裏口入学面接?〔前編〕
「いよっ♪元気だったか?」
「妾は元気ですよ。それよりも先日はうちの生徒が迷惑をかけてすみません」
「迷惑って事は無かったから気にすんなって。ティファも暴走しなかったしな」
「それでは今日の来訪の用件はなんでしょうか?」
アイシャが来るってのは珍しい・・・と言いますか。
何かしらの厄介事を持ち込むのが想像出来るのです。
「いくつか有るんだけどな、先ずはノスフラトから渡してくれと頼まれた物だ」
「良いのですか?妾が貰っても、シズネが居ない今、そちらのストックも少ないのではないのですか?」
軟化した『拒絶の壁』をインゴットで5個も持って来たのです。
妾はいつも1個づつ貰い受けていたのですが・・・良いのでしょうか?
「この部屋に入りきらない位に在庫は有ったから良いんじゃねぇか」
さすがはシズネ、と言う所なのでしょう。
良く言えば用意周到。
悪く言えば面倒臭がり。
「では、遠慮無く受け取りましょう。代金は・・・
「今回は代金は要らねぇよ。その代わりに頼みと相談が有る」
そういう事ですか。
頼みを聞いて貰う賄賂と言う事なんですね。
「どんな事でしょう?」
「ティファがな、今年度数えで10歳なんだわ」
「ティファを入学させたいと?しかし通う意味は有るのですか?」
ティファもシズネ同様に元に居た世界で学校に通っていたそうですし、今ある知識とステータスとスキルで社会でやっていくだけのレベルだと思うのですが。
「あたしもな必要性を感じないんだけどな、シズネが居たら絶対に通わせるって言うだろうってのがあたし達の見解なんだよ」
「・・・シズネなら間違い無く言いますね」
「だろう?そんで先に通えるティファを心底羨むのも想像出来るんだよな」
妾の目にも浮かびますわね。
シズネと離れる事に渋るティファなのですが、心底羨むシズネを見て通う決心をするティファの姿が、だとしますと・・・
「ティファはシズネが帰還するまでは拒否するのではないのですか?」
「その通りだな、そこで相談なんだ、シズネが戻って来てから中途入学ってのは出来ないか?」
なるほど、あそこの人達もティファの説得は出来ないと諦めましたか。
あの子はシズネに似て頑固者ですしね仕方ないのでしょう。
しかし、中途入学ですか・・・無理矢理理由を付けてしまえば不可能ではありませんが。
理由・・・
「分かりました。学園長としてもティファに期待したい事が出来ましたので、中途入学の件はなんとかしましょう」
「ほんとか!恩に着るぜ!それとな、こないだの不法侵入した中にヴェルって妖魔族の奴が居たろ?あいつの卒業後ってのが決まって無かったら『断崖荘』に修業にださねぇか?」
「ヴェルをですか?何でまたヴェルを?」
「あの歳で周りが見えてる奴ってのはそう居ないだろ?見込みが有るんじゃないかと思ってな。お前の後継にな」
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うーん・・・私さ今さっきスカージュちゃんの涙で怒りが引いていったよね?
うーん・・・私・・・マジで大魔神になっちゃったのかな?
だってさぁ。
大魔神の怒りを鎮めるのは乙女の願いだか祈りなんでしょう。
少女の面影を残す美女スカージュの涙で怒りが鎮まるシズネ。
なんだこりゃ?
3流映画のキャッチコピーみたいだぞ。
でも、決して1流じゃないのが私らしいってとこか。
「シズネさんは理由があって掘ったっすよね?あたしには理由がないっす」
まぁねぇ、命を掛け金にしたサバイバルギャンブルと、お客様に納得してもらう為の真摯な仕事をしたんだよ。
「理由が無いなら日課にしちゃおう。1日1個造れば2000日、3年以内にクリア出来るよ」
「1日1個も無理だと思うっす」
全く最近の子は根性が無いんだから。
映画で見たんだけどさ、囚人に穴を掘って埋めさせてを刑期の終わる日まで繰り返しやらせるってのがあったわよ。
まぁ、大概の囚人は疲労で死んじゃって自分の掘った穴が自分の墓穴になるって話でもあったけどね。
「学校を卒業してるんでしょう、それ位の根性は痩せ我慢してでも見せようよ」
「いやいやいやいや、卒業は関係ないっす。そう言えば、学校で思い出したっすけど。シズネさんは学校に通いたいっすか?」
「えっ?うん、そうだけど」
「上の魔族学園にっすか?」
「あそこなら近くて良いよね」
「うーん・・・」
そこで悩むの?
