街に向かってレッツゴー〔後編〕
ドキドキです!
妖魔王の飛行ユニットに乗り込んだんです。
後は飛ぶのを待つだけなんだけど。
ドキドキです!
だってだって。
こんな黒い球体が飛ぶなんてSFかファンタジーのどっちかじゃない。
それを体感するんだよ。
ドキドキしちゃうもんでしょ?
球体の中?
中はね、直径3メートル位の広さでソファーが壁沿い7割位にグルリと設置して有って、前で良いのかな?ソファーの設置されて無い所に四角い水晶みたいのが設置されてる台が椅子とセットで有るよ。
今日は『断崖荘』に居る人数分を考えて普段とは違う内装になってるんだって。
普段は妖魔王しか乗らないから豪華なソファーが1つ設置されてるだけらしいの。
さすがは魔王って感じだよね。
これを起動すると外が見れるようになるって言ってたの。
私がソファーに座っちゃうと見えない気がするんだよね、だって人間サイズのソファーだもん。
だからね、座る所はミランダさんの肩にしたんだ。
ミランダさんは大喜びしてましたとも。えぇ、しましたとも。
「あぅー」
しか言えなくなる位だったからね。
だから乗ってる間は纏わり付く事にしたの。
一応一言断ってからね。
「ミランダさん、再生薬は持ってる?」
「へっ?も、持ってるけどー・・・」
「うん、あとさ頭に穴が空いても生きて居れるかな?」
「ふぇ?さー、さぁどうだろー?」
「試してみる?」
「や・・・止めとこうかなー。死んじゃう自信あるしー」
「そっかぁ」
なんてやりとりをしたんだ。
喉元過ぎれば熱さ忘れるって言うからね、釘を・・・いや、竹槍を刺しといたの。
ミランダさんって糠っぽいから釘じゃ長さが足りそうにないもん。
でね、狭い空間だからアイシャさんとノスフラト君にもバッチリ聞こえてた訳なのよ。
ノスフラト君は笑いを堪えてたよ。
笑って良かったんなら、爆笑してたかもな。
アイシャさんはサムズアップしてウィンクしてたよ。
私グッジョブだったんだねー
竹槍も刺して安全にミランダさんに纏わり付ける様になったから出発しようじゃないかぁ。
「では、発進しやす」
妖魔王の使い魔が椅子に座って、水晶に何かしながらそう言ったの。
操縦してるんだよね?
あの水晶が浮遊石なのかな?
それとも、操作をする為の何かなのかな?
謎だ!
って、お、おぉー!
こりゃスゴい!
モビルスーツのコックピットみたいだっ!
だってだって。
ソファー以外が透けちゃって空中に浮いてる感じがハンパないんだよ!
私がちゃんと観たのは『逆襲の赤い大佐』だけだから他のは知らないよ?
『逆襲の赤い大佐』はそんな感じだったもん。
これには私は大はしゃぎだよ!
だってあのノスフラト君が感嘆の声を出した位なんだからね。
「すいやせん。これスピードはあんまり出ないので勘弁して下さい」
「出ないのー?街までどれ位の時間が掛かるのかしらー?」
「2時間位でやすね」
「結構早いじゃないか。問題ないな」
早いか遅いかは分かんないけど、2時間で着いちゃうんだね。
じゃあさ。
早い飛行ユニットだともっと早く着くって事だよね?
「早いのだとどれ位で到着するの?」
「1時間位でやす。シズネ様」
「・・・小突いていい?」
「な、なんででやすか?」
「様付けで呼んだから」
「いや、あの、その・・・おいらは自分より強い人には様付けで呼ぶ癖が有るんでやす」
「あんた、それ止めた方が良いよ。強かろうが弱かろうが仕事以外は上下を作らない方が良いよ」
立場が逆転した時が大変だってお父さんが言ってたの。
「・・・気を付けてみるでやす」
分かったのかどうかは知らないけど、頑張ってねー
にしても・・・
すっごーい!
たかーい!
ミランダさんの家がスゴくちっちゃーい!
でもまだまだ頂上は見えないのかぁ。
ん?あれは何だろう?
「ミランダさんミランダさん!あれは何?」
『拒絶の壁』と真逆の方に森の樹木なんかよりずっと背の高いドームみたいなのがあるの。
緑が殆どだから木なんだろうけど、モッサーとした感じなの。
「あれは『樹海』よー。あの向こう側に人間界の国々があるのよー」
「ほぇー木でいっぱいって感じだね」
「広さ自体はこっちの森の方がずっと広いんだけどー、抜けるには上り下りを何十回としないといけないから大変なのよねー」
「ダンジョンになってるんだ!スゴーい!」
「そうだねー。色んな生き物の骨がそこいらに転がってるからねー、物騒な所だよー」
・・・骨。
生き物って事は人間とか魔族の骨もって事だよね?
クワバラクワバラ・・・って、これは雷避けの呪いだったや。
でも間違っても私は行ったらいけない所だよ。
自他共に認める方向音痴ですから!
入ったら間違い無く迷います。
そして骨になります。
これは確定事項なのです。
確変はしません。
骨になる確率100%。
無事に出れる確率0%。
そうゆう事なのです。
「皆さん、頂上に着きやすぜ」
ホントだっ!
あとちょっとで頂上だっ!
何か感動だよ♪
「シズネさ・・・ん。今日は雲が無いので遠くまで見渡せやす」
ホントだ!
