ダメだ・・・限界だ〔後編〕
気付けって言ったらアンモニアを嗅がせたり、水ぶっかけたりするってのが浮かぶけど、どうやるんだろう?
興味津々だねぇ。
気付けはミランダさんがやるのか。
って事は薬品を使うのかな?アンモニアかな?
って、えぇっ!
金鎚を取り出した?
その金鎚で角を強打!
そ、それが気付けなの?
「うっわぁ・・・痛そう」
えぇっ!
スカージュちゃんが痛そうとか言ってる。
角ってそんなに繊細に出来てるの?
「角は剥き出しの骨ですからね、見た所生え替わるには早そうですからしっかり頭蓋に接触してるので振動の伝わり方は半端ないですよ」
「そうなんだぁ」
「そうっす、痺れた足を突っつかれる位に痛いっす」
・・・根に持たれてる。
「スカージュちゃん!痺れたまんま歩こうとするとね、思ってる通りに力が入らなくて怪我しちゃう事もあるの、だから足が痺れたら突っつくのが礼儀なの」
「ホントっすかぁ?怪我は多分ホントなんだと思うっすけど・・・礼儀なんすか?」
ぐっ・・・中々鋭い。
もちろん違います。
私は悶絶姿が楽しくて突っついてました。
「も、もちろんだよ!私が嘘吐いた事ある?」
「あるっす。あたし何度も騙されたっす」
私、狼少年になって来てるみたいだ。
嘘を吐くのは止めよう。
「でも、直ぐにネタバレしてくれるから被害はないっすけど」
騙されて被害はないなら、これからも嘘は吐いても良いのかな?
いやいやいやいや。
私の言葉を既に半信半疑で聞いてるんだからダメだよ。
新たな決意をしてたら目を覚ましたみたいだ。
あぁーあぁー
朦朧としてフラフラしてるよ。
そりゃそうかもなぁ。
ミランダさん、1発じゃ起きないから何度も叩いてたしな。
しかも途中からリズムとって楽しそうだったし。
「俺様はいったい・・・ぐっ!何だこの頭痛は」
頭痛は間違い無くミランダさんが原因だよ。
「そうだ!決闘は!」
「貴男は見後に負けましたよ」
「学園長?・・・俺様が負けただと?有り得ない!なんかの間違いだ!やり直しだ!」
見事に予想通りの台詞を言ってくれるな。
こうも同じだと予知とかのスキルでも有るんじゃないかと思っちゃうよ、獲得スキル一覧には無かったけどね。
「潔く男らしく負けを認めなさい。貴男は負けたのですよ。ここに居る皆が証人です」
「五月蠅い!俺様が負けるわけが無い!卑怯な策を使った勝ちなど認めるものか!再戦だっ!さっさと用意をしろ!」
聞く耳を持ってないね、気絶するまでブレスを撃ち込んだのが間違いだったかな?
いや、再生薬で治しちゃったのがダメだったんだろうな。
傷一つ無いから負けたって認識出来ないんだろうな。
卒業生って事で顛末を見届ける為に残ったユグスちゃんが言い聞かせるのをやってくれてるんだけど。
え?
おっちゃん?
水竜君が墜落した後に帰ったよ。
もし延滞料を取られたら、木材の代金の多かった分で払うから大丈夫だって言っていたから良かったよ。
そんで、ユグスちゃんなんだけど・・・
かなりイラっとしてきてるみたいだな。
だってさ冷気が漏れてる。
冷たい空気が漂ってるもん。
そのうち実力行使で有無を言わさず帰すんだろうけど、それまで待つのも退屈だよなぁ。
私も加わろうかな。
・・・うん、そうしようっと。
そうと決まれば特等席のアイシャさんおっぱいの間からユグスちゃんの肩へ移動だっ!
「どこに行くんだ?」
「暇だからユグスちゃんの所に」
「悪い予感がするんだけどな・・・まぁいい、何するか分かんねぇから気をつけろ」
「うん」
・・・
・・
・
クイックイッ
「何ですか?今取り込み中ですよ」
「肩に乗って良い?」
「お好きになさい」
では遠慮なくユグスちゃん登りを開始します。
・・・到着!
ユグスちゃんは背が低いから直ぐ着いたよ。
ん?
おっぱいに挟まらないのかって?
無理だよー
ゴスロリ衣装は首からキッチリ締めてあるから隙間が無いもん。
それに、挟まるだけのボリュームが・・・いや!何でもない!うん、何でもないよ。
「卒業してまで何で言う事を聞かなきゃいけねぇんだよ!」
おぅ、吠えてるね。
なんだろうねぇ。
ヤンチャなまま大人になった地元ヤクザみたいだね。
「何度も同じ事を言わせんじゃねぇよ!スカージュ様を連れて帰って俺様は魔王になるんだ!」
魔王、魔王ねぇ。
そんなのになってどうするだろう?
