お馬鹿さんが空からやって来た〔前編〕
そろそろ昼時であるか。
・・・本日も角の茶房にて食べるとするのである。
この街にも中々どうして美味い物を饗する店が増えてきたのである。
街自体は半分程しか出来上がってはおらぬが、1軒完成すると直ぐに店舗なり住人が入る盛況振りなのである。
シズネ殿はここまで見通していたのであるか?
・・・いや、さすがにそれは無いと推測出来るのである。
『私の常識外れな思い付きは失敗の可能性高いから無視した方が良いよ』
などと言っていたのである。
確かに我輩も街の建造に関しては半信半疑であったのであるが、上手く行った場合の利点の大きさに賭けてみたのである。
そして、その賭けには勝てそうなのである。
「ノスフラトー差し入れだ」
「アイシャ殿?どうしてここに?」
「ユグスの所に行った帰りだ」
なるほど、ティファ殿の案件であるか。
「ティファの件な、何とかしてくれるってさ」
「ほぅ、それは重畳。後はシズネ殿の帰還を待つだけであるな」
「そうなんだけどな、あいつ真っ直ぐ帰って来るかな?」
「どういった意味であるか?」
「いやな、帰り道に興味を引く物が無いって言い切れないだろう?」
「ふむ」
確かにそうである。
シズネ殿は幼子の様に興味を持った物事に目を輝かせフラフラと見物しに行ったしまうのであった。
「ま、早いとこ帰って来て欲しいってのも有るけど、ティファには悪いが世界を見て回るってのも悪かねぇよな」
その通りであるな。
見聞を広げるのは良き事である。
シズネ殿の場合、広げた見聞が新たなるアイデアに繋がる気がするのである。
我輩達を驚かせ退屈させない物事を思い付いてくれるやも知れんのである。
ギィィィ
「いらっしゃいなのである」
「ん?お前はさっきの」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
やぁ、喜怒哀楽がコロコロ変わるって噂のシズネちゃんだよ。
うーん・・・
そんなにコロコロ変わるかな?
いつもニコニコ現金払い・・・じゃない!
いつもニコニコ楽しんでると思うんだけどなぁ。
今日はちょっとね、ムカッと来る事が有ったり、日頃の行いを否定された気分になったりして怒ったり泣きそうになったりはしたけどね。
いつもは違うはずだよ。
なに?
・・・そうなの?
いつもと変わりない?
それ間違い無いんだよね?
また担ごうとしてないよね?脳内!
あんたは何かって言うと騙したり担ごうとしたりするじゃないの。
・・・おい!こら!
黙ってないで何とか言え!
・・・無視かいっ!
って事はだ、担ごうとしてたなっ!
全くいつもコロコロと喜怒哀楽が変わったら情緒不安定な人なのか?って凹んじゃうところだったじゃないの!
危ないところだったよ。
あんな心底いけずぅな奴の事は忘れてだ、リアルな世界の話だよ。
私の気でも狂ったのか?って提案、街を造っちゃえってのが3人の魔王に認められちゃた件なんだけど・・・
マジっすか?いいっすか?失敗しても私は知らないよ?
って感じなんだけどさ。
上手く行きそうな予感もヒシヒシと有るんだよね。
だってさ、学校の周りには学校以外に何も無いんだよ。
その学校内にも娯楽施設みたいのは無いし、楽しみみたいな事柄が無い所なんだって。
そんな場所に街っていう多少は遊んだり買い物したり出来るの場所が出来たら、生徒は間違い無く繰り出すよね。
私なら絶対に繰り出すもん。
だから、最初は生徒相手で賑わうはずなの。
生徒相手に賑わえば一般人も増えるはずなの。
一般人が増えれば一般人相手にも賑わうと思うんだよね。
そうやってさ一定規模まで人口が増えたら万々歳、大成功って言って良いと思うんだ。
大成功したらさ、世間の目ってのが出来る訳だから、あからさまな差別みたいのをする輩はグンと減ると思うの。
そうすれば私も安心して学校に通える様になるはずなんだよね。
あっ!
忘れてたっ!
大切で肝心な事を。
「ユグスちゃん、私は学校に通えるのかな?」
「・・・」
いゃん!
そんなに見つめないで。
「そうですね、貴女が入学するのは3年後。それまでには少なからず結果がでているでしょう。良い方向に結果が出ていれば魔王推薦枠での入学を認めます」
魔王推薦枠?
あそこの生徒って魔王が認めた人が行くんじゃないの?
全員が推薦されてるんじゃないの?
「推薦枠は我輩も使用するのである」
「あたしも、と言いたい所だが魔王位は譲渡しちまったしな」
「退位魔王枠が有りますよ」
「1回こっきりしか使えないだろう、その枠は。シズネに使うのが嫌な訳じゃねえが使った先達が居ないしな」
「いいえ居ますよ。バルムンド殿がそこに居るシュヴァツを推薦枠で入学させています」
「学園長!それは秘密・・・
「卒業してまで秘密にする事柄ではありません。そこのシュヴァツはバルムンド、ジークリンデ夫妻の養子なのです」
バルムンド・・・つい最近聞いた名前なきがするんだけど・・・
「ほぅシュヴァツ殿はあの夫妻の養子であったか、2人は息災であるか?」
「いえ・・・3年前に・・・」
「そうであるか、惜しい御仁が身罷ったもである・・・お悔み申し上げるのである」
「有り難う御座います。父も母も幽魔になる事なく悔い無く逝きました、それだけが幸いです」
「シュヴァツ殿、プレッシャーを掛ける様であるが、父母の背を越す御仁となられよ」
うーん・・・思い出せない。
こういう時は聞くに限る!
