失敗の達人〔後編〕
最近、自分の無能っぷりを晒してばっかりな気がするんだよね。
ついさっきもシュヴァツ君の秘密を暴いちゃったし、今この瞬間も『やっちまったぁぁぁ!』って両手を地に着き落ち込んでるんですわ。
何をやったって?
さっきまで意気揚々と作っていたのは、ログハウス用の加工道具。
今、必要なのは玄関の雨除けの木材を加工する道具なんだよね。
無駄な時間では無かったけど、やっぱりやっちまった感が半端ないです。
「いきなりどうしたんですか?」
「やっちまった、やっちまったよシュヴァツ君!」
「だから何を?」
「ログハウス、丸太家を作る前に玄関を木製に変えようと思ってたんだよ。この道具達は使わないんだよーやっちまったぁぁぁ」
シュヴァツ君が手伝ってくれるって申し出てくれてから、丸く削るのと円柱に出来るのも作って、やっと本来の目的を思い出すと言う、間抜けなバカっぷりを発揮しちまっただよ。
「玄関を木製に?」
「うん、私とアイシャさん以外は開けるのが大変そうだったからさ、雨除け付きの木製にね」
「確かに少し重いですね」
「でしょ。でね、扉はそんなに難しくないから、雨除けを作ってたんだよ。修理とか交換が簡単になるように『拒絶の壁』に差し込む部分のサイズを同じにする道具と考えてたら、丸太家の道具に考えが変わってたって言うバカ者なんだよ。私はバカ者だぁぁぁ!」
「シズネさん落ち着いて、落ち着いて。これ、使えば良いんじゃないですか?」
「ふぇ?」
シュヴァツ君が手を置いているのは・・・円柱を作る道具。
・・・
・・
・
あっ!そうか!
差し込む所をそれで円柱にしちゃえば同じサイズにできるか!
・・・うぅ、そんな事も気付かないのか、やっぱりバカ者だぁぁぁ。
「ますます凹んだっ?何でですかっ!」
「・・・そんな事にも気付かないバカっぷりに自己嫌悪。笑いたくば笑うが良い!私は失敗の達人なのだよ」
「あはははははははは」
なっ!
マジで笑うか?
そこは『そんな事はない』って言うもんじゃないの?
「とりあえず笑ってみたけど、楽しく無かったです」
なっ!
シュヴァツ君・・・君が少し分からなくなったよ。
「なんにせよ、凹んで無かったらシズネさんも思い付いたはずですよ」
かも知れないけどさ、やっちまったって思ったら凹むもんでしょ?
「それじゃ、雨除けを作ってみましょう」
「う、うん」
シュヴァツ君やる気満々だな。
私も凹んでる場合じゃないな、頑張ろう!
うーん・・・
どれくらい差し込む部分を作れば良いんだろう?
10センチじゃ短いよね、50センチ位かなぁ?
分かんないから50センチで良いや。
木材の方はこれで良いとして、受け側の穴も空けないとね。
じゃないと、素人の私には梁同士を繋ぐ筋交いが作れないもん。
「シュヴァツ君、ドラゴンになって穴を開ける所まで持ち上げてくれる?」
「はい」
変身が一瞬なんだよな、知らなかったら絶対に腰抜かしてテンパってるだろうなぁ。
持ち上げようとしてくれてる、この手だって、ゴツいし爪も鋭くて怖いもんなぁ。
昨日はこんなの相手によくブチギレたなぁって思うよ。
おぉー
さすがにドラゴンの頭の上は高いなぁ。
落ちたら痛そうだなぁ。
・・・落ちません!
しつこいくらいに何度となく言ってるけど、痛いのはイヤです!落ちません!
それに落ちるより背中を滑り台にして滑り降りる方が楽しそうだよ♪
・・・あれ?
