仕上げに向けて〔後編〕
違和感が気になって仕方ない。
何とかしてノスフラト君に感じる違和感の理由を解明したいんだけど。
尋問するみたいにはしたくないなぁ。
さて、どうするかなぁ。
「凄いと言うであるが、さほどの事でも無いのである。永きに渡り見てきた物を我輩の手で作っただけなのである。本当に凄いのはオリジナルを造った者達なのである」
ん?・・・んー
もしかしたら・・・
「それじゃノスフラト君はオリジナルに近い状態で作ったって事なのかな?」
「うむ、細部に至るまで記憶に有るのである。それを再現したのである」
あぁ、なる程なぁ。
違和感はそれかぁ。
ノスフラト君は間違ってないんだけど、可能性の幅を限定しちゃってるんだね。
まぁ、ノスフラト君は夢想家じゃないと思うから当然の結果なんだろうけど、可能性を広げる方の試作品も作れないかな?
例えば・・・
「ノスフラト君ちょっと耳を拝借出来るかい?」
「我輩の耳は取り外しは出来んのである」
ぐあっ!
何て古典的なっ!
間違い無くワザと言ってるよ。
相変わらずフードの中は見えないんだけど、雰囲気と口調で分かるんだよ。
「ノスフラト君・・・私が切り取ろうか?なんてね♪ちょっと耳打ちさせてね」
「うーむ・・・シズネ殿の冗談は時折恐怖を感じるのである」
失敬なっ!
そのボケに入れる新しいツッコミなんぞ私には浮かばないから、仕方なく猟奇的になっちゃうんだもん。
決して根が猟奇的な訳じゃないよ。
・・・たぶん。
それはさて置き、本題を耳打ちしないと。
・・・ん?うん、他には誰も居ないよ。
だけど壁にアリババ障子にメアリーって言うじゃない?
・・・わ、わざとだもん!
わざと言ったんだもん!
ちゃんと知ってるもん!
確か、壁に・・・ミニ蟻!、障子に・・・麺有り!、どうよ!
・・・え?違う?
・・・ま、まぁ、そんなニュアンスって事にしといてよ。
では早速。
「ごにょごにょごにゅごにょ」
「それは無理なのである、実物を見た事が無いのである」
ラッキー!
それが聞きたかったんだよ。
「見た事が無くてもさ、どんな感じかは聞いた事はないの?」
「人伝になら有るのである」
「それでオッケーじゃない?分からない所はノスフラト君が格好良いとか美しいって思うふうに勝手に作っちゃって良いよ」
「ふむ・・・成る程、確かに言っておったのである。実在する物を忠実に再現するだけではなく、想像した物を形にするのも有りであると」
「うん。でもね、これは本人が否定したら上手く出来ていても廃棄しないとダメってのは有るけどね」
「それは当然である。しかし、気に入られる様に作るのも腕の見せ所であるな」
おっ?
ノスフラト君・・・ちょっと燃えてる?
普段、我関せずな所が多いから、やる気が前面に来ると直ぐに分かるなぁ。
恐らく、こうなったノスフラト君は最高の仕事をしてくれるんじゃないかと思うよ。
「ノスフラト君・・・必要な物は有るかい?」
「ふむ・・・とりあえずは毛皮が欲しいのである」
「あっ!ちょっと待った!そこは本物は使わないで欲しいの。なるべくなら、石なら石だけで、木なら木だけで作って欲しいの。色んな素材を使い出したら敷居が高くなって興味を持つ人が限られてきちゃうからさ」
「単一素材で作るのであるか・・・成る程、そこも腕の見せ所なのであるな!・・・面白いのである、やる価値は存分にあるのである!」
おぉっ!
更に火が点いた、こんなノスフラト君は初めて見たよ。
こんな熱い所も有るんだね。
つか、えっ?なにっ?
な、なななななななんじゃこりゃっ!
「ノノノノノスフラト君!なななななな何か出て来てるよ?」
「これはイカン!」
おっ!おっ!おぉっ!
ノスフラト君の服の隙間から出て来てたクリーム色したモヤモヤしたのが引っ込んだ。
あれはいったい・・・
「申し訳ないのである。我輩、集中・やる気が一定を超えると魔力が漏れ出てしまうのである」
あれって魔力なんだっ!
イメージと違ったなぁ。
もっとおどろおどろしい色をしててネトッとしてるイメージだったんだけどね。
実物は全然違ったよ。
「いきなり出て来てビックリしたけど、綺麗な色をしてたよ。魂かと思っちゃったよ」
「魂が漏れ出るのであるならば只事では無いのである、命に関わるのである」
だよね。
相当ヤバい状態だね。
それにしても魔力が漏れ出るのって普通なんかな?
他に原因有ったりするのかな?
うーん・・・分からん。
分からん時は。
「ねぇ、魔力が高いと普通に漏れ出るの?それとも他に原因みたいのが有るの?」
「普通は漏れたりしないのである。我輩の場合は種族であるな、人魔鬼族夜叉が我輩の種なのであるが、戦闘を有利に運ぶ為に己の魔力で場を満たすのが目的なのである」
「貴族?」
「恐らくシズネ殿は勘違いしてるのである。鬼の一族を略して鬼族なのである」
なんですとーっ!
