失敗の達人〔中編〕
ふっふっふっ、ふが三つ。
シズネちゃんはバカだけど、思い出したのですよ。
サバイバルのドラマのシーンでワイヤーで木を切っていたのを。
その方法なら、ちょっと工夫をすれば真っ直ぐに切れると踏んだんですよ。
『拒絶の壁』で切る部分がはみ出る土台を作って、少し柔らかくした『拒絶の壁』を凧糸位まで細くして、捻ればワイヤーの代わりになるんじゃないかと、その糸で土台からはみ出た部分を切れは良いと。
まだアイデアでしかないから不測の事態なんかは有るだろうけど、上手く行くんじゃないかと。
あっ!でも1つだけ予測出来る不安があるんだ。
土台もワイヤーも『拒絶の壁』だから、土台の方が切れたりしないかな?って事がね。
ワイヤーの方を柔らかくするから、切れないと思うんだけど・・・不安だ。
んま、とりあえずはやってみてだね。
もし切れちゃったら、スカージュちゃんに他の金属を分けてもらおうっと。
他にも丸く凹ませて削るのも考えついたんだよ。
それはね、下ろし金を筒状にしちゃうんだよ。
上下はフリーで動く様に固定して、ハンドルでグルグル回せば削れるはず、『拒絶の壁』は重さもあるから大丈夫だと思うんだ。
それと、もう1つはね。
筒の内側に削る突起を付けたのも作ってみるの、これが上手く行けば、円柱木材も作れるでしょ。
使い道が有るかは不明だけど、有って損はないと思うの。
ではでは、早速作りますか。
先ずはプレスに使ってる石を長さ5メートルで60センチ四方に切り取って。
私が3匹と半分【穿つ】・・・って事は、1匹と半分の半分の位置から【穿つ】と良いのか・・・位置決めムズいな。
た、多分この辺りかな?
・・・失敗。足りなかったよ。
マジでムズいぞ。
うーん・・・そうか!
先に穴空けてから切り取れば良いんだ。
へへへ、私って頭良いねー♪
よっし、出来た!
材木を入れてみようっと。
おぉ!
少し隙間ができる位で入った。
ん?
材木はね全部同じ位の長さ太さなの。
おっちゃんは凄いよね、長さ太さの誤差が殆ど無いのを300本も用意してくれたんだよ!
ホント不思議だよ!
こんだけ凄い物の調達が出来るのに流行らない鉱物雑貨店の店長って変だよね。
人を雇って経営する位の店を持っててもおかしくない実力は有るのにね。
おっちゃんの事は、さて置き。
ワイヤーを作ってみよう!
凧糸の太さにする・・・のってどうやれば良いんだろ?
そもそも凧糸って何ミリ位なんだろう?
凧上げってやった事が無いから知らない・・・
と、とりあえず2ミリって事にしちゃおう。
で、どうやって作ろう?
・・・ミョンって引っ張って伸ばす?
・・・絶対無理!
2ミリ均等に引っ張って伸ばせたら、職人技どころか神業だよ!
板で挟んでコロコロ転がして伸ばす?
出来なくは無いかも知れないけど、私の鋭い直感が止めた方が良いって言ってる。
・・・
・・
・
はい、ウソです、ゴメンナサイ。
私の直感は鋭くありません。
なまくらです、当てになりません。
でも、そんな直感だけど私は信じたいんです!
なら、どうやって作ろう?
ん~・・・んっ!
そうか!トコロテン方式だっ!
先に作った土台を見て閃いたよ!
2ミリの穴を空けてそっから押し出せば良いんだよ!
しかもだよ、穴に捻れの溝を入れとけば捻る必要が無い。
凄いぞシズネちゃん!
バカで当てにならない直感だけど閃きは一流だ!
