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ヒトデナシ  作者: 影絵師
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女剣士

空は灰色の雲に覆われ、雨が降り続く中、1人の女が地面に倒れていた。

 仰向けの状態のその女は若く、まだ20歳を過ぎていないように見える。そんな彼女の黒い長髪は土に汚れており、口からは血が流れ出ている。開いた目から光が消えていく。

 身につけている装甲付きのコートはボロボロで赤く染まっており、すぐそばには血に塗れた刀が落ちていることが、この女は剣士で戦闘で敗れたばかりだと教えてくれる。

 瀕死の彼女にナニカが近づく。人を簡単に超える大きさの狼だ。全身に傷だらけで、女剣士が戦った相手だとわかる。足を引きずる様子はなく、女剣士のそばまで来た狼。

 それまで動かなかったはずの女剣士の腕が少しだけ動き、近くに落ちている刀に伸ばす。しかし、狼に前足で踏まれて刀を掴むことが出来なかった。虚ろな目で狼を見上げ、口をパクパクと動かすが声は上げられなかった。

 狼は気に留めず、口を開く。鋭く大きい牙がずらりと並んでいる。その顎で動かない女剣士の首を挟み、そして……


 折れる音が雨音に混じって響いた。


 黒髪の女剣士は首を折られて絶命した。首元に歯形ができ、そこから大量の血が流れ出る。狼はしばらく彼女の遺体を見下ろしたあと、その場を離れていった。

 残されたのは無残な死体と、持っていた刀だけだ。


 ……

 …………

 ……………………

 

 女剣士と狼の戦いから時間が経ち、それでも雨は未だ降り注ぐ。

 雨に打たれ続けていた女剣士の死体。狼に首を折られて一生を終えてしまった。


 人間としての一生を。


 両手に力を込め、上半身を懸命に起こす。近くに落ちている自分の刀を掴み、地面に刺して支えとして使い、体中の痛みを堪えながら立ち上がる。刀を杖代わりに体を支えながら深呼吸したその時、足元の水たまりに映る自分と目があった。


 そこにいたのは自分だ。人間ではない自分だ。


 口と鼻が前に突き出ているマズル、鼻を境目に上が灰色で下が白色の毛、黒く長い髪から生えている鋭い三角耳、まるで狼の頭を被っているようだ。

 気がつけば刀を掴んでいる両手も毛に覆われており、指の先端から鋭い鉤爪が生えている。後ろを向いて見下ろせば、腰から毛に覆われた尾が伸びている。

 女剣士は自分が人間から狼の獣人になっていることに理解した。

 ……別に驚きはしない。この世界の怪物の多くは元人間であり、怪物に殺された人間は怪物として蘇る。刀の修行中に学んできたことだ。怪物になっても自我を失わないよう精神の修行もしており、そのおかげで今も自分を保っていられる。

 狼のヒトデナシとして蘇った女剣士がやるべきことは唯一つ。



 あの狼を狩り、雪辱を果たす。

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