鬼は居たよっ!
クッソー、もっと早く知ってれば、さっきスカージュちゃんに。
『鬼なら居るよ♪』
って言えたのに・・・残念っ!
あっ!
でも・・・後で鬼が居るのを伝えて・・・おこ・・・伝えても良いのかな?
「ノスフラト君がフードをして中を見えなくしてるのって、鬼ってバレたくないからなの?」
「違うのである、ノスフラトとバレたくないからである。シズネ殿と同じでメンドクサイのは御免被りたいのである」
「うんうん!メンドクサイのはイヤだよね!だったらスカージュちゃんに『鬼は居たよ』って言っても良いかな?」
「構わんであるが、なぜである?」
はっ!
このシチュエーションはもしや・・・
あれが使える?
やってみよう!
「実はね斯く斯く然々で」
「ほう!」
やった!
通じた!
なんか嬉しいぞ。
にしても・・・今ニヤリとしてるよね?ノスフラト君。
絶対に悪人面でニヤリとしてるよね?
いいなぁ、私もそれしたいんだよなぁ。
「シズネ殿、スカージュ殿に宜しく言っておいて欲しいのである。くっくっくっ」
その去り際の台詞、何か魔王っぽいよ。
ノスフラト君の魔王っぽいの初めて見たー
イメージにある魔王みたいで、ある意味格好良いよ。
私もそんなのをしたいー!
ノスフラト君みたいにニヤリと笑って悪巧み成分を含んだ台詞が言いたいー!
って・・・あれ?
私は魔王のノスフラト君と同じ事がしたいって事はだよ。
私は魔王になりたいって事なのかな?
・・・
・・
・
いやいやいやいやいや!
無い無い無い無い無い!
大体だよ、ただの獣のハムスターがどの魔王位に就くってのよ?
一番可能性が有るのは獣魔王だけども・・・ハムスターが魔王ってのは認めてもらえないでしょう。
威厳も貫禄も全く無いし、サイズが小さ過ぎて居るか居ないか分かんないじゃない。
そして何より、私が魔王なんぞになりたくない。
メンドクサそうだ。
だってさぁ。
一番トップでしょ?
何かと決断を迫られたり、目を通す書類とかたくさん有りそうじゃない。
毎日それだけやって終わっちゃいそうでイヤだなぁ。
やっぱり私は、ここでやりたい事をやって、皆もやりたい事が出来て笑って暮らせるならそれで良いんだよ。
身の丈に合わない大それた願望ないんだよ。
もしかしたら、ハムスターの身には笑って暮らせるって事が大それた事なのかも知れない位だもん。
ガタッ、ガララララララ。
今度は誰だろ?
スカージュちゃんだぁ。
鼻歌混じりで上機嫌だねー
おんや?
ミランダさんならまだ帰ってないよ。
「ミランダさーん、シズネさーん、お昼っすよー♪」
えっ?
もうそんな時間なの?
こりゃ・・・ミランダさんは夕方近くまで帰って来ないかもなぁ。
「あれ?・・・居ないっすか?ミランダさーん、シズネさーん!」
「はーい」
「むっ?後ろから?」
うむ、後ろからなのだ。
だって私は玄関横から動いてないもん。
「シズネさん・・・ずっと帰って来るのを待ってるんですか?」
「そうだけど」
「捜しに行く方が早くないですか?」
「・・・迷子になる自信がある!」
「いや・・・そんな事を威張られても・・・」
あはははは。
困っちゃうよねー
でも、有るものは有るんだから仕方ないのだよ。
「もう、お昼なんだねー・・・ご飯にしよっか♪」
「っす♪」
「あっ!そうそう、爺様の所に行く前にさ『ここは鬼か悪魔の巣窟か』って言ってたじゃない」
「はい」
「鬼・・・居たよ」
「!!!!!っす?」
「ノスフラト君、鬼族の夜叉だってさ♪宜しく言っておいて欲しいって頼まれたよ♪」
「・・・あたし・・・逃げようかな?」
「あはははははは。私との勝負に勝つんでしょ?だったら逃げる必要は無いって」
「そう・・・ですよねっ!あたしが頑張れば良いんですよね!」
「うん、そうだなぁ・・・湯沸かし施設に着手できるようになるのは、どんなに早くても1ヶ月後位かな」
「それじゃあ後1ヶ月があたしの頑張りどころですね」
「うん、負ける気は無いけど、頑張れぇ♪」
「はいっ!でも・・・負けてくれるとあたしは嬉しいなぁ」
「あはははははは、それはしない!・・・・・
等々とワイワイガヤガヤ昼食を食べて、その後は書庫造りに精を出したのだぁ。
ミランダさん?
今日は帰って来るのは遅いって判断したから待たなかったよ。
実際、陽が沈んでから帰って来たしね。
なんじゃこりゃっ?
って位のキノコを持って帰って来たよ。
ついさっきまで、食用と薬の材料に仕分けをしてたんだよ。
今は、お茶を飲みながら作業場をどんな感じにしたいかを聞いてるところなんだ。
今日は話を聞いたら寝よう。
まだまだやる事がいっぱいあるし明日からも頑張っちゃうよ。




