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ヒトデナシ  作者: 影絵師
23/27

【番外編】おお 冒険者よ! 怪物になるとは なさけない…。

pixivでの「“○ラゴン○エスト”みたいなリスポーンが当たり前の世界で、死んでしまった冒険者がモンスターになる話」

剣士→竜人

女魔法使い→鳥人

格闘家→獣人


 正直、今回はクオリティが低いと思います。


 ここは、人の死体が変質した様々な姿の異形――ヒトデナシに支配された世界……

 ではなく、一般的な剣と魔法の世界だ。この世界ではとある概念が存在していた。


 それは“人が死んでも蘇生する”ということだ。


 正確にはこの世界にいる全ての人間ではなく、ギルドに登録されている冒険者達がどのような死因でも、無傷の状態でギルド本部に復活――リスポーン出来るというわけだ。

 なぜ死んだはずの人間が復活出来るかについては未だ解明されてないが、このようなおとぎ話が存在する。


“昔々、人々を困らせる魔物をやっつけるギルドができたばかりの頃、ギルドの一員である冒険者がとある洞窟で見つけたお宝を持って帰り、ギルド本部に置きました。

 すると冒険者達がモンスターに殺されたり事故などで亡くなったのに、元気な状態のその人達がギルド本部に復活しました。

 どうやら、一人の冒険者がギルドに持ってきたお宝に“復活するお祈り”が込められていたようです。

 ギルドの偉い人達はそのお宝を管理し、強いモンスターに何度も蘇る冒険者達を送りつけてやっつけ、貴重な知識を持つ賢者を死なせないようにする等、この今も人類の発達に使われています”


 ……もしも

 もしも、人間が命を尽きたとしても再び蘇られる奇跡に、異世界の“なにか”が関与してしまったら……?




 自分に見合わないクエストを引き受けてしまい、戦死してリスポーンする冒険者が少なくない中、何度も生還してきた冒険者パーティーがいた。


 動きやすい鎧を身に着け、剣で敵を切り裂くリーダー。

 多種多様の魔法を放つ女魔法使い。

 どんなに硬い岩を容易く砕く格闘家。


 ギルドで最も強いというわけではないが、彼らを知らない冒険者はほとんどいない。


 ある時、ギルド本部で引き受けるクエストを選んでいた所を受付嬢に呼ばれ、リーダーは彼女の話を聞いた。女魔法使いと格闘家も聞き手に加わった。


「ソロ行動しているアサシンさんは知りませんか? あなた達のパーティーに加わっていた方ですが……」


 受付嬢の言葉にパーティーの皆は心当たりがある。


 音を発さない身軽な鎧を身に着け、ナイフ一つで害獣の群れを殲滅させた事があるアサシンの男だ。

 パーティーにいた頃は何度も死んではリスポーンを繰り返していたが、パーティーから抜ける寸前は「いつリスポーンしたか忘れちまった」と軽口を言えるほど強くなっていた。

 ちなみにパーティーを抜けた理由は「肉には塩をかけるか、ソースをかけるか」という議論でリーダーと喧嘩し、塩派のアサシンが自ら抜けたのだ。


 そんな過去を思い出しながらも、受付嬢の質問に女魔法使いは首を振った。


「いいえ。あの男とは何度も手を組んだけど、最近会ってないわ」

「そうだな。あいつとは数週間前に同じクエストで出会ったくらいだぜ」


 格闘家も女魔法使いの言葉に頷く。二人の様子を見た受付嬢が考えている様子を見せ、リーダーが声をかける。


「あいつに何かあったのか?」

「実は……アサシンさんがクエスト中に亡くなったのです」


 受付嬢の言葉にパーティーの皆は衝撃を受けた。

 「アサシンが死んでしまったので、もう二度と会えない」という意味ではなく、「実力のあるアサシンがクエスト中に死んだ=失敗した」という意味で驚いているのだ。

 

