なるようになるさ!〔前編〕
「あら、スカージュとシュヴァツではありませんか」
「学園長、久し振りっす」
「ご無沙汰してます」
「今日はどうしました?で、その子達は何でしょうか?」
「こいつ等は『断崖荘』のエレベーター施設に鍵を壊して侵入したっす」
「エレベーター施設?あんな所まで行ったのですか?・・・なんででしょう?」
「それはこいつ等に聞いて欲しいっす。あたしはアイシャさんに言われて連行して来ただけっすから」
「・・・分かりましたわ。ところでシズネは戻ったのでしょうか?」
「まだっす」
「そう・・・早く帰って来て欲しいわね、あの子が居ないと遊びに行っても詰まらないのです」
「オレもシズネさんが居ないと楽しさは半減してる気がします」
「シュヴァツもなんだ。あたしもなんだよね」
「形は小さいのに存在感は魔王以上ありますからね。居ないと言うだけで物足りなさを感じてしまうんでしょうね」
「見渡せる距離ならどの辺りに居るか分かる人ですしね」
「戻ったら連絡を頂きたいわ。近いのですし何をしていても直ぐに行きますので」
「分かりました。戻ったらオレが伝えに来ます」
時折名前の出て来るシズネって人はいったい・・・
魔王達が認める様な実力者だと思うんだけど・・・今は居ないのか?
もし、あの時にその人が来ていたら俺達はどうなっていたんだ?
「さて、あなた達・・・なんであんな所まで行ったのでしょう?あの辺りは危険だから近寄らない様に通達してあったはずです」
「樹海を見に行こうって話になって・・・」
「それで、学園から真っ直ぐ人間界に向かったら、それがあったんです」
「・・・はぁ、入口に入るなって書いて有りませんでしたか?あなた達がやった事は空き巣ですからね。しかし・・・よく生きてましたね」
「「「「えっ!」」」」
「シズネの居ない今、あそこの番人はティファ1人だけですからね。あの子はシズネとシズネの物を守る為なら何でもしますから」
ただ単に運が良かっただけ・・・だったのか。
「さて、あなた達の処遇ですが・・・普通に考えると退学です、空き巣は刑罰が課される犯罪ですからね。しかし、番人が罰を下したとみなし減刑いたします。今日より卒業まで庭園の掃除を学園が課す罰とします。分かりましたか」
「「「「はい」」」」
「では、退室して宜しい」
他の皆は素直に退室して行ったけど、俺は聞きたい事が有ったから学園長に聞いた。
「学園長、シズネって人はいったい・・・
「シズネ?・・・忘れなさい、あなたが魔王にでもならない限り関わる事は無いでしょうから」
「1つだけ、そんな凄い人が何故無名なんでしょうか?」
どうしても知りたかった、魔王達が、種族の長が認めるだけの力を持っているのに無名なのが理解出来なかった。
「あの子はね全てにおいて規格外なのですよ、魔族の常識の外に居るのです。強さとか人の上に立つとか力に興味が無い子なのです。それだけじゃなく、シズネは自分が強いとは思っていない自分は弱い存在だと思っているわね。その気になればラグナーグと同じ事が出来る危険性を孕んだ子なのにね」
「ラグナーグ・・・ですか。そんな危険性の有る人を放置しといて良いのでしょうか?」
「抹殺しろとでも言うのかしら?無理ですわね、アイシャもヴラドも子供扱いされた様な存在を抹殺なんて事は不可能ですね。それに、シズネを知れば抹殺なんて事を考えたりはしないわね、楽しくて可愛い子なのですよ」
「・・・分かりました、教えて頂き有り難う御座います」
興味が無い・・・
それだけで力を誇示する気が起きないのだろうか?
誇示しなくても広まったりするものじゃないのか?
・・・きっと他に何かあるはず。
・・・知りたい、それが何なのかを知りたい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
教師生活25年、こんな日が訪れようとは夢にも思わなかった、クゥー
って!
私は教師でもないし、25年も生きてない。
ついでに、今日この日が来るのは確定事項だったんですぅ!
まぁ・・・予定より1ヶ月以上遅れちゃったけど・・・反省!
ウッキーッ!
脳内のバカーッ!
何が『反省だけならサルでも出来る』よっ!
