街だーっ!〔後編〕
「金を融通して欲しい!」
・・・はい?
私に金の融通?
私は文無しですけど。
もしかしたら聞き間違えかも知れない。
「えっと・・・稲の融通?」
「稲じゃなくて金。つか稲って何だ?」
・・・聞き間違えじゃないのね。
何をどう考えて私が持ってると思ったのかは疑問だよ。
「アイシャさん、私もお金は持って無いよ、ミランダさんに頼むのが妥当だと思うよ」
つい最近、引っ越すんで在庫を売りさばきに行って潤ってるんだしさ。
「頼み難いなら私から頼んでくるから、待ってくれる?」
「ミランダは貸してくれると思う、だけどな・・・見返りに何を要求されるか容易に想像がつくから頼めないんだ」
うっ!・・・
私も想像できちゃった、碌でもない事を要求されそうだよ。
確かに頼み事を持ち掛ける相手じゃないなぁ。
「ならノスフラト君は? 」
「ノスフラトもさ、あたしと同じで財源の無くなった奴だろ。だから頼み難い」
確かにそうだね。
手持ちが無くなったら無一文の仲間入りな人だったね。
「その点シズネは無尽蔵な財源を持ってるから、融通してくれるんじゃないかな?って思ったんだ」
ん?・・・ん?
無尽蔵な財源?
ん?・・・ん?
そんなもの無いよ?
大道芸として披露するものすら無いよ?
うーん・・・
・・・
・・
・
頭から?マークが飛び出てるんじゃないかって位に考えてみたけど・・・やっぱり財源なんて無いよ。
「そんな悩むなよ。今も収納に入ってるだろ。売れる物が」
収納?
「・・・『拒絶の壁』の岩って売れるの?」
「あー・・・売れるかも知れないけど可能性は低いかな、加工出来る奴が殆ど居ないからな」
そうなのっ?
確かに固いけどさ根気よくやれば加工できると思うけどなぁ。
それにさ【物質操作】を使えば加工もかなり楽になるし。
「職人がシズネレベルでスキルを獲得してるなら加工も楽なんだろうけどな。【石工】スキルじゃ固すぎるらしいんだよ」
「私とは違うスキルだからかぁ」
他に売れる物なんて有ったかな?
土?・・・違うな。
塗料?ガラス?・・・高が知れてるよね。
後は・・・非常食・・・そっか!ミラクルナッツかっ!
確かに、まだ50個位持ってるや。
でも・・・
「ミラクルナッツが高価で売られてるって聞いたけど・・・こんなんが売れるの?」
「売れる。需要に対して供給が足りてない位だ」
足りてない?
球体を降りてからここに来るまでにだって何個か落ちてたけどな。
意外と彼方此方に有るんだなーって思ってたところなんだけども・・・
「んとさー色んな所に落ちてる物なのに足りてないの?」
「はいっ?・・・落ちてる?」
「うん、さすがに家が増えてきたら落ちてるの見かけなくなったけど、ここに着くまでの道に何個か落ちてたよ」
「・・・マジか・・・」
「だからね、売れるのかな?って思っちゃうんだよね」
もし売れるにしてもさ捨て値で売れる気がしちゃうんだよね。
異常気象とかで大量に実ったとかで安値になってる可能性があると思うんだよね。
手持ちの50個位を売っても・・・ねぇ。
「あっ!ほらっ!あそこに落ちてるよ」
「ど、どこだっ!?・・・どこっ?」
「ほら、ここ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこ?」
え?・・・これ・・・見えない?なんで?
ミラクルナッツは結構大きいんだけど・・・なんで?
謎だ。
持ち上げてみよっか。
「ほら、これ」
「あっ!・・・ホントだ・・・そうだ、それをもっかい置いてみてくれないか?」
ん?
あーなるほど、認識してから地面に置いても認識できるかどうか確かめようって訳だね。
よっしゃ!置いてみようじゃないか。
「・・・消えた」
「ふぇ?消えた?有るよ」
置いた辺りに手を伸ばしてきたぞいっと。
そうそうそこそこ。
それにしても何で消えるの?
【無限収納】から取り出したのは消えたりしないのに・・・なんで?
「有るな・・・何で消えたんだ」
うーん・・・もしかして、【頬袋】に入れると私の所持品って事になって見える様になるとか?
このミラクルナッツは所持品になってないから置いたら消えたとか。
何にしてもミラクルナッツが普通は視認出来ない物みたいだな。
だから希少なんだね。
・・・ん?あれ?