「……なにかの冗談だろ? あいつ、ナイフだけで騎士と戦えるんだぜ?」

「ギルドでも彼の失敗に驚きを隠せていません。それに……登録されているはずの彼がリスポーンされていないのです」


 受付嬢の最後の言葉にパーティーは驚いた。

 この世界ではギルドに登録されている冒険者は例えどのような死に方でも、ギルド本部に復活――リスポーンする。クエストを失敗したアサシンをからかいながらも慰めに面会しようと考えていたリーダーも、動揺しながら質問した。


「リ、リスポーンされてないって……だったらどうして死んだって分かるんだ? まだあいつが生きてるってこともあるだろ」

「冒険者の皆さんには知らせていないのですが、死んだ冒険者がリスポーンされる前に“命が断った”という信号がギルド本部に送られてくるのです。アサシンさんが死んだという信号が来たので、看病の準備をして待っていたのですが……現在もリスポーンされていません」


 暗い表情の受付嬢の説明に女魔法使いと格闘家は言葉を失った。

 何度も復活してきた冒険者が死んだっきり。このような現象に二人は衝撃を受けていた。

 リーダーも動揺を隠せていないが、アサシンの捜索を自分から引き受けた。


「あいつが死んだのはどこなんだ? 俺達が調べに行ってみる」


――


 アサシンが死んだと思われるフィールドに向かうパーティー。その周辺に生息しているモンスターは弱くはないが、アサシンを殺せるほどではなかった。何故彼が死んだかをリーダーが疑問に思っている時だった。

 一匹のモンスターがパーティーの前に現れた。

 おとぎ話に出てくるエルフやオークなどの亜人を思わせる人の形をした虫だ。そのようなモンスターは実在するはずがないと女魔法使いが驚いていた。

 虫の異形が両腕の爪を擦り合わせて威嚇しているのを目にし、冒険者パーティーは戦闘態勢に入る。格闘家が地面を蹴って虫の異形に迫り、女魔法使いが呪文を唱えようとする。リーダーも動こうとした瞬間だった。

 虫の異形が格闘家の拳を避けると、胴体を一気に切り裂いた。そして女魔法使いに接近し、呪文を唱える彼女の首を一気に裂いた。

 あらゆるモンスターに連勝してきた格闘家と女魔法使いが殺され、残されたのはリーダー一人となった。


――


「落ち着け、俺……相手は虫なんだ」


 容易く殺されてしまった女魔法使いと格闘家の死体が視界に入り込むが、それでも人型の虫から視線を離してはいけない。素早い動きで二人を殺した虫はリーダーを黒い複眼で睨んだきり動かない。なぜ続けて自分を殺さない? じっと立ち止まりながら疑問を感じていたリーダーは、ある知識を思い出す。


 狩りが得意なカマキリとトンボはどんなに素早く動く虫を簡単に捕まえられる。しかし、逆に微動だにしない虫には一切反応できず逃してしまうことがある。


 女魔法使いと格闘家がやられたのは派手な動きをしてしまったからか? 拳と足で敵を打ち砕く格闘家は当然、女魔法使いは攻撃魔法を唱える際の仕草に目をつけられたのか?

 仮説を頭の中で組み立てるリーダーだが、人型の虫が一歩近づいているのに気づいた。とっさに剣を真正面に向けて構えるも、人型の虫は瞬時に迫ることはなく、ただ一歩一歩近寄るだけだった。

 下手に動かなければ反応される事はない。その仮説が正しいと確信すると同時に、人型の虫は自分を見失っている事に気づく。リーダーが立っている場所に周囲を見渡しながら近づいている。

 やがてリーダーの前まで移動してきても、虫の異形は彼に気づく様子がない。リーダーは察知されないよう剣先を虫の異形の鳩尾に向ける。

 そして一気に突いた。胸部を貫かれて虫の異形が腕を振り回して反応するも、リーダーは剣を捻って更にダメージを与えた。

 大きく体を震わせた直後、パタリと倒れる虫の異形。リーダーは警戒を緩めず、剣先で虫の頭部を突っついたが、先程のような反応を見せず四肢を痙攣させているだけだ。


「……皆の仇は取れたぜ」


 全ての息を吐き出すように言葉を上げるリーダー。その時、新たな疑問が頭に浮かんだ。


 なぜ隠密行動が得意はずのアサシンが、こいつに殺されたんだ?