・・・なんでだろう、悲しくなってきたよ。
おぉっと、悲しみに浸かってる場合じゃないんだった。
早速やってみよう。
うーん・・・2ミリ位で空けて【整形】で隆起させて捻れ切り込みにする方が確実だよね。
んじゃ、【穿つ】
んで、シャベルで厚さ3センチ位に切って。
【軟化】した『拒絶の壁』を押し込む!
ニュルニュル出て来たー!
面白ーい!
こんな駄菓子がなかったっけ?
あはははは、これいつまでもやってたいかも。
って訳にも行かないから、このへんで止めとこう。
インゴット1個分もやれば・・・って作り過ぎた!
10メートル位・・・いや20メートル位あるな。
こんなに使わないよ。
やっぱり私はバカだぁ!
バカにされたって文句言ったらいけない人なんだ。
いや、ハムスターだった。
ふぅ、バカで良いや。
利口になったって私なんかじゃ高が知れてるしね。
そのお馬鹿さんの閃きの成果を試してみよう。
先ずは、土台を高い所に置いて、木材をセットして、ワイヤーを端っこに当てて丁度良い長さに切って、後退しながら交互に引っ張る。
やったね!切れてるみたいだよ!
後ろに進んでるもん。
これって後ろに体重をかけたらもっと早く切れるのかな?
よっし!
早くなった!
これなら1本切るのに・・・
ブツッ!
痛ったぁい!
後頭部を強打したぁ!
ワイヤー切れちゃったよ・・・
調子に乗りすぎたって訳じゃなさそうだな。
切れた所が伸びてるから強度不足かな?
なら【硬化】でもう少し硬くして、と。
リトライだっ!
ワイヤー切れるなよ!
また後ろに体重をかけるんだからね。
後頭部の強打はイヤだよ。
切れるなよー
切れるなよー
ホントに切れるなよー!
ブツッ!
いっ・・・たぁーい!
また切れたー!
2度の後頭部強打・・・バカが更にバカになったら誰が責任取ってくれるの!
責任者を出せー!
・・・
・・
・
はい・・・分かってます。
責任者は私です、全部自己責任です。
でも、誰かのせいにしたいじゃん!
分かるよね?
分かってくれるよね?
分かってくれよっ!
「あのー・・・シズネさん?さっきから何を・・・」
「ス、スカージュちゃん!?まさか見てた・・・」
「・・・はい」
うっわぁー
むっちゃ恥ずかしい所を見られてたよ。
どっかに隠れたい気分だよ。
でも今から隠れる訳にはいかないよなぁ。
「はぁ・・・実はね斯く斯く然々なんだ」
「これで切れるんですか?」
「うん、ワイヤーの強度不足で途中で切れちゃうけど、木材はちょっとだけ切れてるでしょ?」
「はい、20センチ位は」
やっぱり切れてはいるんだな。
そこは思った通りで良かった良かった。
後はワイヤーの強度だな。
「でも、なんでシャベルを使わないんです?」
「『アオヒカネ』の?」
「はい、あれなら簡単に切れるでしょ?」
「切れるけどね、土台ごとね」
「そっか、切れ過ぎちゃうんだ!・・・でも何で平らに切らないとダメなんです?」
「それはね、沢山積んだとき歪んじゃうでしょ?」
「ん~・・・そうかも」
「歪んだら家の壁にはならないからさ、平らじゃないとダメなんだ」
「えっ!?これ壁になるんですか?板にしないで壁に?」
「そうだよ、贅沢でしょ?」
「パネェっす!」
・・・スカージュちゃん、キャラがブレブレだぞ?
面白いんだけど、どれかに統一しようよ。
ん?
シュヴァツ君が帰って来たみたいだね。
はっはぁ~ん。
スカージュちゃんはシュヴァツ君のお出迎えだな。
「お待ちかねの旦那様が帰って来たよ。コノコノ~妬けちゃうねぇ」
「えっ!いやっ!お出迎えって訳じゃ!」
「えぇータイミング良すぎない?」
「だから、そんなんじゃ!」
「2人共、何をやってるんですか?」
「スカージュちゃんをからかってたー!」
「ハッキリからかう言われた!」
他に何があると?
