いくすくるーしぶ〔後編〕
そりゃそうか。
ミランダさんの疑問はもっともだよ?
爺様に依頼したシャベルは普通の物と形状が違うし、いざって時には武器にもなる仕様だからなぁ。
形状も用途も普通と違ければ疑問に思うか驚くかのどっちかだよね。
「投げたりはしないよ、なくしちゃったりするのはイヤだしさ。でも武器にもなるように作ってもらったんだよ」
「シズネちゃんには武器要らないんじゃないかなー?無くたってアイシャちゃんをボコボコにしちゃったしさー」
そんな事も有りました。
でもさ、アイシャさん獣化ってのをしてなかったよ。
それに、本気じゃなかった気がするの。
楽しんでいたんじゃないかなぁ?
だからね、本気のアイシャさん・ノスフラト君には反撃すら出来ないで頭に輪っかが発生すると思うんだよね。
まぁ、武器を持ったからって強くなる訳じゃないけどね。
武器が有るってだけで少し安心出来そうだからさ。
「気休めだよ、気休め。私は戦うなんて事はしたくないし、そうなりそうなら逃げ出したいしね。でも、どっちも出来ない時って来るかも知れないでしょ?そゆ時に何か有ると安心出来そうじゃない?」
「んー・・・ちょっと分かんないかなー」
「ガハハハハ。護身用にって事じゃの、何も無いよりは良いって事じゃの。・・・さて嬢ちゃん!残り2つじゃが・・・とんでもない物に仕上がったのぉ」
残りって・・・
爺様秘匿の合金と『拒絶の壁』を使った合金のシャベル?
・・・とんでもないって・・・どんなん?
「先ずは実際に見てもらおうかの」
赤黒いシャベルと蒼っぽいんだけど・・・何だろう?
輝きがある?
あっ!あれだっ!
夕焼け空の後の、ほんの数分だけの青空と夜空の混じった薄暗い様な薄明るい様な空の色。
・・・自分で言っててよく分からない説明だなぁ。
そんな感じだったからさぁ。
蒼い方をマジマジと見てたんだけどね。
「そっちはの、予想外の色になりおったのぉ、宵時前の空色とでも言うのかのぉ」
そんな表現の仕方が有るのかぁ。
勉強になります!
「何とも言い表せない色合いよねー私はこの色は好きだなー」
ミランダさんはこの色は好きなんだ。
赤系の色の服ばっかり着てるから青系は嫌いなのかと思ってたよ。
「色は綺麗じゃがの、性能も凄まじいのぉ」
「・・・どれくらい?」
「ミランダ嬢ちゃん、それを持って『拒絶の壁』の石材に触れてみるのじゃ」
「触れるだけで良いのー?」
「うむ、触れるだけで違和感が有ると思うのじゃ」
私より先に使うの?
・・・ちょっとジェラシー。
でも、私じゃ検証にならないからミランダさんなんだろうな。
さてさて、どう凄いんだろう?
あはははは。
ミランダさん恐る恐るだなぁ。
「ミランダさん、それただのシャベルだよ。人を傷つける機能は他のシャベルにだってあるからね。それと、危険性があるなら爺様は自分でやってるはずだから危なくはないよ」
「う、うんーそうだよねー、うんー」
恐る恐るは変わって無いけど、屁っ放り腰じゃなくなったな。
壁の石まで後少し、何が起こるのかな?
「・・・えっ?まさか?そんな・・・ホントに?」
んー・・・
何が?
見てるこっちは分かりませんが。
「シズネちゃん!こ、これ凄いっ!力を入れてないのに刺さるよっ!」
「えっ?刺さる?『拒絶の壁』が混ざってるからかな?」
そりゃないか、素材が同じなら優劣は無いんだからね、一方的に破壊するなんて事は起こらないか。
じゃあ何で?
「合金にした結果、『拒絶の壁』を遥かに超える強度を得たのじゃ。切れん物質はないと言うレベルになってしもうたのじゃ」
・・・はぁ?
えっと、それってヤバい代物なんじゃないの?
「辛うじて赤闇鉄は受け止める事が出来るがの」
赤闇鉄ってのは、こっちの赤黒いシャベルの事かな?
