妖魔王のプライベートエリア〔後編〕
「対象って・・・今更ですか?今までだってからかわれていましたが」
「シュヴァツ君をからかった事はないよ?シュヴァツ君って真面目だから、からかったらマジギレしそうな感じだからからかわなったんだよ?」
キレた真面目程怖いものはない。
奴等は冗談が通じないせいか、手加減ってものもキレたら地平線の彼方へと配送してしまう・・・
もっと簡単に言っちゃうと、キレた真面目はメンドクサイんだよ。
シュヴァツ君もそっちの類だと思ってたから、スカージュちゃんをからかう時に巻き込むくらいしかしてなかったんだけど。
ここ最近のシュヴァツ君は冗談を言う事が増えたし、私がボソッと言う事を聞いて吹いたりしてるからね。
それに今日は、私がからかわれたよ。
しかも絶妙なタイミングでやられたから回避不能だったし。
ここまでお茶目さんならからかう対象にしても文句は言わせない!
キレたらキレただ、腕力で鎮静化しよう。
スキルを使わなければ怪我をしたりはしないだろうしね。
「夫婦揃ってっすか?・・・あたしは誰に助けを求めればいいっすか?」
本日3度目の目に涙溜めだ。
えぇー
そこでスカージュちゃんが反応するのは卑怯だよ。
私はオロオロするしかなくなっちゃうでしょ?
こ、ここは逃げるが勝ちかもしれない。
丁度良い事にユグスちゃんの戻りが遅い、お茶を煎れるだけにしては時間が掛かり過ぎているから様子見って事で・・・
「そういえばユグスちゃん遅いねー。ちょっと見てくるねー」
「あっ!逃げた!」
人聞きの悪い事を言う娘ですね。
逃げる訳じゃない、戦略的転進と言ってもらいたいな、くぁーはっはっはっ。
でもまぁ、実際は逃げてるんだけどね。
・・・
・・
・
うーん・・・
この扉をどうやって開けようかな?
いやね、案内された部屋から直ぐの所にある部屋に入ってみようと思ったんだけど。
ドアノブまで届かないんだよ、回す事ができないんだよ。
えっ?
案内された部屋からはどうやって出たんだって?
あの部屋はね押せば開く観音開きの扉だったから、無駄に筋力の高い私だから出入りは簡単だったんだよ。
でも、他の部屋はガチャッてロックする扉しかないみたいなんだ。
・・・どうしようかな。
せっかく探検に出たんだから1室くらいは見てみたいよね。
うーん・・・とりあえずジャンプしてドアノブに取り付いてみようかな。
無駄にある筋力のおかげで、呆れる位に高い所までジャンプが出来るのだよ。
ちょっと前に全力でジャンプしてみたら『拒絶の壁』の『断崖荘』の真上に設置してある目印の旗の矢印がハッキリ見える所まで到達したんだよ。
多分8キロ位は到達していたかも知れない・・・自分でも思うよ、野菜星人みたいだなって。
できちゃうもんは極秘事項にしちゃえば良いんだけど、降りて来るのが怖かったんだよ。
アイシャさんみたいに着地する自信なんて無いから、このまま自由落下して地面に穴を開けて着地して逝っちゃうとしか思えなくて、アタフタしちゃった時に数々の思い出がスライドショーしちゃったんだよ。
そのスライドショー。
それのおかげで地面とキスしないで済んだんだけどね。
ワー〇ーアニメの性悪猫タンが落下中に平泳ぎでロープに掴まろうとしているのがスライドショーに出て来て真似をしてみたんだよ。
『拒絶の壁』に触れさえすれば何とかなるからね。
でも、ハムスターは手足が短いからジタバタするだけさ、『くっ・・・足場さえ有れば・・・』なんてフラグが立ちそうな事言っちゃいました。
言ったけども【無限収納】に足場になる物がたくさん入ってるのを思い出したのだよ。
数あるガラクタ・・・とまでは行かないけど、断捨離したら間違い無く廃棄対象のレンガ4個分位の普通の石を取り出して上に乗って自由落下したの。
そして、そっから『拒絶の壁』に向かって瞬間移動だっ!
