失敗の達人〔前編〕
父さん、母さん、私は元気で暮らしてるよ。
あの事を知った友達は最初、変に気を使ったりしてたけど、今は以前と同じになったよ。
意外だった事もあってね。
それまで殆ど話した事のない人からも話し掛けられたりしたんだ。
憐れみなのかな?
最初はそう思ったんだ。
思った通り憐れみの人も少なからず居た、でもそうじゃない人も居たんだ。
私にとって、友達が増えたのは、あの事件での唯一の幸いかな。
「なぁ、今はどこに住んでるんだ?」
「この店の近くのアパートでございます」
「家賃とかは大丈夫なのか?ほら、実家からの仕送りは期待できねぇだろ?」
「大丈夫でございます。事件の被害者って事で家賃は免除になっております。それと・・・実家はございません・・・」
「実家が無い?・・・まさか?」
「はい、破壊者のやって来た辺りに実家がございました。両親はその時に・・・」
「悪い、思い出すのも嫌な事を聞いちまったな」
アイシャ様は武闘派だって聞いたんだけど、恐縮したりもするんだ。
これはかなり意外だな。
「なるほど、卒業をした後、帰る所が無いと言う訳であるな」
「それで、うちに来たいって事か」
「いえ、行く当てがないからではございません」
「なら何でだ?」
私は・・・あの時に見た皆さんみたいになりたい。
直接対峙していたのは少ししか見ていないけど、あんな風に毅然と立ち向かう勇気を身に付けたい。
避難を誘導していた人達だって勇気がなきゃ出来ないと思うんだ。
「私は自分を変えたいのでございます。臆病な自分から勇気のある自分に、皆さんからなら学べると思うのでございます」
「うーん・・・勇気ねぇ」
「悪魔の親玉・・・イカン、笑いがこみあげてくるのである」
「あはははは、悪魔の親玉はな、物凄い臆病だぞ?知らない物とか人が自分のテリトリーに有ると、直ぐ隠れるぞ」
「え?」
「その様子だと我等が奴と対峙してるのを見たらしいのであるが、何人居ったであるか?」
「3人でございます」
「やっぱりか、あいつ最初は隠れてたからな」
「であるな、臆病なのは悪い事では無い。いざという時に踏み出す事が出来れば良いのである」
臆病は悪くない?
いざという時に踏み出す事?
・・・
・・
・
出来ないと思う、足が竦んで動けない自分しか見えない。
「私には踏み出す勇気すら無いのでございます。対峙してるのを見れたのだって足が竦んで動けなかったからなのでこざいます」
「・・・立ち向かう勇気じゃなくて踏み出す勇気を身に付けたいってのか?」
「はい」
「なら・・・悪魔の親玉はもってこいかもな」
「であるな、予測できない事をする御仁であるからな」
えっ?
予測できない?
そんなに・・・滅茶苦茶なの?
「スカージュに詳しく聞いてみるんだな。1、2を争う信奉者で一番の被害者だからな」
「は、はい。聞いてみるのでございます」
「んじゃ、あたしはそろそろ帰るよ。じゃあ、またな」
「はい、さようなら」
「それ、止めとけ。うちの連中には『またな』にしとけ」
「えっ?はい・・・?」
何でなんだろう?
別れの挨拶は普通『さようなら』だけど、『またな』?
なんか違うのかな?
「あれはであるな、『あたしは、あんたが居ても構わない』と言う事である。しかし、『さようなら』と『またな』の違いは自分で考えてみるのである」
「はい」
「くっくっくっ、悪魔の親玉に言われるまで我輩も気にしてなかったのであるがな」
悪魔の親玉さんに?
・・・悪魔の親玉さん、ちょっと怖いけど面白そうな人だな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
シズネは木~を切る~♪
トントントン~♪
トントントン~♪
ヤッフォーッ!
只今木材を加工中のシズネちゃんっす!
木材、ヤバいっす!
『拒絶の壁』と同じ様に接すると、弾け飛びます!
力加減が分からないっす!
すでに1本と半分が木片になりました。
どうしましょかねー
別にね、加工しなくっても良いんだけど。
もし何かあって交換しないとダメになった時に、サイズを決めておけば交換が楽になるでしょ。
そう思って加工してるんだけど・・・なぜか上手く削れないの。
爪でやるのが不味いのかな?
と言っても木を加工する道具なんて持ってないしなぁ。
困ったね。
もうメンドクサイから、原木の歪みを生かした造り方は止めちゃおうかな?
全部角材にしちゃって造ろうかな?