「ねぇ、金ピカの部分が昨日より広がってない?尻尾の辺りまで行ってたっけ?」
「え?ホントだ。・・・ここに来てからステータスの上昇が著しいんです。そのせいなんですかね?」
「そなの?なんかさ、そのうち全身金ピカになったりして」
「それは困りますね」
「そんなに隠さないとダメなの?ゴージャスで綺麗なんだけどなぁ」
「・・・金竜は決まった属性が無いんです。全属性を持ってるんです」
マジっすか!
最強じゃないっすか!
「大昔にそれを笠に着て他を見下し圧制していた事があったんです。ラグナーグが現れて金竜を壊滅近くまで討ち滅ぼさなかったら今でも変わって無かったかも知れません」
ラグナーグ!
また脳内が消すだろうけど、壊滅寸前までって・・・なんて奴だよ。
「そんな理由があって、金竜ってのがバレたら良くて監視対象、悪いと抹殺対象なんです」
・・・どっちにしてもイヤな状況になるんだね。
「そっか・・・そりゃ知られたくないね。でもさ、竜魔族のみでしょ?」
「そうですね」
「ここにはさ、スカージュちゃん以外に竜魔族は居ないんだし、話しても大丈夫じゃないかな?軽々しく聞こえたらゴメンナサイ」
「・・・考えておきます」
「みんな口は固いはずだし、私のスキルみたいに監視抹殺が全魔族って訳じゃないんだしさ」
「えっ!・・・全魔族?」
やっべ!
また・・・やっちまったぁぁぁ!
「シュヴァツ君!忘れよう!何も聞いて無かった!・・・だよね?」
「えっ!・・・でも」
「ん~・・・私の取る対処は逃げるか、殺るだよ?スカージュちゃんが悲しむ姿を見たくないから、逃げる一択だけどね」
「・・・分かりました。これ以上は聞かないし考えるのも止めます」
「うん、ありがとう。んじゃやっちゃおうかね」
直径25センチで奥行き50、いや60センチで【穿つ】。
1個完了。
「次は右下お願ーい」
「はい・・・でも今のって・・・もしかして?」
「考えたら負けだよー」
「・・・はい」
まぁね、口止めして直ぐに使ってるんだから世話無いよね。
大体考えるなって事自体が無理だしね。
だから、口に出さなければ良いよ。
さてと、後は長さを測って筋交いを組んで、針金位に固くした『拒絶の壁』のワイヤーで結んで・・・骨組み完成!
「よっし、シュヴァツ君!梁を差し込んじゃって」
「了解」
「良し良し、次は骨組みを置いてみて」
「了解」
「・・・どう?違和感有る所はない?」
「大丈夫です。安定もしてますから、問題無しです!」
「オッケー、じゃ固定しちゃおう」
「だけど、何で結ぶんですか?」
「外し易い様にかな。修理とかし易くなるでしょ」
「壊れる前提なんですか?」
「そりゃそうだよ。月日が経てばどっかしら傷んで来るでしょ?傷んでも全部じゃ無いはずだから交換し易い方がいいでしょ?」
「なるほど・・・そこまで考えて作るんですね」
これもなぁ。
宮大工の特番を見て知った事だから、私の考えじゃないんだよな。
凄いのは昔からの技術を受け継いでいる人達で、私じゃないんだよ。
「次はどうします?」
「あっ、うん。板を張ろう。違う違う、下から横に張るんだよ」
「それだと雨が漏れて来ますよ」
「ん?こっちの世界の屋根ってどう作ってるの?下から横に貼って、次を下の板と重ねれば漏れないでしょ?」
「あっ!・・・確かにそうです」
「更に板の上に、もう1枚乗っけるから雨漏りはしないはずだよ」
ここでやっと登場!
極薄にした『拒絶の壁』を瓦の代わりにするんだよ!
すでに白で色を塗ってあるから、あとは好きな色に塗って仕上げるだけなんだ。
みんなに塗ってもらうんだ。
そしたらさ、みんなで作ったって言っても良いよね?