いやぁ、痛かったよ。
かなりテンパってたから距離とか正確に見定めてなかったから『拒絶の壁』にビタンと張り付く感じで全身強打でしたよ。
全身強打はしたけどさ、激突してすぐさま落下とかしないんだね。
ほんの数秒だけど、その場に張り付くんだね。
そんで重力に負けて、ズッ・・・ズズッって感じで徐々に落ちてくの。
その時は感心なんてしてらんなかったから即座に【穿つ】で穴を空けて安全地帯を確保したけどね。
そんなこんなで地面とキスはしないで済んだんだよ。
地面まではまだ数キロ有ったけど、『拒絶の壁』を斜めに穿って滑り降りてきたよ。
無茶苦茶長い滑り台は、かなり楽しかったな。
もう一度滑ってみたいけど・・・開始地点に行くまでが大変だからなぁ、考えちゃうよ。
ってな訳で、ドアノブまではジャンプすれば余裕綽々で届くのだよ。
ただ、問題が1つあって力加減が分からない・・・瞬間移動の時と同じで、ジャンプは練習中なんだよ。
でも、やるっきゃないね!
よし!
私の事だから結果の予想は容易に出来るけど、やってやるぅぅぅ!
「とうっ!」
ゴンッ!
ううっ・・・
予想通りだっ!
天井に頭突きを咬ましてやったぜ。
アハハハハハ・・・痛すぎて涙が・・・
「なにをやっているのですか?」
ゴンッ!
・・・い、痛い・・・いきなり声を掛けられてビックリして飛び上がって、また頭突き咬ましてた・・・連チャン頭突きは半端無く痛い。
「大丈夫ですか?」
連チャン頭突きした私は頭をさすって痛みを和らげてるんだけど、全然和らがない!
「大丈夫・・・って言いたいけど、痛いよ」
「許可もなく家捜しをしようとした罰だと思いなさい」
「ううっ・・・家捜ししようとしたのは謝る、ゴメンナサイ。でもね、ユグスちゃんが戻るのが遅かったから様子見に来たんだよ?」
「そうなのですか?心配かけた様ですね。これが焼きあがるのを待っていたので遅くなってしまいました」
「焼きあがる?・・・ふぉぉぉっ!すっごい良い匂いがする!それ、なにっ?」
「これは、蜜漬けにした鬼花の花弁を焼き菓子に刻んで混ぜて焼き上げた物です」
「これ、鬼花の香りなんだ!すっごい良い匂いだよ」
「気に入って頂けたなら幸いです。あぁ、そこは執務室ですよ、見ても楽しくは無いはずですよ」
執務室って事は学園長室?
確かに楽しくはないかも。
見るんなら書庫を見てみたいな。
ほら、参考にして『断崖荘』の書庫を改良できるかもしれないし。
「あのさ、ユグスちゃんの書庫が見てみたいな♪ノスフラト君が言ってたよ、ユグスちゃんの書庫も立派だって」
「妾のですか?貴女の造った物よりずっと規模は小さいですよ」
チッチッチッ。
規模は関係ないよ。
私が見たい知りたいのは別なんだよ。
「私の造ったのは規模は大きいのかも知れないけど、飾り気が無くて味気ないでしょう?そこを改良したいから参考にさせて欲しいんだ♪・・・それと、見せてくれたら耳寄りな極秘事項を教えてあげる」
「耳寄りな情報ですか?しかも極秘?いったい何でしょう?気になりますね・・・良いでしょう、隣の部屋が書庫です」
やっほぉい♪
ユグスちゃんの書庫が見れるー
どんな感じ何だろう?楽しみだよ♪
ガチャッ
「妾の書庫はこの様な物です」
おぉ!
