嫌われ役って・・・〔中編〕
珍しいな、雨だ。
この世界で目覚めてから雨なんて数回しか降ってないもんな。
しかし残念だなぁ。
雨除けが健在なら活躍するところが見れたのになぁ。
燃え尽きて炭と灰になった雨除けじゃねぇ
はぁ・・・ホント残念だよ。
で、破壊した張本人はどこだ?
逃げたいなら逃げても良いって言ってあるから、逃げたかな?
・・・
・・
・
居た、ミランダさんの小屋の軒下で雨宿りしとるよ。
・・・仕方ない、風邪でもひかれたら困るしな。
風は無理だけど雨は防げる物を作ってやるかな。
アイシャさんが見てたら『お前も甘いよな』とか言いそうだよな。
実際、甘いと思うけどね。
でも、間違えないでほしいの。
甘いのはあいつにじゃない、スカージュちゃんにだからね。
「おい、ご飯だよ。食べる食べないは、あんたの勝手だから。そこまでは関与しない。それと、ミランダさんはまだプリプリしてたから、そこに居るのを許可しないかも知れないから、あっちで雨宿りしな」
「・・・俺は道具なんだろう。何でこんな事をする?」
「あんたの為じゃない全部スカージュちゃんの為だよ。あんたが風邪ひけば、スカージュちゃんは土下座してでもミランダさんに薬を作って貰うだろうし、下手したら自分が風邪ひいて薬を作って貰うかもしれない。このご飯だって年寄り3人は必要無いって言ってたからね。そのまんま食べさせなければ盗んででも、あんたに食事を持って来ていただろうしね」
「・・・・・」
「あんたがどう思ったのかは分からないけど、スカージュちゃんみたいに優しい子が、あんたの子供ってのが不思議でならないよ」
「・・・・・」
何か思うところは有るのかな?
無いなら心底クズって事なんだけど。
スカージュちゃんが言うには。
『母上が死んで、魔王になってから、父上は少しずつ変わった』
って、最初からクズじゃなかったなら見込みは有るはずなんだけどな。
・・・ん?うん!
スカージュちゃんに嫌われてなかったんだよぉぉぉ!
私泣きそうだったよぉぉぉ!
ちゃんと話せたんだよぉぉぉ!
こいつのせいで要らぬ心配をしちゃってたよ。
やっぱり馬車馬の如く働かせるか?
いやいや、スカージュちゃんに釘を刺されてたんだった。
ホント優しい子だね。
あぁ、そうだ。
「あんたの解放条件を教えとくよ。条件は2つの内のどっちか、私が認めた場合が1つ目、2つ目はノルマをこなしたら解放する」
「・・・・・」
「因みに1つ目を満たせばワイヤーも外す。2つ目はワイヤーは外さない」
「これを外す条件は?」
「教えない、自分で分からないとダメな事だから。これまた因みに、外す条件は誰にも教えてないから聞いても無駄だよ」
「その条件は本当に存在するのか?」
「もちろん、無いなんて卑怯な事はしないよ」
時々ヒントみたいのは出すつもりでいるしね。
それでも分からないなら壁ワイヤーを付けたまま生活してちょうだい。
これは、スカージュちゃんにお願いされても譲る気はない。
「私はもう行くから、スカージュちゃんがお願いして回る様な事はするなよ」
―翌日の朝食後―
「あんたの解放ノルマは、これを全部インゴットにしてもらう。商品にならない物はやり直しね」
「これを全部か?」
今まで出来上がったのが全部で200個位、使ったのが大体2割から3割位だから・・・後700から800個位かな?
「あんた1人で全部やれって訳じゃないから。私も手が空いたら作るから」
こいつと2人っきりってのは少しイヤだけど、インゴット作りはさっさと終わらせたいんだよね。
だから我慢だよ。
「はい、これ見本ね。角が丸過ぎるのは、やり直し。了解?」
「あぁ」
返事をすると思わなかったから、ちょっとビックリ。
夜に話した事で何か思う事があったとか?
・・・訳ないか。
都合良過ぎだよ。
さて、私はシュヴァツ君と雨除け作りだ。
「シュヴァツ君お待たせ。さぁ、雨除け作り第二弾だよ」
「ですね。前のを超えましょう!」
「良いねぇ、で、どう超える?何かアイデアあるなら出し合おうじゃない」
とりあえず私は2つ有るんだ、石像を設置する時に気になった事と、昨夜の雨を見て思い付いた事がね。
「そうですね・・・あれって思ったのが1つ有ります」
「うん」
「しっかり固定出来てなくてグラついてる感じがしたんです」
さすがだね。
観察していただけで、それを見付けたんだ。
「私も同意見だよ。石像を設置する時に不安定だったんだよね。で、シュヴァツ君は改善策は有るかい」
「うーん、固定せるのは釘とか鎹を打つのが一番だと思うんです」
私もそれが簡単だと思うよ。
でもなぁ、長持ちしてる建物って釘を打ってない物が殆どだしねー
やっぱり溝とか臍を彫って嵌め込む方がいいよなぁ。
「私はね、釘でも弱いと思うの。それでね、難易度は滅茶苦茶高いけど、斯く斯く然々なやり方が良いんじゃないかと思うの」
「木材を彫って組み合わせるんですか?」
「うん。例えばさ、壁に差し込む一番上の梁に角材と同じ幅の溝が有ったらどう」
「梁は原木ですから間違い無く安定します。そうゆう事何ですね!」
「そゆ事だよ。角材の方も彫った梁に合わせて削れば更に安定するしね」
「確かに!・・・シズネさんは、どうやってこういった事を思い付くんですか?」
「ん?・・・この工法は私が考えたんじゃないよ。私の住んでた所・・・前世で有った工法なの。私のアイデアって全部そうなんだよ」
だから賞賛してくれるのは嬉しいけど、他の誰かが他の世界の前世の記憶が有るなら、私以上の事だってできるはずだよ?
