カンカンって音が聞こえる・・・〔後編〕
音を立ててるのが幽霊じゃない確率が高いってアイシャさんに聞いて、音の発生源が何なのか探りに来ているんだけど・・・
ふと思ったの。
実は私って今、幽霊とかスカージュちゃんの素顔とか悪乗りしたミランダさんなんかよりもずっと怖い事をしてるんじゃないかな?って。
だってだよ。
私が今【穿つ】で作ってる穴の上には10キロ位の長さで岩が有る訳じゃない。
想像もつかない重さの下で穴を掘ってるって事なんだよね。
・・・もし崩れて来たらって考えたら。
私は死んじゃうよね?
いくら生命力が桁外れだって死んじゃうよね?
・・・ガタブルしてきたよ!
く、崩れてきたらペシャンコ・・・
うきゃーペシャンコーっ!
って・・・あれ?
ペシャンコだったら一瞬で死ねるか、死んだ事すら自覚出来ない位に?
しかもだ、『拒絶の壁』は清浄作用が有るって言ってたから化けて出る事もなく成仏出来るだろうし。
・・・一瞬・・・一瞬で死んじゃうならいっか。
おっ、音のする方向が微妙に変わってきたな。
少しずつ右にずれてきてる。
位置が確定できそうになってるって事は、目的地は近いって事だね。
【穿つ】は音を立てないけど慎重にやらないとね。
しっかしこの【穿つ】
穴掘りするには便利過ぎる。
使うのが体力を消費するだけで一切筋力は使わないんだよ。
穿ちたい方を見てスキルを使うって思うだけで穴が空くんだもん。
これはホント楽、楽・・・なんだけど、物足りなさも有るんだよね。
今までえっちらおっちら掘って、掘ってでた土とか石とかを集めて外に出してってやってたでしょ。
そゆのが一切無いから、今でのやって来た事が無駄な事だった気がしちゃうんだよ、掘ったって感じもしないの。
【穿つ】が使える様になって分かった掘る楽しさとか醍醐味なのかもね。
だからね、急いで掘らなきゃいけない時以外は【穿つ】は使わない様にしようと思うの。
もちろん熟練度を上げるために使うのは止めないけど、空に向かって空撃ちするよ。
むっ!
音がちょっとだけ後ろの方から聞こえる様になった。
少し戻ってそっちに・・・ちょっとドキドキしてきたぁ。
だってさ、くじ引きみたいなもんでしょ?
こっちでアタリかなー?ハズレかなー?ってドキドキするのと変わらないと思うよ。
これは、そこに有る物次第で下手したら命に関わるから危険度はあるけど・・・
んー・・・ちょっと上から聞こえるなぁ。
アイシャさん鍛冶の可能性も有るかも、なんて言ってたしな。
通じたら火の中でしたは嫌だから、少し下から聞こえる位置まで上がっておいた方が良いかな。
お、お、お、お。
近い近いぞ、ハッキリ音が聞こえる!
カンってよりキンの方が正確かな?
うん、壁から振動がそんなに伝わって来ないから採掘してる訳じゃ無さそうだな。
ハッキリ聞こえる様になって分かったけど、音に少しバラつきがあるから機械的な感じもしない。
じゃあやっぱり鍛冶?
そうだ!【振動感知】を全開にしたら空間が有るのか分かるかな?
空間内で反響してるはずだから、そこだけ振動が大きくなってるはずだよね?
ダメだったとしても損はしないし、やってみよう!
ぐおぉっ!
このキンって音・・・身体に刺さる感じがしてイヤだ!
でも全開にして正解だった!
『断崖荘』の台所 位の空間が在るのが分かったよ。
このまま真っ直ぐ掘り進めば空間の上の方と繋がりそうだ。
ドキドキドキドキドキドキドキドキ。
次の一発で繋がる・・・うぅ、緊張するぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よっし!女は度胸!やったるでっ!
【穿つ】!
むおぉっ!
あ、あ、熱い!
繋がったらもの凄い熱気が入って来た。
いったい何が有るんだろ?
あっ!・・・すっげー!
剣・斧・槍・細長い板?円盤?片方が膨らんだ棒?歯車?三角の板みたいのも有るなぁ。
色んな物がいっぱい置いてあるぞ。
・・・キン
・・・キン
・・・熱い訳だ穴の真下は炉みたいだよ。
炉の前で爺様が金鎚で赤くなった鉄を打ってるよ。
アイシャさんの予想が当たったね、鍛冶屋さんだ。
にしても、爺様は熱くないのかな?