こっちも異様な存在感は有るんだよね。
あっちの蒼いのが清々しい感じがするのに対して赤闇鉄は禍々しい感じって言うのかな?
ちょっとイヤな感じがするんだよね。
「あの『拒絶の壁』を混ぜた合金はアオヒカネ(蒼陽金)と名付けたのじゃが・・・あれは二度と作らんのじゃ」
「えっ?なんで?」
「あれは危険過ぎるのぉ。量産し武器など作ったとしたら恐ろしい事になるのが目に浮かぶのぉ」
確かにそうかも、製造法は爺様しか知らないから量産って言ったって限度が有るだろうし。
数が少ないってなれば値段の高騰は火を見るより明らかだし。
金持ちが独占して武器を製造したら・・・逆らう事なんて出来なくなっちゃうよね。
対抗出来る物を手に入れる事が出来ないんだから、必然的にそうなっちゃうんじゃないかな?
それは楽しくない世の中になるって事だよね、幸か不幸か赤闇鉄もアオヒカネも作れるのは爺様だけだし、爺様が作らんって言うなら回避出来る未来って訳だね。
「おっ?ミランダ、そりゃなんだ?やけ簡単に刺さってるけど・・・なんだそれは?」
「これ?これはシズネちゃんのシャベルだよー、すんごいのー、力を入れなくてもプスプス刺さるのよー」
「マジっすか!あたしもやってみたいっす」
「私は別に構わないけどー・・・あそこでー『持ち主より先に使うの?』ってジェラッてる子が何て言うかー」
バレてたのか。
つか、分かっててやったのか?
「シズネさん!あたしもやっていい?」
うわっ!
スカージュちゃんのおねだりモード可愛い・・・反則級の可愛さだ。
「シズネ、あたしもやってみたい」
アイシャさんもか・・・つか、何でこんなに可愛いんだ?
普段のアイシャさんとは別人じゃないか!
ふぅ、まぁいいか。
2番目も3番目も4番目も1番目じゃないなら変わりないしねー
「壊さないでよ?傷つけたりもしないならいいよ」
「ありがとうです!」
「ありがとう、ちょっくら遊ばせてもらうぜ」
あぁ・・・何か楽しそう。
私もあっちに混じりたいなぁ。
でも、爺様がまだ何か有るみたいなんだよね。
しかも、話すか迷ってる?
・・・迷うなら、話さなくても良いんじゃ?あっちに混ざってきちゃって良いかな?
「あの・・・
「嬢ちゃん、お主の前世について調べ終わったのじゃ」
何ぃ!
そっちも終わったのかい?
爺様、仕事が早いな。
「結論から言ってしまうとのぉ、14歳で死んだ生は無かった。どの生も天寿を全うしておったのぉ」
「ふぇ?んじゃ私は何なの?」
「正直分からん。が、仮定を1つ提示できるのぉ」
「どんな仮定?」
「うむ、今の嬢ちゃんとそっくりな14歳と言うのは有ったのじゃ。じゃが全く同じでは無いのじゃ、その後の生、子供が出来てからの性格などが混じっているのが今の嬢ちゃんなのじゃ」
はい?
おばちゃんになった辺りの性格も混じってるの?
益々訳が分からんよ。
「ここからが仮説じゃ、嬢ちゃんはその生で充実していた頃の性格を混ぜて転生しておるんじゃないかの。極々稀にじゃが孫の出来た時にそっくりな時もあるのじゃ」
おばちゃんだけじゃなく婆様になった時のも有るんか・・・
もう笑うしかないね。
「じゃあ、私は良く分かんない存在って事だね。・・・んー・・・まぁいいか、死因も分かったし、問題が有るわけでも無さそうだしね」
「嬢ちゃんがそう言うのら儂は構わんのぉ。しかし・・・『熟練者』については何も分からんかったのぉ」
『熟練者』についちゃ気にしない事にしてるよ。
と言うか、考えたって分からない!
だ・か・ら♪
気にしないんだ。
「かっかっかっ。嬢ちゃんは気にしておらんようじゃのぉ。ん?誰か来たようじゃの」
爺様が上を見て、そう言ったんだけど・・・
あれって・・・
何か見た事が有る様な。
「おーい嬢ちゃん、来たぜー!」