ん?
シュヴァツ君それに興味あるの?
「シズネさん、これは丸太家を作る道具ですか?」
丸太家?
ログハウスは丸太家で間違ってないね。
「そうだよ、ミランダさんの作業場をそれにしようと考えてるの」
「なる程!確かにこのやり方なら平面作りが簡単ですね。でも、接合部は切ったらダメだと思います」
「えっ?」
「隙間が出来ちゃいます」
・・・あぁっ!
確かに出来る。
接合部は残さないとダメだね。
難易度が上がった・・・
「でも、これでなら一定の場所を残すのは簡単ですね。必ず同じ方に寄せて目印を付けておけば良いですし」
「シュヴァツ君・・・君は天才だっ!」
「はいっ?何でですか!」
私が適当ってのも有るんだけど、瞬時に対策が浮かぶなんて天才以外になんと言うんだ?
「オレの実家も丸太家で、1度だけ建てている所を見た事が有るから知ってただけです」
「ホント!じゃあさ、分からない所が有ったら聞いても良い?私、作るのも初めてだし、ジックリ見た事も無いの。正直、分からない事だらけなんだよね」
「初めてなんですか?それで、こんな工法を思い付いたんですか?こんな紐で切るなんて初めて見ましたよ?」
「それは、たまたま覚えてたからね。こっちには鉄製のロープとかって有るの」
「多分ですけど、無いです」
「有ったらきっと誰かが思い付いてたはずだよ」
私のアイデアって、全部前世での知識だもん。
誉められると嬉しいけど、誇れる事ではないんだよ。
「シズネさん、時間ある時に手伝っても良いですか?」
「良いの?手伝ってもらえると嬉しいな♪」
「勿論です。シズネさんがどうやって作るのか興味あるので」
シュヴァツ君ってさぁ。
なんだろ?
風属性の竜魔じゃないみたいだよね。
畑とか建築とか、土属性って感じだよね。
「丸太家の土台はどうするつもりですか?」
「丸太を何本か芯として打ち込む予定だよ。だけど・・・シュヴァツ君って土属性みたいだよね」
「「えっ?」」
スカージュちゃんも反応した?
なんで?
「だってさ畑とか建築って風ってイメージじゃないでしょ?とれかって言ったら土ってイメージじゃない?それと、ほら、背中の金ピカの鱗もさ、私のイメージだと土なんだよね。金剛って言って金ピカの金の字が入ってるの」
「見えるっすか?シュヴァツの背中の鱗」
「ふぇ?見えるけど?ここに来た時より面積増えてるよね?」
「は、はい」
あれ?・・・この反応は・・・もしかして。
「またやっちゃダメな事をやっちゃったのかな?うわぁーやっぱり私はダメダメだぁ!」
夕陽が出てたら膝を抱えて黄昏たい気分だよ。
あ・・・私は体育座りできないんだった。
足が短すぎて・・・
「そんなに落ち込まなくても良いんです。この幻術も何年も前にかけてもらった物ですし効果が薄れて来たのかも知れないので」
「・・・ホントにそう思う?金ピカ鱗って2人の反応からすると、隠さないとダメなくらいに珍しいんじゃないの?昨日の水竜君は気が付いて無かったみたいだけど?そんだけの面積が有れば気付くもんじゃないの?」
「「・・・」」
沈黙が全てを語ってないかい?
他に誰も居なかったから良かったけど、私がやっちまった事に変わりは無いんだよ。
ホント、ダメダメだぁ!
「黙っていてくれれば問題無いです」
「そうなの?そんたけで良いの?なら、このシャベルに誓って誰にも喋らない!」
「ダジャレっすか?しかも上手くない!」
ほっとけ!




