なるようになるさ!〔後編〕
シュヴァツ君が行った後、ノスフラト君は本を棚に置き始めたよ。
ホイホイと収納袋から出して置いていってるけど・・・
適当に置いてるの?
出来たらジャンル別に置いて欲しいんだよな。
その為に棚横に札が下げれる様にフックを付けてあるんだけどなぁ。
「おっ?ここはなんだ?」
「あれー?・・・もしかして完成したのかなー?ノスフラト君の書庫ー」
「書庫?・・・これ全部が本を置く棚なのか?」
「ノスフラト君は膨大な数の本を持ってるからねー」
お姉様2人が来ましたか。
ミランダさんは知ってるから、あんまり驚いてないなぁ。
でも、アイシャさんは驚いてる、やったねー♪
「おっ!シズネー、お前は極秘裏にこんな物を造ってたのか」
「秘密になんてしてなかったよ?入口は開けっ放しだったし」
「確かに開いてたけどー、中は殆ど見えなかったよー」
そうかもね。
なんせ私が通れるだけのネズミ穴な上に灯りを点けてない真っ暗な部屋だったからね。
そんなんでも開けっ放しだったのは間違い無い。
「シズネ殿、これは何であるか?」
ノスフラト君、それが気になるか。
それは私の傑作品かも知れない代物なんだよ。
・・・ちょっと大袈裟だったかな?
「それはね、本と本の間に挟む緩衝材みたいな物だよ。隙間が出来ちゃうと斜めになっちゃうでしょ?そゆ時にそれを挟むの。バネ式になってるから、ある程度は縮むからね」
跳び箱で使う踏切板と同じ様にしてあるんだ、板バネって言ったかな?
歪みを平面に戻そうとする反発力を利用してるんだよ。
バネって言って思い浮かぶグルグル巻きのスプリングも作れるんだけど、あれって一点で反発するには適してるけど、平面を均等に伸縮するのには向いてないみたいなの。
試作品で作ったのはスプリングを四つ角に設置したのを作ったんだけどさ、グニョグニョしちゃって均等に伸縮しなかったんだよね。
なら、でっかいのを真ん中に設置すれば良いかな?
って思ってやってみたんだけど、スプリングが太いと力が強過ぎるし、細くするとグニョグニョしちゃうし、ダメだったんだ。
そっからが大変だったんだよ。
だいたい均等に伸縮する物にするにはどうすりゃ良いのか分からなくてさ、半分諦めてたんだよね。
そんな時に、『拒絶の壁』を薄くしたのをアイシャさんにデコピンをしてもらってバィンってなってるのを見て、跳び箱の踏切板を思い出したんだ。
何で思い出したのかは私も分からないんだけどね。
「なるほど、その時が来たら試してみるのである」
「なぁノスフラト、お前はここに置く本を全部読んだのか?」
「いや、まだ読んでないのも有るのである」
「ならさぁ、二度と読む可能性の無い本ってのはないのか?」
ん?
アイシャさんは何が言いたいんだろう?
・・・あれかな、要らない本を売って新しいのを買え、みたいな。
「少ないが多少は読まない本も有るのであるが、そう言った本は専門書なのである。我輩が読まなくとも貸して欲しいと言う者は居るのである。現在、農業関係と鍛冶関係の本は貸して居るのである」
スカージュちゃんとシュヴァツ君にか、2人共まだまだ手探り状態だからね。
専門書で座学もしてるんだ、凄いね。
「なるほどねぇ、なにな、本なんてバカ高い物なら何冊か売れば新しいのが買えるんじゃねぇかと思ったんだよな」
「我輩もそれは考えたのである、だがシズネ殿に教わった作業の資料になる事が分かり手放せなくなってしまったのだ」
えっ!私?私のせいなの?
・・・あぅー
「ごめんなさい・・・余計な事を教えちゃったのかなぁ?」
「いやいや、シズネ殿に感謝しているのである。やりがいのある作業と立派な書庫を造って貰い、とても有り難いのである」
逆にすっごい誉められた!
余計な事じゃなかっただけでも安堵したのに誉められたー!