やっぱりハムスターじゃ入学出来ないかな?
そうだよね、種族ハムスターだもんね、魔族じゃ無いもんね。
第三の差別対象が自ら進んで入学って事になるしね。
「シズネさん・・・何が有ってもキレない自信あるっすか?」
「えっ?・・・えーと・・・」
私ってそんなにキレやすいキャラって印象なのかな?
今回キレたのだってアイシャさんに因縁付けられて以来だし、こっち来てからは2度目だよ?
「シズネさんは強過ぎるっす」
「ふぇっ?私が強い?それは無いな、私は弱いよ?」
「んーと、学園では年に1度ステータスとスキル公開する日があるっす」
「えっ!それダメダメダメダメ!絶対に公開出来ないスキルが有る!」
「ステータスだけじゃなくてスキルにもあるっすか?・・・使用武器はあのシャベルっすよね?」
「・・・うん」
あっちゃー
ハムスターで差別云々以前にステータス・スキル・使用武器がまずいってのか。
自分でも認めるよ、自分自身で上手く制御出来るかは別にしても確かにステータスは人並み外れてます。
スキルは・・・【穿つ】【無限収納】【破砕】辺りは子供が持つスキルじゃないよね。
武器になるシャベルだって宵時のスナフキン特製の逸品物だし。
・・・やっぱり学校通うのは無理なのかなぁ。
同い年の子達と友達になって、お喋りしたり遊んだりしたかったんだけどなぁ・・・
夢幻の如くなり・・・か。
「ねぇシュヴァツ、斯く斯く然々なんだけど、どう思う」
「どうって言われてもな・・・学園長に直接聞いてみるのが良くないか?」
今から学園長の所に行くの?
実物を見せた方が良いだろうから、私も付いてくよ。
「それもそうだね。シズネさんちょっと待ってて下さいね」
「私も付いて・・・
「学園長、シズネさんが学校に通いたいそうなんですが、学園長の意見を聞かせて下さい」
・・・はい?
それユグスちゃんだよ?
ユグスちゃんって学園長なの?
そっか言われるまでも無いのか、魔王だもんね。
魔王が誰かの下で働くってのはおかしい事だしね、学園長っのが妥当だよね。
「シズネがですか?学園に通うのですか?妾にはとても無謀、もしくは遠望深慮ならぬ近望浅慮にしか思えないのですが」
えんぼうしんりょ?
どういう意味だろう?
言葉の意味は分からないけど、言い換えたって事は良い意味なんだろうなぁ。
で、言い換えた方の意味は、言わずもがな!
絶対に悪い意味だっ!
『何言ってんの?考えてもの言ってくんない?お・ば・か・さ・ん♪』
位の事は言われてる気がする。
「ちょっとユグスちゃん!言葉の意味は分からないけど、バカにしたって位は分かるんだからね」
「確かにバカにしました。ですが貴女は学校に通う必要性はありません」
「なんでっ!」
「貴女は現状でも社会でやっていくだけの能力があります。学校で学ぶ事柄が無いのです」
「そんな事ないもん!私、魔族の事をほとんど知らないし、字だって書けないもん!それに、同い年の友達とかも欲しいもん!」
個人的に一番重要なのは最後の友達なんだけどね。
「学ぼうとする意志は大変素晴らしく尊いものですが、貴女なら、シズネなら8年も必要ないと思います。それに、万が一暴走した場合に止める事の出来る人材が学園には居ません。妾でも不可能です」
暴走前提なの?
暴走なんてしないよ。
多分・・・きっと・・・自信無くなってきたよ
「もし暴走したところで高が知れてるでしょ?私はミニマムサイズなんだしさ」
「そのミニマムサイズがアイシャを無力化するのですよ?」
うっ・・・
そこを突かれると何も言えない。
でもあれは正当防衛だもん。
私から掛かって行った訳じゃないもん。
「あの時はアイシャさんが不意打ちしてきたんだし、やらなきゃ今ここに居なかったもん。やらないといけない状況だったんだよ・・・」
「分かりました、100歩譲ってそうだったとします。その上で聞きますが、学園内でやらないといけない状況が起こらないと思いますか?」