後ろのスッゴイ♪
『樹海』の向こうも少しだけ見えるよ。
緑色の濃さが違うだけだから勘違いかも知れないけど。
で、頂上はどうなってるんだろう?
・・・そうだ!
「頂上着いて見晴らし良くなったら教えてくれる?」
「オッケー」
地上から10キロ、エベレストよりも高い所だから大きい期待はしない方が良いんだろうけど。
植物なんか生えてない可能性の方がずっと高いと思うしさ。
でも異世界なんだし凄い景色が広がってる可能性だってあるでしょ?
その可能性に賭けて頂上に着くまで目を閉じて待つんだー♪
ワックワクのドッキドキ♪まだかなぁ♪まっだかなぁ♪
「シズネちゃんオッケーよ」
やっほぉーい♪
どんなだろう?
・・・
・・
・
スッゲー・・・
DQの世界みたいだよ。
野原がメインで所々に森が有って、池まであるよ。
あの形のスライスが闊歩してそうな雰囲気だよ。
あっ!ほらっ!
ずっと遠くにお城みたいのもあるよっ!
あれが街?なのかな。
「ねぇねぇ、ずっとあっちに在るのが街なの?」
「お前よくあんなちっこいのが見えるな。あれは街じゃないぞ、学校だ」
そいや、視力むっちゃ良いな。
ハムスターってド近眼だって聞いたんだけどな。
3秒で眠りに就ける、あやとりマスターの彼よりも悪いって話らしいんだけどなぁ。
・・・まっ悪いよりはいっか。
で・・・学校ですと?
こんな所に学校ですと?
・・・私も行けるのかな?
こないだアイシャさんが『学校にも入れない』って言ってたのは年齢の事だと思うし。
入れるのかな?
「その学校って私も入学できるのかな?」
「んー・・・難しい所かも知れないな。あそこは魔王に承認された奴だけが入れるの所だからなぁ」
エリート校って事か。
私とは無縁な単語だな・・・エリート。
「シズネはステータス・スキルは文句無しなんだけど、認識してる魔王がノスフラトだけだし、種としては獣魔になるだろうしなぁ」
えっ?
・・・文句無しってあんた、獣なハムスターの、あんな櫛状のステータスがですかい?
なんにしても可能性は低いって事かぁ。
ちょっと残念。
「シズネちゃんは学校行きたいの?」
「うん、行きたい」
「えぇーあんな所に行きたいのか?あたしには分からねぇ」
「だって学校行ったら友達が一気に増えるじゃん。まぁ、私も勉強は好きじゃないけど・・・」
「友達ねぇ・・・あそこはなぁ・・・鼻持ちならねぇ奴が多いんだよなぁ。シズネがキレまくる絵面が浮かんで来るのは何故なんだろうな」
キレまくり、魔王を凌駕する筋力で叩きのめし、舎弟にしまくって強大なグループを作り、最終決戦を勝つ?
そして私は学校の頂点に、ってか?
そんな古臭いストーリー要らんわ!
それに頂点なんてメンドクサイわっ!
「・・・普通の学校ってあるの?」
「在るよーこれから行く街にも在るけど・・・」
「あそこは別の意味で良くないな」
「別の意味?」
ヤンキーだらけとか?核戦争後の世紀末使用の人ばっかりとか?
・・・それもイヤだな。
「あそこはねー教える事が偏ってるのよ。それに、あそこだったらシズネちゃんは行く必要ないねー」
?・・・ほわぁーい?にゃじぇ?
「シズネちゃんはー、お金の稼ぎ方を教わる必要ないからねー」
お金の?
私の拙い洞穴型の家造りが商売になるの?
「異世界のアイデアを売りにするだけで商売になるのである」
アイデアが商品かぁ。
なんかすぐに底を尽きそうだけどな。
それに、商業校みたいな所も行くのはイヤかも。
職人学校だったら行ってみたいけどね。
木工とか鍛冶とかが出来たら、もっといろんな物が造れて楽しそうじゃない。
彫金も良いなぁ、宝石とかレアメタルなんかを使うんじゃなくて『拒絶の壁』を使った物を作れたら、邪魔な石の使い道が出来て良いよなぁ。
でも、街の学校は商業なんだ。
商売の仕方とか金儲けに興味無いからなぁ。
違った意味で行く意味がないな。
「ふぅ・・・私の学べる所は無いのね」
「あはははは、いざとなったらあそこに行け、あたしがゴリ押ししてやっからさ」
「・・・うん」
段々近付いて来る学校は凄く立派な建物がいっぱいあるよ。
敷地面積も広そうだなぁ。
エリート校じゃなかったら・・・駄々こねて土下座してお願いしてでも行ってみたい学校なんだけどなぁ・・・
ホント残念。
「シズネ・・・さん。街が見えてきやすよ」
「ホント!どこどこ?」
「前方でさぁ」
あれか!
壁から直ぐ近くに在るんだね。
思ってたよりずっと大きいかも知れない。
楽しみだぁ、早く着かないかなぁ♪
「魔物は魔族の種類と同じだけ居るっす」
「?・・・魔族が魔物?」
「違うっす。うんと・・・知力をつけて喋れるのが魔族っす、喋れないのは魔物っす」
「んじゃさ、ドラゴンの魔物も居るの?」
「居るっす」
「動物と同じって事は狂暴?」
「っすね」
「私、急用を思い出した!、ちょっと行って・・・
「シズネさんゲットー♪」
「何するかー!急に急な急用を急いでだね・・・
「『断崖荘』辺りには居ないっすよ」