「私もこの規模の書庫は聖王国で見て以来よー」
「ほう、聖王国にはこれに匹敵する書庫が在るのであるか」
「あそこは色んな物の製造が盛んだからねー出来上がった物の献上品の保管目的でー、自然と大きくなっていったからー、でもこっちの方がずっと立派よー」
へぇ、そんな国が人間界にはあるんだ。
一度で良いから見に行ってみたいなぁ。
その聖王国ってのに物作り大国に見学ツアーってあんのかな?
あるなら速攻参加だよっ!
だってさぁ、作業してるのを見たら真似できそうな事が有るかも知れないじゃない?
だったら見なきゃ損ってもんじゃない。
それにさ、本の製造過程とか版画が有るのかとか分かるじゃない。
あっ!・・・年寄り3人居るし聞いてみようかな。
「・・・ねぇねぇ?本ってそんなに高いの?何で高いの?」
「本はねー・・・
「殆どが複写士による手書きなのである・・・
「1冊出来上がるのに半年掛かるなんてのはザラなんだよな」
ほへぇ・・・
最悪の予想が的中しちゃったよ。
そりゃ高い訳だ。
「じゃあじゃあ、版画・・・こっちでも版画って言うのかな?板とかを彫ったり削ったりして塗料を塗って紙に転写する絵なんだけど」
「ふむ、プレスの絵画であるな。それがどうかしたのであるか?」
「版画・・・プレスがあるなら何で手書きなのかなぁ?って思うんだけど」
「「「えっ?」」あーっ!そうかー!」
ミランダさんは気が付いたみたいだね。
そんなんです、文字を木に彫っちゃえば手書き何て手間は必要無い上に量産も可能になるんだよね。
「プレスだと楽に複写できるのねー」
「なるほど、だがしかし手書きよりインク代が掛かるのである」
「文字の方を彫るんじゃなくて周りを掘れば良いんだよ。・・・んとね・・・私の居た世界ってね・・・」
あれ?
・・・良いのかな?
よくあるパターンだと現地より進んだ技術なんかを無闇に広めたらダメって事が多いよね?
・・・
・・
・
でも、活版印刷って進んだ技術でダメって程じゃないよね?
版画は有ったし、簡単なヒントでミランダさんは気が付いたしね。
版画の更に一歩進んだ技術・・・ノスフラト君辺りなら直ぐに思い付きそうな技術だと思うんだよね。
・・・良し!
大丈夫だと思おう。
「私の居た世界の本はね、それの半分以下・・・主流は3割位の大きさだったの」
「なんと!?」
「値段もね、食事1回分するかしないか位だよ」
食べる物と店によって値段違うからね。
「・・・安いんだな。それはやっぱりプレスして複写してるからなのか?」
「ちょっと違うよ。プレスの先、もっと楽に複写出来る物を開発してたの」
「ほう、そんな物がある世界だったのか。こちらでも作れるのであるか?」
「作れるとしたら初期の手法の物だけかな、それ以降の物ってどうやってるか私には分からないから」
無理だから、印刷機ってのが動いてるのはチラッと見た事は有るけど、どういうやり方なのかは見てないもん。
オフセット?ユウブイ?シルクスクリーン?
ベタはまだ分かるけどアミ?メッシュ?
ツキバリ?ヒキハリ?アタリ?ドブ?ケントウ?トンボ?クワエ?
ナンデスカソレハ?ワタクシニハワカリマセンコトヨ、オホホホホ。
って感じさ。
「へぇー初期のは分かるんだー・・・どうやるの?」
「プレスと殆ど変わらないよ、ちょっと待ってね」
『拒絶の壁』を10ミリ四方の棒状にして、【整形】で柄として文字を浮かせて・・・んー私の名前をひらがなで良いかな。
「こんな感じの物を、もう少し小さくして作って文字順に並べてプレスするの、読めないと思うけど私が使ってた文字で私の名前だよ」
「・・・これは・・・
「こりゃすげぇな!確かにこれなら楽に文章が書けるな」
「それだけでは無いのである、板に彫るのと違い並べるだけであるからスキルが必要無いのである」
「問題も有るんだよ、何人かでチェックしないとダメなの。使ってる版が間違ってたら意味が通じなくなっちゃうでしょ?」
「それは手書きでも同じである、ただ此方は最初から書き直しが無いので労力の差は歴然なのである」
「そうねー『間違えた!書き直しだぁ』って落胆しないものねー」
「ふむ、初期の物と言うだけあって改良の余地はふんだんに有りそうであるな」
もう改良にまで考えが行ってるの?