角材はねシャベルを使えば簡単に作れるんだよ。
『アオヒカネ』のシャベルは斬れ味が良すぎて関係無い物まで、土台にしてる物とか地面とかまで切れちゃって逆に使えないんだけど。
『赤闇鉄』は程良く切れて面白いんだよ。
その試しに作った角材はすでにスライスして板材にしてあるから、また切らないとダメなんだけど、角材かぁ・・・やっぱり味気ないよなぁ。
それに、この玄関の雨除けはミランダさんの作業場造りの練習も兼ねてるから、なんとか原木を生かした加工の仕方をマスターしないとダメなんだよ。
ミランダさんの作業場はログハウス風にしようって思ってるからさ。
なんでって?
私のイメージだから間違ってる可能性は凄く高いけど、板造りの小屋より原木使用のログハウス風の方が長持ちしそうじゃない?
長く使えばさ、愛着のだって今まで以上になると思うしさ。
そして何より、ログハウス風の建物があったら・・・
格好良くない?
良いよね?
良いんだよ!
だから意地でも造るんだ。
でも細かい加工が・・・丸く削るとか鉋を掛けた様に薄く削るとかが出来ない。
せめて道具があればなぁ。
スナフキンの爺様に頼めば作ってくれるだろうけど、凝り性な職人だから時間掛かるだろうし、必要以上の性能に仕上げちゃいそうだもんな。
それに、今は別の物の依頼をしてるしなぁ。
何をって?
模型・フィギュア・アクセサリーを作るための道具だよ。
彫刻刀を、切り出し刀1本、丸刀を大中小で3本、角刀を角度を60度90度120度の3本、平刀を大中小で3本。
ピンバイスを1ミリ3ミリ5ミリで3本。
掻きヘラを丸と平が両端に付いてるのを1本。
丸棒も両端に10ミリと15ミリの違うサイズのがついているのを1本。
これを残った『アオヒカネ』で作ってもらってるの。
何でそんな物を作ってるかって言うとね、作る人が増えてコンテストとか出来るようになったら賞品としてみようかなって。
『アオヒカネ』は手入れ不要なくらいに劣化しないし、残った『アオヒカネ』を使い切るのに丁度良いって思ったんだ。
刃物って言っても彫刻刀やピンバイスくらいの長さなら殺傷能力は殆ど無いし、爺様も賛成してくれたからね。
残りの『アオヒカネ』はそんなに無いって言っていたから何セット出来るかは分からないんだけど、20セット前後は出来るんじゃないかって事だから、シリアルナンバーを入れて希少価値も付けちゃう予定なんだよね。
もちろんナンバー0は私のだよ!
誰かに譲る気はありません!
だって、制作依頼したのは私だし、『アオヒカネ』は私と爺様の合作合金だし、文句を言われる筋合いなんて無いもん。
そんな訳でね、爺様は忙しいから追加依頼をしたら過労で倒れちゃうかも知れないからさ。
私が何とかしないとダメなんだよ。
でもなぁ、何とかって言われてもなぁ、道具が有った方が楽々なんだよね。
うーん・・・道具か・・・
あっ!
・・・私ってやっぱりバカだなぁ。
自分で道具を作っちゃえば良いんじゃん。
で、どんな物を作れば良いんだろ?
・・・鉋とか鑿とか刃物は無理、作れない。
角度とか全く分かんないし、試作して試すのがメンドクサイ!
だったら・・・
あれだっ!
木工所とかの電ノコみたいなのなら作れるかも。
あれってさ、切る位置で固定して、動いてるノコに突っ込んで切る、これであってるよね?
でもな、電気の無い世界で、人力でノコと材木の両方を1人で動かすって・・・出来ないんじゃないかな?
できるにしたって私にはイメージ出来ないんだよ。
だったらどっちかを固定だよね。
固定するなら材木の方かな。
大変過ぎるでしょ?材木を動かして切るなんてのは。
えっ?
お前なら片手でも出来るだろう、怪力女。
・・・そりゃ出来るだろうけどさ・・・怪力女って言うな!脳内!
それにだ、真っ直ぐ綺麗に切る自信無いわっ!
絶対に波打ったり斜めに仕上がる!
自信有るからなっ!
乾燥してる木材に【整形】が使えるって言ったって、平じゃないと大変だからね。
そんなんで時間取られるなら最初からほぼ平らに切る方が良いじゃないか。
分かったかな?脳内君、私はそこまでバカじゃないのだよ。
・・・
また無視かいっ!
全く。
脳内の相手して無駄な時間を使っちゃったよ。
さてと、どんな感じにすれば良いのかな?