ドアを開けたら目の前に本棚、これじゃなにも分かんないって。
「ユグスちゃん、頭に乗っても良い?」
「構いませんよ」
「ありがとう♪じゃ、はい」
「?・・・あぁ」
よじ登るんじゃなくてね、ユグスちゃんに乗っけてもらうの。
だってさ、よじ登ったらゴスロリ衣装に爪を立てる事になってダメに解れたり穴が空いたりしたら大変じゃない。
だから、乗っけてもらうの。
まぁ、水竜君が来た時はよじ登ったけどね。
「!!・・・シズネ、やっぱり妾の使い魔に・・・
「なりません!」
「良いじゃないのよ、こんなフワフワで温かい使い魔に側仕えしてもらいたいよ!」
「やだよっ!誰かに仕えるのって楽しくなさそうだもん!・・・それにだよ、ちょっと考えてみて」
「え?」
「目を閉じて、私が使い魔になってるところを想像して・・・ユグスちゃんが私に何かをする様に言いました。私は何て返事をしてる?」
「えっと・・・」
「私が言いそうな返事を3つ用意したよ。1つ目・・・ヤダ!」
「う!・・・」
「2つ目・・・メンドクサイ!」
「うっ!・・・」
「3つ目・・・自分でやんなよ!」
「・・・言いそうだ・・・」
「そう言われたユグスちゃんはどんな反応するかな?仕方ないって諦める?なんでよっ!って怒る?」
「・・・怒る・・・」
「そしたら、私も怒り返すねー、喧嘩になっちゃうね。そんで、喧嘩になっても、この建物は無事かな?」
「・・・ううう」
「この建物だけで済むかな?」
「分かった!諦める、諦めるよ」
あっはっはっ♪
私の勝ちだね。
でも、ちょっと可哀想かな。
「あのさうちに来たら、いつでも触って良いよ」
「ホント!?嘘吐いたらあたい怒るよ?」
「嘘なんて吐かないよ」
「それじゃ、ちょくちょく遊びに行くよ♪」
「うん♪いつでも来てね。それと、ユグスちゃんって小さくなれる?」
「小さく?」
「スカージュちゃんはね小さくなるといっつも抱き付いてくるんだよね」
「なっ!?・・・等身大のフワフワ・・・」
「感想はスカージュちゃんに聞いてみてね。それじゃ、中を見させてちょうだい♪」
なーんか少しジェラってる様な凹んでる様な微妙な表情のユグスちゃんは、何かの想像をしてるのかな?
少し虚ろ加減で私を手に乗せて歩き出したの。
ユグスちゃんは目の前の本棚を右に回避すると・・・視界が広がったんだけど、中は陽が差し込まない方向に窓があるせいか薄暗かったんだ。
でもね、その薄暗さが雰囲気を上げてるの。
部屋自体はそんなに広くはないんだけど、蔵書の数はかなりのものだよ。
入口から直ぐにある本棚は両面仕様だし、窓側の壁以外は全面本棚になってるの。
規模的には個人経営の本屋位かな。
でね、部屋の真ん中に丸テーブルと一脚の椅子が置いてあって、窓際に3人掛けのソファが1つ、窓の外は鬼花の園になっているの。
ここ、すっごく良い!
この部屋なら1日中読書をしていれそうだよ。
あっ!飲み物とお菓子付きでよろしく♪
「貴女の造った物と比べたらこじんまりとしてるでしょう」
「さっきも言ったけど、規模じゃないって。私はここ好きだよ、1日中居れるもん」
「そ、そうですか?」
「うん♪静かで落ち着いた雰囲気で文句無しだよ!」
「そこまで絶賛されると悪い気はしません。・・・そうそう、耳寄りな極秘事項とはなんでしょうか?」
「あっ、ゴメン、すっかり忘れてた。あのね、今ノスフラト君に本の一般化を頼んでるの、実用化したら本の大きさが小さくなるよ。値段も学生でも手が出せるくらいになるはずなの」
一昨日聞いたら、どの本を最初に刷るかの協議をしてるらしいの。
そんなのは、魔王の強権を発動して決めちゃえば良いと思うんだけど、そうも行かないらしいの。
理由は教えてくれなかったけど、ノスフラト君の事だから『なるほど!』って理由なんだと思うんだ。
「本の縮小と一般普及ですか?ホントに可能なのですか?以前お邪魔した時に言っていましたが信憑性に欠ける情報にしか思えなかったので流していたのですが」
「技法の伝授と道具の複製は上手くいってるから、後は試作品が出来上がるのを待つだけなんだよ」
「と言う事は、既に目処が立っているのですね。ならば楽しみに待ちましょう」
「うん♪楽しみだよね♪」
楽しみだけど・・・娯楽性の低い物を刷りそうな気がするんだよね。
地球の活版印刷で一番最初に刷られたのって聖書じゃない。
こっちの世界に聖書みたいのが有るのかは知らないけど・・・それどころか宗教ってものは有るのかな?
そうゆうの諸々分からないけど、当たり障りの無い物を刷るのが堅実ってもんだしね。
まぁ、聖書みたいのでも、この世界の事をまだまだ知らない私には役立つ本だから歓迎なんだけどね。