 次の瞬間、倒れたはずの虫の異形がリーダーに飛びかかった。

 左右に開閉する顎が肩に噛みつき、両腕の爪が胴体に突き刺さる。力いっぱい虫を蹴り飛ばすも、牙と爪に食い込まれた肩と胴体が裂かれてしまい大量の血液が噴き出る。それでもリーダーは剣を固く握り、啖呵を切る。


「これで俺を殺せると思ったか、虫野郎ッ! 俺たちは何度も死んできたんだッ!!」


 ギルドに登録されたばかりの頃は簡単な罠に引っかかって死に、弱い敵に油断してしまい死に、酷い時は食中毒で死んだ事もあった。死んではリスポーンを繰り返していくうちに、死への恐怖が薄れていった。

 死に対する恐怖を無くしてはいけないが、ある意味不死身である冒険者が死に恐れるのは本末転倒だ。


「ぶっころ――」


 その言葉を言い切る直前に、まっすぐ迫ってきた虫に喉を爪で貫かれた。刺された状態で地面から持ち上げられたリーダーは未だ握っている剣で虫の頭頂部を叩き切ろうとするが、手の力が抜けて剣を手放してしまう。

 力なく両腕両足を垂らしているリーダーの死体を見上げる虫の異形。自分が切り裂いた女魔法使いと格闘家の死体にも視線を移し、しばらくしてから首を傾げた。まるで“この人間達に見覚えがある”と言わんばかりに。


「よく出来ましたわぁ。今度はこのワタクシにお任せくださいねぇ」


 女性の声に振り向く虫の異形。そこには背中から翼が生え、頭上に光る輪を浮かべる、宙から降りる天使の姿があった。

 三対も生えている翼は腐りかけており、頭上の輪も神経のようなナニカを束ねている感じだった。




 ギルド本部ではなく、薄暗い洞窟の中。

 仰向けで気を失っていたリーダーは両目を開き、上半身を起こす。すぐさま虫の異形に貫かれた首元に手を当てるが、裂傷は全く無かった。戦死してリスポーンする際に受けた傷とダメージは治されるが、殺される寸前の記憶に苦しむ事が多い。


「あの虫野郎……攻撃の動きがアサシンに似た気がする。とにかく、ギルドの連中に知らせを――」


 傷口を確かめるために当てた手を見た瞬間、リーダーは言葉を止めてしまう。


 首元に当てていた手が鱗に覆われていて、指先には鋭い爪が生えている。片方の手も、両腕も同じだ。

 視界の下辺りに自分の鼻が見えるが、何故かいつもより長い気がする。

 尻の上辺りに重い何かがついている気がして、振り向くと長い尾が生えていた。


「な、なんなんだよ……この手は、この体は……?」

「人として死んだから怪物になったのですよぉ。何度も蘇る生物はもはや化け物として生きるべきですわぁ」


 突然の女性の声に竜の異形と化したリーダーは振り向く。

 そこにはシスター服を着た天使が中に浮いていた。しかし、教会に飾られている絵のような神聖らしさはなく、背中から生えている三対の翼が所々腐って骨が露出しており、頭上に浮かんでいる天使の輪も“神経のようなナニカを円状に束ねている”ように見えた。

 そんな生々しい天使モドキを見ていたリーダーは、彼女と自身の身体に嫌悪感を見せなかった。そして虫の異形の正体に気づいた。


「……そうだな。するとあの虫野郎はアサシンだな? あいつ、躊躇わずに俺たちを殺しやがって」


 殺されたにも関わらず愚痴を吐くだけで済むリーダー。リスポーンが当たり前の人間の時からか、異形に変えられた瞬間からかは分からないが、彼の中の死への恐ろしさが麻痺していた。

 背後からの気配に気づいたリーダーが振り向くと、そこには三角帽子を被った鳥の異形と、道着を着た獣の異形が立っていた。その二人が誰なのかはリーダーは瞬時に理解した。彼は驚くことなく対面に喜んだ。


