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ヒトデナシ  作者: 影絵師
19/27

狼として人食にハマった幼馴染に誘われた私

ドラケンさんからのリクエストです。


ざっくり内容

・女主人公の前に四足狼♀になった幼馴染(女)が現れる。

・幼馴染が女主人公を殺して、二足狼♀に変える

・幼馴染「人肉はいいよー、とっても美味しいよー」

・女主人公「人間のお肉サイッコー! もっと食べたい!」

・二人が住んでいた町へ狩りに出かける。


 キッチンで調理し終えた私は、お盆に料理を載せて食卓に向かった。

 お昼の献立は味気のない雑穀のお粥、小さい野菜のサラダしかない。以前は肉も普通に食べられたが、異形・獣化病による元人間の怪物が彷徨くようになったため、野外へ狩りに行くことも出来ず、食料品を売る商人も町に来れない。

 良く言えば質素、悪く言えば貧乏くさい食べ物に匙を伸ばす私。すくったお粥を口に運び、何度も噛みしめるも味がしない。それでも生きるために私は無言で食べ続けた。


“もう! こんなんじゃ、お腹いっぱいにならないよ!”


 そう聞こえた気がして、ふと向かい側の席に目を向けた。私と同じ料理があるその席には、誰も座っていなかった。この席には私の理解者でもあり、無音の食事を賑やかにしてくれる幼馴染の女の子が座っているはずだった。


 彼女はよく食べる子であり、不機嫌なことがあっても満足する程食べ続ければ機嫌が直るほど食べ物大好きだった。しかし、異形病が大流行したことで、普段の食材が入って来なくなってしまい、質素になった食事に幼馴染は満足できなくなってしまった。

 それでも我慢してくれたが、ある日、「町の外で食べ物を探す」と言って出ていってしまった。私を含んだ多くの人達は心配していたが、「文句を言いまくるアマが消えて、いい口減らしになった」と貶す人間もいた。私はその言葉に怒りを感じながらも、取り消させるほどの勇気と実力がなかった。

 幼馴染が町を出てから数日が経っても帰ってこないあまり、「事故にあってしまったのか」「それとも醜い異形に変えられてしまったのか」というこみ上げてくる不安を必死に払いながら、彼女の無事を祈るしかなかった。




 その夜、町に近い農家から僅かな雑穀と野菜を買った私は、急いで帰路を走った。騎士団の残党に守られている町の近くとはいえ、暗いところにいるのは危険だ。町の門にたどり着けば安全だ。

 雑穀と野菜が入った袋を左手に持ち、松明で辺りを照らしながら速歩きしていた。その時、目の前から何かの咀嚼音が聞こえ、私は立ち止まった。だが、運悪く咀嚼音を発している何かを照らせる程の距離まで縮まっていた。

 狼のような四足歩行の獣が倒れている何かに顔を近づけていた。人間だ。骨や内臓が露出しているが、間違いなく人間の死体だ。その死体を食べていた狼が明かりに気づき、ゆっくりと顔を私の方に向いた。

 その狼は何故か、長い髪が生えていた。単なる狼とは思えない異形に私の体が震えていた。


 殺される


 そう頭に浮かび、逃げ出そうとした。しかし、いつの間にか飛びかかった狼に肩を押さえつけられ、地面に押し倒されてしまった。その狼は私に何度も吠えたような気がしたが、食い殺されるかもしれない私の頭は恐怖で覆い尽くされていた。


「い、いやあっ! 食べないでっ! 殺さないでぇぇっ!」

 狼はまだ私に吠えていた。

「誰か! 誰か助けてぇぇぇ!」

 狼は苛立った様子で私を見下ろしていた。

「お願い、助け――」


 その先の言葉を私は発せられなかった。喉元が狼の牙に貫かれてしまい、一気に食いちぎられてしまったからだ。喉を裂かれた激痛、呼吸管から空気が漏れる息苦しさ、口から吐いた血の味、そんな感覚を感じながら私は死んでいった。

 でも、この世界の理不尽な仕組みで私は変えられていく…… 


 肉体が再生されていき、食いちぎられた喉が塞がれていく。直後に毛皮が生えて全身に広がっていった。

 獲物を狩れる爪が生えた手。

 地面を強く駆け出せる獣の脚。

 腰から毛に覆われた尾が生えてくる。

 頭も骨格ごと変化していき、口吻と三角耳が特徴の狼の頭になった。


 痛みを伴う変化を終え、口に残った血を吐き出した私は体を起こした。そして、狼に殺される記憶が蘇り、恐る恐る自分の手を見つめた。松明の火は消えていたが、狼女に変化したことで夜目が利くようになり、獣のように変化した両手を見れてしまった。

 その時の私はこう呟くしか出来なかった。


「嘘……」

「ほんと♪」


 幼馴染の声を久しぶり聞き、周囲を見渡した。長髪を生やした四足の狼が私の視界に入った。即座に地面を蹴って、自分を殺した存在から距離を取った私は無意識に威嚇した。


「もう、せっかくの再会なんだから」


 目の前の狼が幼馴染の声を発していた。……「異形になっている」という不安が的中してしまったようだ。


「そんな……無事でいればと祈ったのに……」

「あたしもそんなネガティブな感じだったよ。食べ物を探しに行ったら狼の怪物に殺され、人間じゃなくなったしね。でもね……」


 四足で私に近寄る幼馴染は笑みを浮かべた。


「人間に助けを求めようとしたらね、そいつから美味しそうな匂いがしたんだもん。でね、その人間を殺して肉を食べてみたら、ほんっとうに美味しかったんだよ!」


 笑顔で言い放った言葉に私は不気味に思った。幼馴染が狼の異形に変えられ、人間を食い殺して美味しいと言い放つなんて……


「あなたにも美味しいのを食べさせたくって誘ってみたけど、あたしの言葉を理解できなかったからイライラしたんだ。そしたら『同じ存在になればわかるかもしれない』って思いついて、あなたを殺して狼に変えたわけ♪」

「……そのために私を殺して怪物に蘇らせたわけなの?」


 この狼は確かに幼馴染の声で話している。でも、その幼馴染が人間を食い殺すだけでなく、人食に誘うためだけに私を殺した? 

 幼馴染とは思えない狼から後ずさる私。すると、彼女は何かを咥えてこっちに投げてきた。

 

 それは彼女が食べていた人間の腕……オイシソウ、イイニオイ、タベタイ……


 抑えきれず、人肉を掴んで口吻に近づける。牙で噛み千切り、奥歯で咀嚼する。生肉なのに焼いた肉みたいな味が舌に広がる。口内にある肉を飲み込んでは、また人間の腕を噛み付く。

 私は何も考えず食べ続けた。幼馴染が私に声をかけた。


「これでわかった? お腹いっぱいにならない雑穀や野菜を食べる必要なんかない。牛や豚なんかよりウスノロな人間を食えば幸せ。そして……」


 彼女の視線の先を追う私。そこにある“なにか”を見て、私は思わず笑みを浮かべた。




「あの町にはたっくさんいるってこと。人間の殺し方は先輩のあたしが教えてあげるわ♪」









 

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