そうすっとだよ、何で私には見えるんだろう?
ハムスターがこの世界じゃ新種らしい事はミランダさんから聞いてるけど・・・まさかミラクルナッツを見つけられる珍種でもあったって事なのかな?
はっ!
これは・・・やばいかも?
だって・・・だってだよ。
コミュニケーションがとれる希少アイテムを探せる極小な生き物・・・
捕獲されてミラクルナッツ探しを強要されないか?
しかもだよ、ノルマとか有ってさ達成しないと飯抜きとかになったり・・・
普段は、お前の部屋だって牛乳パックの中に詰め込まれたり・・・
そ・・・そんなのイヤァー!
はっ!
アイシャさんは見る目が変わったりは・・・してないみたいだ、良かったー
「はい、これはアイシャさんにあげる。これ1個で足りなかったら私のストックを貸すって事でも良い?」
「いいのか!それでオッケーだ!あぁでも家具を一通り揃えるとなると足りないかも知れないな。その時は頼む」
「いいよーストックは結構あるからね」
あっそうだ!
へっへっへ・・・
いい事を思いついちゃったぁ。
「あのさーただであげてもいいよー1つ頼みを聞いてくれたらね♡」
「な、何だか怖いんだが・・・ミランダより怖く感じるのは何故だ?」
「あっはははははーそんな大した事は頼まないよ。アイシャさんにね料理をしてもらおうかと思ってねー」
たぶんやった事は無いだろうって予測が付くんだけどね。
断る理由ってのもね、やった事が無いから出来ないとかじゃないかなぁ。
「それは無理ってもんだろう?料理なんて自分で食う物をたまに作る位で他人に食わせるレベルじゃないぞ」
ちょっと意外だったよ。
料理自体は出来るんだ。
「自分で食べて美味しいって思うなら大丈夫だよ。で、どんなの作れるの?」
私はアイシャさんに肉・魚を焼くのをやってもらいたいんだよね。
私だとさ、1人分づつしか焼けないから最初に焼いたのが冷めちゃうんだよね、人数分を一気に焼ける人が居ると助かるんだよね。
「炙るだけで食べれる物だな」
「それで十分だよ、私がやってもらいたいのは肉とか魚を焼いてもらいたいんだもん」
「生からか?」
「そだよ」
「それは止めた方が良くないか?あたしに上手く出来る訳が無いって」
「上手く出来なくても良いならやるって事かな?」
「・・・いやっ!やっぱり無理だろう?無理無理無理」
まぁねぇ。
食べるのが自分以外にも居るってなるとプレッシャーになっちゃうよね。
「大丈夫だよ、私だってこの形で料理するのは初めてだし上手く出来ると思ってないもん。初めて同士、一緒に上手になってこうよ♪」
それにねぇ。
元々料理が得意な方じゃないし、1から味付けして作った事のある料理って野菜炒めと玉子焼位だしね。
だってさぁ。
インスタント・レトルト・なんちゃらの素とかを使った方が早いし間違いが無いでしょ?
「それにさ、私達って食べる方はプロじゃない。味見して美味しいって思ったのを出せば良いんだよ。きっとね」
「そう・・・なのか?」
「じゃないかな?自分が不味いって思う物を出したりはしないだろうしさ」
「そ、そんな程度で良いんならやってみようかな?」
「うん!私達は何百年も時間が有るんだから、ちょっとづつ上手くなってこう!」
「そうだよな、時間だけは呆れる位に有るからな。きっと上達するよな」
「うん♪ガンバロー♪」
やったー!
料理仲間ゲットーッ!
これで不安解消になるぞ、と。
ん?不安?
そりゃ有るよ、ハムスターに味覚が有るのは普段の食事で分かってるんだけど。
その味覚が人間とか魔族と同じかどうか分からないでしょ?
私が美味しいって思っても人間・魔族からしたら激不味かも知れないんだからさ。
だから、一緒に料理しながら味見をしてくれる人が居てくれると安心出きるんだよ。
その役目はミランダさんじゃダメだと思うんだ。
なんとなーく、私が作った物は例え不味くっても美味しいって誉めてくれる気がするの。
誉めてくれるのは嬉しいけど、そんな事じゃ上達しないでしょ?
だからミランダさんじゃダメなんだ。
その点アイシャさんは不味い物は不味いってハッキリ言うと思うから上達すると思うんだ。
さってと、まずはミラクルナッツの換金だね。
「んじゃアイシャさん、色々決まったし換金に行こうか!」
「だなっ!行こう」