この木工に関して言えば、職人技は凄過ぎる。
寸分の狂いも無くってレベルで削ったり彫ったりして、ピッタリだったり平らだったりに加工するんだもんな。
こればっかりは私には修得できそうにないもん。
難しいと妥協点を探す私には困難の度合いが高過ぎるよ。
「前世の記憶・・・ですか、それじゃ、シズネさんが居た所の木製は全部こうなんですか?」
「違うよ、作られたのが新しいと釘とか別の物で固定されてる。でも古ければ古いほど、このやり方って聞いてる」
「・・・古い物ってどれ位年月が経っていたのですか?」
「1000年以上、こっちに換算すると500年以上だね」
確かそうだよね?
私、勉強がキライだからうろ覚えなのさ!
「500年!建て直ししないで500年ですか?」
「うん、傷んだ部分は補修とか交換はしてたけど建て直しをしたって記録は無かったよ」
「それだけ古いと全てがこのやり方なんですよね?」
「そう言われてるね。実際に見れる訳じゃないから文献のみで知ってるだけだからさ。でもね、その建物が作られた頃って釘は存在しなかったから間違いないよ」
「釘無しで500年・・・シズネさん!雨除けは全部それで行きましょう!」
「えっ?マジで?」
「マジです!」
うーん、シュヴァツ君の何かに火が点いてしまったみたいだ。
風属性なのにメラメラ燃え上がってる。
「道具とかどうするの?梁を彫る位ならシャベルで出来るけど、他は難しいよ?」
「大丈夫です!溝を彫るくらいなら、これで出来ます」
随分と変わった形のナイフを2本出したけど・・・
鑿みたいな形をしてるな。
先端が平で長方形なんだよ、しかも片刃だな。
それで、鑿と違って側面も刃になってるの。
長方形の片刃のナイフだね。
「これは、父さんと母さんの鱗で出来た鱗鋼製なんです。入学する時に、御守りとして貰ったんです」
「いいの?大事な物を使っちゃっても?」
「もちろんです!雑に扱う気は有りませんし、加工ナイフを使うのは今以外にありません」
加工ナイフって言うんだ。
確かにこれなら鑿の代わりになるし、腹部分の刃でも槍鉋の真似事は出来そうだね。
それに、シュヴァツ君のやる気を私如きが消したらダメだろう。
逆にもっと焚き付けるくらいじゃなきゃね。
「よしっ!分かったっ!やろうじゃないかっ!失敗しまくっても納得の行く物を作ろうじゃないか!木材は有るんだからさ!」
まだ10本位しか使ってないからね、300本近く残ってるもん。
「もし、足りなくなってもミランダさんを待たせるだけだから問題無しだし」
「えっ?・・・それは悪い気がするんですが・・・」
「問題無し!小屋もまだまだ使えるし、道具が商品を作ってるから資金も問題無しだし」
「えぇーと・・・道具についてはノーコメントで」
「えぇーなんでーコメントして共犯になろうよぉ」
引きずり込んでやるぅぅぅ。
同罪にしてやるぅぅぅ。
「ノーコメントです・・・」
「そんな事を言わないでさぁ、良いじゃーん」
「・・・・・」
ぬぅ・・・
中々落ちないな。
しつこく話し掛けていたんだけども、シュヴァツ君は紙とペンを自前の収集袋から取り出して図面を引き始めたよ。
そさたらもうダメ、図面引きに集中しちゃって私の言葉は届かなくなったみたいだよ。
「ちょっ!シズネさん何をしてるっすか!」
「え?・・・誘惑?」
「なっ!・・・不潔です・・・不潔ですっ!あたしのシュヴァツを誘惑するなんて不潔です!」
えっ?・・・あっ!
勘違いされてるな。
「スカージュちゃん?誘惑は誘惑でも・・・
「シズネさんでも許さないっす。・・・目に物を見せてやるっす!」
「なっ!ちょ!まっ!」
うひぃ!
不意打ちかいっ!
そんなんに当たったら黒焦げになるって!
でも、これは良いかも。
どれくらい出来るのかを知るには丁度良いかも知れない。
釘は南蛮貿易で伝わったと聞きました。
真偽の程は知りません(-_-;)