頭の良い人は違うねぇ。
私なんて自分で考え出した物は1つも無いからなぁ。
素直に尊敬しちゃうよ。
「改良に目をやるのも良いけどよ、こっちの版を作るのは骨だぜ、シズネはスキルを使って難無く作ったけどよ。他の奴等はそうもいかねぇだろ」
確かに私なら難無く作れるけど、私が量産する気は無い。
そこまでしてあげないとダメなら、まだまだ早過ぎる技術って事だからね。
本が小さく安くなっては欲しいけど、私が居ないと成立しない物なんてのは根付かないでしょ?
それを分かってるからなのか、ノスフラト君もアイシャさんも作ってくれとは言って来ないで、版をどうすれば量産出来るかを話してるしね。
ミランダさんは、その2人を不思議そうに眺めてるけども・・・
「ねぇー、シズネちゃんに作ってもらったらー?」
「それが一番手っ取り早いのは理解しているのであるが・・・
「それやったらシズネはどっかに逃げるかも知れないぞ」
「えーっ!なんでー?」
「何でって、お前は逃げただろう」
「私ー?逃げたー?」
「ミランダ殿は不老薬を開発し色々と面倒になり、ここに居るのであろう?ミランダ殿より面倒事が嫌いなシズネ殿が逃げ出す保証は出来ても逃げ出さない保証は出来ないのである」
逃げ出す保証って・・・
間違ってないけどさ、逃げるけどさ、何か最低な奴みたいじゃないかい?
「それは大問題だねー!モフモフ出来なくなるのは困るー!」
・・・まぁ。
・・・理由はどうあれ、分かってくれたみたいだね。
「うーん・・・ならさー、見本になる物を1つだけ作って貰うのはどうー?」
「見本であるか・・・」
いゃん!
3人共そんなに見つめないでよ、照れちゃうでしょ。
つかさ、見本を創るのは良いけどさ。
私・・・字が分かりません!
何でか知らないけど、読むと喋るは出来るんだけど。
書けません。
こっち字ってさ、ギリシャ文字?
オメガとかシータとかってギリシャ文字でいいんだよね?
そんな感じのに梵字のテイストを加えた感じなのが多くて、漢数字とアラビア数字みたいのが時折入ったりしてて普通なら絶対に読めないし、基本文字がいくつ有るのかも分からないんだよね。
・・・ホント何で読めるんだろう。
それも込みで話してみようかな。
「斯く斯く然々なんだよね」
「・・・恐らくではあるが、『熟練者』が関係しておるはずである」
なるほど!
『熟練者』か、何か納得いくなぁ。
「使用されている基本的な文字は我輩が書くのである」
「分かった、でも・・・私が作ったのをそのまんま使用してるのが分かったら破壊しに行くからね?」
「えー!壊しちゃうのー」
「うん、オリジナルを作れないなら行き過ぎた技術って事でしょ?そんなのは有ったらダメだと思うもん」
「そうかもしれないな、『過ぎた力は身を滅ぼす』って言うしな」
「ならば見本は我輩が保管するのである、そして複製法も我輩が見出し広める事にするのである」
正直、そこはどうだって良いんだよね。
見本からオリジナルを作れさえすれば私は文句もないし、破壊するなんて事もしないもの。
オリジナルを作るのに見本を利用したって良いし。
兎に角、見本をずっと使用しなければ良いんだよ。
「ノスフラト君、見本を1回使用すれば複製は出来るよ。もし、複製の仕方が思い付かなかったらスカージュちゃんに相談すると良いよ。スカージュちゃんは経験値が低いから思い付かないかも知れないけど、師匠の爺様なら間違い無く分かるから。偉そうかも知れないけど、私はこれ以上は口出しはしないからね」
「それで構わないのである、そこまで言って貰ったのならば答を貰ったのと同じである、これで出来なければ過ぎた技術と言う事なのである」
広まるか廃るか一か八かだね。
ここはノスフラト君のお手並み拝見ってところだね。
2章下準備はこれにて完です。
次話から3章千客万来となります。