「魔王とは貴男の思っている様なものではありませんよ」
「そんなもん知るか!なってもいないもんの事を言われたって分からねぇ!」
そりゃそうだ。
こいつの前向きな所は認めてやろう。
だけど、自己中な所が酷すぎて評価がマイナスから出ないんだよね。
そう言えば・・・
「ねぇ?何で魔王になりたいの?」
「魔王つったら最強の称号じゃねぇか。俺様の為の称号だ」
「そっか、んじゃさ。魔王になったら何をするの?」
「あん?魔王になったら?そりゃあれだよ、あれ」
「うん、なに?」
「だからあれだよ・・・ゴチャゴチャ五月蠅せぇ!なにするかより、なるのが先だっ!」
「それ違う。やりたい事の為に権力が必要ならなる、これが正解。魔王とか権力のある地位は意味も理由もない人が就いて良い地位じゃない」
「あ゛ぁん!ネズミのくせして生意気な事を言ってるんじゃねぇぞ!」
「事実を言っただけだよ?良識の有る人なら同じ事を言うよ」
権力ってのは手段であって目的であってはならない。
そんな言葉を聞いた事があるんだよね。
その通りだと思うよ。
「良識?薄汚い畜生ごときの良識なんぞ要らねぇよ!」
「あっ!ヤバいぞ・・・ミランダ?」
「うん、まずいねー。いきなり色が赤と黒になったよー」
「ユグス!シズネを置いてこっちに来い」
『ユグス殿、そやつは言ってはならない事を言ったのである。そこは危険地帯と化したのである』
「シズネ?下に下ろしますが良いですね」
「・・・うん・・・」
何か周りがバタバタし始めたけど何でだろう?
まぁいいか、それよりも・・・
畜生?畜生ってどんな意味だっけ?
小学生の頃に辞書で調べた事が有ったよな。
確か・・・
鳥・獣・虫・魚の総称、特に『ケダモノ』
だったっけかな?
・・・『ケダモノ』?
私、『ケダモノ』?
うん、ハムスターだしね、獣なのは当たってるけど、『ケダモノ』?
「何を黙ってやがるんだ!」
あっ!
こいつ最低だ!
蹴って来た!
こいつの遅い蹴りなんかは受け止めるのは簡単だから問題無いけどさ・・・
いきなり蹴りってどうゆう事?
「なにっ?俺様の蹴りを止めた?」
「ねぇ?畜生って言葉の意味は知ってるの?」
「獣『ケダモノ』、取るに足らない存在だっ!」
そっか、知ってて言ったのか・・・
「いい加減に俺様の足を離しやがれ!」
器用だなこいつ。
片方を私に掴まれてるのに、もう片方で蹴って来たよ。
もちろん遅いから受け止めたよ。
それにしても・・・『ケダモノ』かぁ
意志の疎通も会話でしてるんだけどなぁ。
それでもハムスターは『ケダモノ』なのかぁ。
「こいつ!離せ!離しやがれ!くそっ!何て馬鹿力だ!この化物がっ!」
「・・・もう少し離れた方が良さそうだな」
「そうねー。でも待って、赤が無くなった?青でいっぱいになって来てる」
「それって?」
「哀しみでいっぱいに・・・」
そっか、こんな事をしちゃうから化物って言われちゃうのか。
結局自分の行いがダメなんじゃん。
化物って言われるのは自業自得だったんだね・・・
今頃になって知るって、私って馬鹿だねー
「あっ!ダメッ!いっぱいの青に黒が混じりだした!それだけはダメだよ!」
「何がまずいんだ?」
「悲しみの中から出る憎悪は自分に向く事が多いの!下手をしたら自殺しちゃうかも知れない!」
こんな奴が近くにいたら迷惑だよね?
スキルだってステータスだって異常だしさ。
普通に考えたら迷惑以外にないよね。
どっかに行っちゃおうかな。
あっ・・・ダメか、アイシャさんの【強者感知】に引っ掛かるか。
どっかに行くんじゃダメか。
それじゃあ・・・
「シズネー!」
なんだろ?
「お前のステータスは確かに異常だっ!だけどな!お前自身は異常なんかじゃ無いぞっ!異常どころか可愛いからなっ!」
「何を言ってるんだ?あの女は?こんな化物が可愛いだと?頭がおかしいんじゃないのか?」
なんだと!
今、アイシャさんの事を何て言った!
「まぁ、頭がおかしくないと化物の近くには居れないか!フンッ」
「お前、何て言った!アイシャさんの事を何て言った!」
「あの女、アイシャってのか。頭がおかしい奴の名前にしては上等だな」
「アイシャさんは、アイシャさんは凄い人なんだぞ!バトルマニアで粗暴な感じはするけど、可愛い所だってたくさんあるし。ぶっきらぼうな態度をしてるけど、みんなの事はちゃんと見てるし、何か有ればサポートしてくれるし。そんで何より私なんかと友達になってくれた人なんだぞ!そんな、そんなアイシャさんの事を悪く言う奴は許さない!」
「許さなければどうするって言うんだ?畜生がっ!」
ブツ
ん?
身体が勝手に動いてる?
んー・・・
いわゆるあれか、さっきのブツってのはキレたって事か。
そんで、私はキレた私の冷静な部分とか?
あっ!
【穿つ】はダメッ!
見物人が多い、【破砕】で十分。
ドラゴンになったら翼を折れば飛べないから。
そうそう、そんな感じ。
あっ!反対側の翼も折って!
さすがは私、上手く折ったよ。
しかしあれだね、キレた私に指示をだす冷静な私はバーサーカーを制御するマスターの気分だね。
どっかにレイジュが現れていたりは・・・うん!毛が邪魔で分からん!
んぉ?
ふざけてる間に水竜君の見る影も無くなったなぁ。
アイシャさんの事を悪く言ったんだから当然だよ!
ほら、そこにまだ砕けてない骨と鱗が有るよ!
グッジョブ私!
後は・・・角を腕力でへし折るか。
「シズネー帰って来ーい、そろそろ気が済んだろー?」
って事なんだけど、キレた私、もういいかい?
おっ?おぉっ!
少しずつ私の思い通りに動く様になってくよ。
痺れて思い通りに動かなかったのが治ってく感じにそっくりだ。
「おーい、スカージュが泣いちゃったぞー戻って来ーい」
えっ!何で?
身体も動く様になったし、仕上げで角をへし折って終わりにしてやる。