「お前達か! いい身体してるじゃねえか」

「そうね。この身体は軽くて素早く躱せるし、空にも飛べるわ」

「強く大地を蹴れる脚と、獲物を狩れる腕力を持つこの身体と比べると、人間なんぞ弱っちく感じるぜ」


 虫の異形に殺されたはずの女魔法使いと格闘家が、それぞれ羽毛に覆われた鳥の異形と毛皮に覆われた獣の異形に変えられていた。人型ドラゴンとなったリーダーと同じように人間ではなくなった事に嘆く様子がなかった。

 そんな彼らに肉々しい天使が口角を上げる。


「何度も何度も生き返る人は人間ですかねぇ……? 死を恐れなくなったからには、人間性が失われる事を恐れてもらいましょ~」


 人間の姿ではなくなった冒険者パーティーの周囲を、天使は何周も飛びながらそう言った。

 ……正直な所、死んでも復活できることにはスリルが無く飽きてきた。これから死んで化け物になっちまうんだったら楽しめそうだ。他の冒険者共にも教えてやるか。

 何度も死ねる人間として怪物狩りすることに飽きていた冒険者パーティーは、怪物として人間を殺して同胞を増やすことにした。

 武器を携えて人間の街に向かう彼らを見送った歪な天使は笑顔でこう呟いた、脳内に“異形の少女”を思い浮かべながら。


「これで始祖様に褒めてもらえるぅ~♪」




 ギルド本部では、力尽きた冒険者がリスポーンされない現象に悩まされていた。まだ生きている有能な魔術師を集め、原因を解明させようとしていた時だった。

 確認された事のない人型の魔物たちがギルド本部が存在する街に襲撃してきた。その魔物たちの戦い方はリスポーンされていない冒険者のとよく似ていたが、疑問に思う暇もなく次々と殺されていく。


「こ、こんなことになるなんて……」


 ギルド本部のカウンターで受付嬢が全身を震わせながら声を漏らした。

 彼女の視界には情報が全く無い人型のドラゴンが数人の冒険者達を返り討ちしていた。その戦い方はどこか見覚えがあった。

 そんなドラゴンは受付嬢に目をつけて迫っていく、血塗られた剣を片手で握りしめながら。


「……これが、あの世へ行かずに何度もリスポーンしてきた私達への天罰でしょうか」


 諦めの言葉を吐く受付嬢に人型ドラゴンが剣を振り下ろす。殺された彼女がどのような異形に変えられるかはまだ誰も分からない。



 数時間後、ギルド本部が存在する街は人型の魔物――ヒトデナシの街に変えられ、そこから世界中にヒトデナシが拡がることになるのだった。

○レギュラー(になるかもしれない)今回登場のヒトデナシ


名称:変異天使

性別:雌雄同体(竿を生やすことも生やさないことも可能)

人間時:修道女

外見:修道服とベールを纏っている。

一人称:ワタシ

二人称:キサマ、アナタ

好き:異形の娘

嫌い:異形の娘に敵対するもの


 異形の姿

頭:比較的人間のまま。背中までの金髪、三白眼、波線の口が特徴。頭上には神経をリング状に束ねた「天使の輪」が浮かんでおり、目や耳で捉えられないモノを感知できる。

背中:三対の翼が生えているが、至るところが腐り落ちていて骨まで露出している。これでも飛べる。



 異形の娘の手で直接変えられた異形の中で、唯一異形の娘を「始祖」と妄信する狂信者。異形の娘と長く接しているので生きている人間を様々な異形に変えている。しかし、本来は天国を連想する異形に変えることを得意とする。

 宗教のいざこざで処刑される寸前に、異形の娘に気まぐれで助けられる。大昔の人間の妄想かもしれない“神”よりも、実際に自分を助けてくれた異形の娘を妄信するようになる。異形の娘を抱く事も抱かれる事を期待している。

 本来は人間要素が全く無い姿を希望していたが、異形の娘の提案で天使モドキのヒトデナシに変える。


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