あんただって知ってるでしょ。
入居希望者が続々と来て部屋を造らなきゃいけなかったし、人が増えたから共用スペースも拡大新設しなきゃいけなかったのを。
そりゃね。
ホイホイ請け合った私が悪いんだけどさ、共用スペースはノスフラト君にも大いに関係有る場所だし。
『前も良かったのであるが、広くなり使い易くもなったのである』
って誉めてくれたもん。
それに、スカージュちゃんとの勝負には勝ちたいけど、そんな我が儘で完成を遅らせる訳には行かないって事は分かってたから、こっちを完成させたんだよ。
遅れに遅れたんだから決して偉くはないけど、完成にまで漕ぎ着けた事は間違いないんだからオッケーにしといて。
さってとー
完成した書庫の御披露目だぁ!
私以外の人も通れるサイズの出入り口をサクサクッと造ったらノスフラト君を呼んで来よう。
・・・
・・
・
「おぉぉっ!こ、これは・・・素晴らしいのであるっ!」
ふっふっふっ!
やったーっ!
ノスフラト君が感動してる。
遅れに遅れたけど、丹精込めて丁寧仕上げたもん。
時間を掛けただけの物には仕上がってると思ってるんだよ。
高さ2.5メートルで6段の棚で長さ5メートルを20列。
両サイドの壁には平均より大きなサイズの本をしまえる棚。
灯りとして暗光石を結構な数を使用して影が出来ないようにしてある。
そして・・・
棚自体は全てに緩衝材として厚さ1センチの木材の表面を【整形】を使ってツルツルしたのを敷き詰めて有る。
そして、こだわりの加工!
奥下がりの棚に全てを仕上げてあるのだ!
今の私に出来る最上級の物に仕上がってるのだぁ!
前世で若干14歳の酸いも甘いも全く知らない、お子ちゃまが造った物だから高が知れてるけどねー
それでも1列1列歪みや曲がりがないか全部チェックしたし、大きな問題は無いと思う・・・たぶん。
おっ!
試しに置くのかな?
何冊か取り出したぞ。
どう?・・・どうなの?合格?不合格?
ふむふむ言ってないで早く教えてよぉ。
ドキドキし過ぎて心臓が爆発しそうなんだからさ。
「むっ!これはっ!?」
ビ、ビビ、ビックリさせないでよ!
今度は心臓が止まるかと思ったよ!
はぁぁぁぁぁあ・・・
マジで心臓に悪い。
「うぉっ!!何ですかこれはっ!!」
ゴッチィーン!
うう、痛い・・・
「シズネさん・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・じゃない!すっごい痛い。急に後ろで大声で叫ばないでよね、ビックリしちゃったじゃない」
ホント、驚き過ぎて飛び上がっちゃったもの、しかも全力で。
ガッツリ天井に頭突きをしてやりましたとも。
大方の予想通り勝てませんでしたとも。
視界がフラッシュ状態になって星が何個も出現消滅しましたとも。
こんなに痛いのは初めてかも知れない・・・
きっとタンコブ出来てるよねー
「ご、ごめんなさい。でも、これ見たら誰だって驚くと思います」
「そう?学校にこういうの有ったでしょ?」
「学校にですか?」
「配置の仕方は違うはずだけど有るはずだよ」
「シズネ殿、学校には無いのである。学園長が個人的に使用している部屋には同様の物は有るが、規模はここの半分以下である」
学校に図書室は無いんだ・・・
静かで人があんまり来ないから独りになりたい時は打って付けの場所なのになぁ。
「シュヴァツー・・・」
スカージュちゃん?
「あれ?・・・こんな所に部屋って有ったっけかな?・・・あっ!シュヴァツ、ノスフラトさん・・・って、なんだこりゃ!」
あれ?・・・私は?
私には気が付かなかったの?
・・・な、泣かないもん!私は強い子だもん!
「あっ!シズネさんっ!」
き、気が付いてくれたぁ♪
何で・・・何で気が付いてもらうだけで嬉しいんだろ?
・・・わからぬ。
「ここもシズネさんが造ったんですか?」
「そだよー♪」
「で・・・ここは何する所なんですか?」
「ここはねー・・・っ!・・・クックックッ」
「な、何ですか?いつにも増して不気味な笑い方をして」