「スカージュちゃん、バルムンドって誰?シュヴァツ君のお父さんってのは分かったんだけど」
「バルムンド様は5代前の竜魔王ですよ。あたしの小範囲ブレスの最初の使い手っす」
あっ!
思い出した!
覚えてなくても仕方なかったかも。
名前を耳にしたのは今日が初めてだったし、チラリと小耳に挟んだ程度だったんだもん。
うん、仕方ない。
「前例が出来てたのか、ならあたしも推薦枠を使うぞ」
「皆ありがとう、でもさ推薦は1人から貰えれば大丈夫じゃないの?」
「そうでも有りません、種族推薦で入学する者より魔王推薦で入学する者の方が格上の存在となるのです。しかしそれは同種族内での事です。シズネ、貴女は魔族ではありません。なので魔王推薦枠は多いに越した事はないのです」
なるほどねぇ。
だんだんと学校の入学システムが分かってきたよ。
入学するには3通りあって、種族としての推薦と種族長たる魔王個人の推薦と退位した元魔王の推薦があると。
んでもって、種族推薦は一般入学扱いで、魔王推薦は特待生扱い、んじゃ元魔王の推薦は?
「あのさ、現魔王の推薦と元魔王の推薦って差はあるの?」
「勿論有ります。先程アイシャが言っていた通り退位した魔王の推薦は1度限りで行える推薦です。その1度限りの推薦をする程の子供なのですから、現魔王の推薦などよりも重く捉えられます」
ほぇー
アイシャさんはそこまで私の事を認めてくれていたのか・・・泣いちゃいそうな位に嬉しい。
あっ!
そうするとシュヴァツ君もそうなのかな?
「ねえシュヴァツ君」
「はい?」
「シュヴァツ君も元魔王の推薦でしょ?親の贔屓目とかじゃなく推薦されたのかな?あっ!・・・失礼な事を聞いてたならゴメンナサイ」
「・・・オレには1つ秘密が有るんです。知っているのは父さん母さんスカージュの3人だけですが・・・父さんはそれを知ってたから推薦枠を使ってくれたんだと思います」
「そっかー・・・その秘密は聞いても良い事かな?」
「出来れば話したくはないです。スミマセン」
「私にだって秘密にしないと命に関わるかもしれない事があるから無理強いはしないよ」
無理矢理聞いて嫌われたりするのはイヤだしね。
話しても良いって思ってもらえる位に信じてもらえば良いんだし。
そんなに恐縮しないで欲しいな。
「・・・それってカンストスキルの事か?」
「え?・・・えーと・・・ひ・み・つ♡って事で」
「やっぱり秘密なのか」
「ゴメンね。こればっかりは誰にも話せない・・・下手したら・・・ボッチになっちゃう」ボソッ
「シズネ、スキルの公表の時はどうするのですか?秘密というのは通用しないかもしれませんよ?」
無理矢理誤魔化す!
というか、私の手持ちスキルの数と同じ数だけ持ってる生徒って居るのかな?
「んーと【穴掘り】【頬袋】【横掘り】【縦掘り】【振動感知】【破砕】【整形】【物質操作】【軟化】【硬化】【無限収納】これが今の手持ちスキル、3年後に確実に手持ちになってるだろうスキルは【万物操作】【復元】【マテリアル装着(無制限)】【範囲収納(5メートル)】・・・これで秘密なのを誤魔化せないかな?」
「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」
あっるぇー
なんで沈黙なの?
もしかしてやっぱり【破砕】【無限収納】も秘密の方が良かったかな?
・・・いや、他にもヤバそうなのはテンコ盛りな気もする。
私ってチョコチョコ公開しちゃダメなのを公開してるかも・・・反省!
「シ、シズネさん、秘密のスキルって今言ったのより凄いっすか?」
「知りたいぃぃぃぃぃ?なんかやっちゃいけない事をやったみたいだからぁぁぁぁぁやけっぱちで教えてあげようかぁぁぁぁ?」
「あのっ!そのっ!・・・知りたいような知りたくないような・・・」
「私は知りたいけどー・・・話したらシズネちゃんどっかに行っちゃうでしょー?」
「うむ!当然逃げる!追い掛けて来る者には情けも容赦もしない!」
だってさ、マジで下手したら世界中が敵になっちゃうんだもん。
【穿つ】は、あいつ・・・あれ?・・・名前何だっけ?
脳内の奴また記憶を消しやがった!
くっそー!
名前・・・なんだっけ?
ダメだぁ、完全に消え去ってる。
脳内は呼んで出てくる奴じゃないし、諦めるしかないか。
兎にも角にも、あいつが使って魔族を掌握しちゃったスキルだもん
忌むべきスキルってなってたっておかしくないと思うし、ノスフラト君も公表しない方が良いっていってたしね。
そんなだからバレたら反応を確かめるまでもなく逃げないと危険かも知れないんだ。