それに、何でこんな所に居るんだろ?
出入口も見あたらないし。
閉じ込められてるの?
転移魔法とか使えたりして、だったらすごいなぁ。
あっ!
水で冷やした。
一段落したのかな?
話し掛けても大丈夫かな?
とりあえず、石ころ投げてみようかな。
・・・コン!
げっ!
爺様の頭に直撃しちゃったよ。
あっ!
こっち見た、な、なんか言わないと・・・
「ごめんなさいっ!当てるつもりは無かったの」
「・・・・・・」
睨んでるよぉ。
当てたのは悪かったけど、怖いよぉ。
「あ、あの、私は高坂靜音って言います。カンカン音がしたから、どこでしてて何の音だか確かめに来たんです」
「・・・・・・」
うぅ・・・何も喋ってくれない。
無言で睨まないで欲しいよぉ、凄く怖い。
「あの、あの、私、私・・・
「儂はスナフキン、宵時のスナフキンじゃ。この部屋を見て分かる通り鍛冶師じゃ」
スナフキン?
カバにそっくりな妖精トロールの友達の?
あ、でも鍛冶師か。
ならあっちだ、1人の作家が書いた最長編小説ってんでギネスに載った方のスナフキンだ。
あのスナフキンは黄昏の国の鍛冶屋だったはず。
「あの、石をぶつけちゃってホントにごめんなさい」
「気にするでない、全く痛くなかったでの」
「でも、でも・・・顔が怒ってるし」
「む?・・・ガハハハハ、すまんのう、元から厳つい顔なんじゃ」
「えっ?あっ・・・失礼な言っちゃってごめんなさい」
「・・・嬢ちゃんは良く謝るのぉ。まぁよい、嬢ちゃんはこの壁に穴を空けれるみたいじゃのぉ。しかも音をたてずに」
えっ?
もしかして・・・
「スナフキンの爺様は、もしかして私の使ってるスキルが分かるの?」
「爺様?・・・確かに爺様だな!ガハハハハ」
あれ?
自覚してなかったの?
「嬢ちゃんの使ってるスキルはラグナーグと同じで【穿つ】じゃろ」
「ラグナーグ?」
私と同じ【穿つ】を使う?
それって。
「ラグナーグを知らんのか?魔族を統一した野郎じゃ」
やっぱり。
初代の使い手はラグナーグって言うんだ。
知った所でどうなる訳でもないけど知らないよりは良いかな。
「ここも野郎が造ったのじゃ」
「えっ?この部屋を?」
「うむ!昔過ぎていつだったかは忘れてしまったが、ここはまだ無名だったラグナーグに造ってもらったのじゃ」
もらったのじゃって・・・おい爺様っ!
当人に直接造ってもらったって事か。
爺様っ!あんたいくつなんだ?
ラグナーグって人が居たのは相当昔なんでしょ?
爺様・・・軽く1000や2000は生きてるって事なのかな?
・・・やっぱり異世界はパネェッ!
「嬢ちゃんどうした?発条でも切れたか?」
「ゼンマイって、私は玩具じゃないぞっ!ただ、爺様っていくつなんだろう?って疑問に思ってただけだよ」
「ワシか?ワシは71歳じゃ」
「ウソ吐けーっ!ラグナーグって人が居たのは相当昔の人でしょ?71歳な訳がないっ!」
「宵時の住人じゃからな、時間が経過するのは宵時のみなんじゃ。そうさのぉどの世界でも1日5分、長くても15分じゃの」
「ふぇ?・・・どの世界でも5分から15分?・・・どの世界でも?」
あっ・・・爺様、しまったって顔してるっぽい?
厳つい顔って表情が読み難いなぁ。
「嬢ちゃん、気が付いたのか?」
「なにをかな?」
「宵時の秘密をじゃ」
「まぁ、ね。1つだけ知りたい事はあるけど、それ以外は興味無いから誰にも言わないよ」
ここは『誰にも言わないでくれ』って流れだよね。
まぁ、見返りは要求してみようかな。
「言わないでもらえるのは有り難いが・・・嬢ちゃんの雰囲気、悪人のものになっとらんか?」
「失敬なっ!言わない代わりに頼み事でもしてみようかなって思っただけだよ!でもその前に、私ちょっと戻るね、危険があるかもってんで待たせてる人が居るから大丈夫なのを知らせてくるね」
「分かったのじゃ・・・なかなかに強かな嬢ちゃんの様じゃの」ボソッ




