スカージュちゃんもビックリした顔をしてるな。
ふぅーん。
「落ち着け、自分を信じろ。それとも、本気で当てるつもりは無かったのか?」
「・・・撃ちます!」
父上の言葉は重みが違うのかね?
表情が違うよ。
って、マジって事だよね?
私も気を締めないとダメだね。
・・・ゴクリ。
・・・
・・
・
うきゃーっ!
【穿つ】【穿つ】【穿つ】!
あっぶな!直撃コースだったよ!
マジで黒焦げになるところだった。
「あっ!消えた!」
「へへっーん!私には相殺する事が出来るのだ!」
「ぐぬぬぬ!シズネさん覚悟!」
おぉ、寸分違わない所に撃ち込んでくるよ。
凄い凄い!
・・・もう少し続けて狙い方を身に付けさせようかな。
「さすが父親だね。こんな直撃コースは初めてだったよ。アイシャさん、丁度良い辺りで間に入ってね」
「めんどくさい!」
「これなーんだ?」
「何でお前がそれを持ってるんだ!」
「もらった♪」
「くっそ!分かった」
「えへ♪ありがとう♪獣化を見せてくれたら、これは渡すね」
さってと、同じ所に撃つのは慣れたと思うから次の段階に行ってみようか!
「あっ!また逃げた!」
「卑怯とは聞き捨てならないなぁ」
「なっ!いつの間に!」
移動と見せかけてスカージュちゃんの頭の上に乗ったのだ。
あっはっはっはっ。
いくら頭の上に居るからって素手で私が捕まる訳がないだろう。
逃げ足と隠れる事は自信があるんだ!
「あっ!また」
「あれは本当にからかっているのか?」
「んぁ?半分以上はからかってるぞ。残りはスカージュの強化だがな」
「なぜそんな事をしているか知っているのか?」
「聞いた事はねぇが、スカージュが強くなれば自分が目立たないとでも思ってるんじゃねぇか?」
なんでズバリ分かるんだろう?
私の考えって読みやすいのかな?
いやいや、そんな事はないはずだよ!
深く考え、遠く先まで見越しているシズネちゃんなんだからね。
・・・あれ?
深く考え?
遠くを見る?
これって・・・遠望深慮ってやつか!
ユグスちゃんが言ってたのはこの事だったのか。
でも、あの時は・・・
『遠望深慮ならぬ近望浅慮ですね』
って・・・
ぐぁーん!
私は、私はメッチャ底が浅いと言われたのか。
うおっ!
あぶなっ!
凹んでたら当たる!
凹むのは後だ、命中精度上がりすぎだって。
父上の言葉でこうも変わるのは卑怯だっ!
公平なレベルアップを求める!
公正成長委員会の設立を求める!
なに?
・・・一番公平じゃないレベルアップしてるのは私?
・・・
・・
・
やっぱなし!
公正成長委員会は無くて良いです!
糾弾されるとか、私のシルクなハートは耐えれませんので!
それよりも、アイシャさんそろそろ介入して欲しいんですけど。
まだでしょうか?
「よっし!10個連続成功だっ!成功率10割だっ!」
えっ?
えーと・・・10個連続で10割になるの?
違う様な気がするんだけど、ここでツッコミを入れたら介入時がいつになるか分からなくなるからスルーだっ!
さぁ、止めに入って下さい!お願いします。
そろそろキツいんです。
さっきから、とこに移動しても確実に当たるコースで飛んでくるんだよね。
しかもだよ!
私の行動を予測してるのか、からかう言葉を掛ける前に発見されて撃たれてるんだよ。
そろそろ本気で逃げなきゃ当たりそうで怖い。
って、あれ?
アイシャさん?
どちらへ?
「ノスフラトめ!」
あっ!
介入を忘れてる、裸体フィギュアを私にくれたノスフラト君への怒りが忘れさせちゃったみたいだ。
って事はだよ・・・自分で何とかしろと?
マジっすか?
アイシャさんを期待してたから、散々からかっちゃったからスカージュちゃんのテンションゲージもマックス近くまで行ってるし。
・・・どうやって鎮めろと?
私に、出来るのかな?
不安しかねぇよぉぉぉ!




